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誰のために鐘はなる?  作者: たゆたうよ
第一部 目覚めの鐘
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第九章 第4の挑戦・後編

壁際を滑るように進みながら、シズハは目を細めた。


(ここから先——“空気が動いてない”)


空調の流れが止まっている。

静止域。

そこは、音が最もよく響く空間。

わずかな摩擦音さえも、空間に残響として伝わる場所。

だからこそ、設置される。最も繊細な感知センサーが。


(反響が“跳ねる”。……この先は、壁で方向を読め)


彼女は一歩手前で止まり、右の壁に手を添えた。

金属の冷たさ。

だが、その奥に“振動”がある。

床と壁が、わずかに共鳴している。


(足元の板……中心が空洞。左右の端が厚い)


真ん中を踏めば沈む。けれど、板の“縁”——そこだけは構造が違う。

反射も違う。音も違う。


(なら……踏むのは、ここ)


彼女は身体を傾け、板の端ぎりぎりに爪先を落とした。


無音。


床が沈まない。音もしない。

成功——だが、油断はできない。

次の一歩。さらに次の一歩。


(壁際の模様……変わってる。床のラインが、斜めに曲がってる)


まっすぐ進めば、罠。

曲がったラインに沿って進めば、安全。

そんな“仕掛け”に見える。が、それすら囮かもしれない。


(いや、これは逆。あえて不自然にして、“誘ってない”ように見せてる)


その先に見えたのは、かすかな光。


(ゴール……?)


だが、まだ信用できない。

床の模様。風の流れ。壁の鳴り。

彼女は全感覚を駆使して、その空間を読む。


(この先……罠は、ない)


確信に変わる“静けさ”。

それは、空間が彼女の行動を“諦めた”音だった。

もはや誘導も干渉もなく、ただ“見届けている”だけの空気。


(……終わる)


最後の一歩を踏み出す。


その瞬間——


何も起きなかった。

鐘も鳴らない。崩れもしない。警告もない。


ただ、視界がふわりと白く染まり、音も光も、空気すらも——

静かに、優しく、ほどけていった。


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