第五章 再現する記憶、誘う罠
(間違いなく、あそこを踏んだ——)
シズハは瞳を細め、視界を一点に集中させた。
床に走る接合線。
あの沈んだタイルの記憶が、脳内で鮮やかに浮かび上がる。
今の彼女には、その記憶が“確かに残っている”。
歩幅も角度も、踏み込みの位置も、すべて脳内で再構成している。
(前回のルートを完璧に再現する。あれさえ踏まなければ、突破できる)
恐怖を封じるように、自らに言い聞かせた。
呼吸を静め、足を運ぶ。
確信こそが、罠だった。
七歩目。
足を下ろした瞬間、重心がわずかに崩れた。
沈む。
(なっ……!?)
足裏が微かに落ち込んだ。
記憶にはない、異物のような感触。
そして——
カツン。
金属の鳴き音。機械的で、冷酷で、容赦のない告知音。
(おかしい……あの罠の床は、前は六歩目にあった……!)
数センチ。ほんのそれだけ。
それだけのズレが、彼女のすべてを打ち砕いた。
次の瞬間、空間が応答する。
ゴォォォォォン……!!
まただ。
視界の端がひび割れ、壁が崩れる。
足元の床が液体のように沈んでいく。
光が乱れ、記録の文字が走る。
「動作パターン一致」
「空間構造:更新済」
「判定:失敗」
「挑戦回数:4へ移行」
(……どうして……!?)
シズハは、崩れていく視界のなかで思考する。
記憶は正しかった。あの罠は避けたはずだった。
だが空間は、確実に配置を変えていた。
(この空間、同じじゃない……!)
視界の白が彼女を包む直前、壁面に浮かんだ床のパネルラインが——
前回より数センチ、前へずれていたことに気づいた。
完璧に記憶しても、それが通じない世界。
その冷酷さに、初めてシズハの心が小さく軋んだ。
一歩。
二歩。
間隔は変えない。重心も前と同じに。
三歩目——
(ここで、右へ軽く流して——)
五歩目。
(……そろそろ沈む床があった。だから、ここは——一歩分、ズラす)
六歩目。息を止めて通過。
足裏に力を込める。
沈まない。反応はない。
(……やった。回避できた)
彼女は確信し始めていた。
この空間は、記憶を基に戦略を立てれば、読み切れる。
——だが、その確信こそが、罠だった。
七歩目。
足を下ろした瞬間、重心がわずかに崩れた。
沈む。
(なっ……!?)
足裏が微かに落ち込んだ。
記憶にはない、異物のような感触。
そして——
カツン。
金属の鳴き音。機械的で、冷酷で、容赦のない告知音。
(おかしい……あの罠の床は、前は六歩目にあった……!)
床一枚分。それだけのズレ。
それだけで、すべてが崩される。
次の瞬間、空間が応答する。
ゴォォォォォン……!!
まただ。
視界の端がひび割れ、壁が崩れる。
足元の床が液体のように沈んでいく。
光が乱れ、記録の文字が走る。
「動作パターン一致」
「空間構造:更新済」
「判定:失敗」
「挑戦回数:4へ移行」
(……どうして……!?)
シズハは、崩れていく視界のなかで思考する。
記憶は正しかった。あの罠は避けたはずだった。
だが空間は、確実に配置を変えていた。
(この空間、同じじゃない……!)
視界の白が彼女を包む直前、壁面に浮かんだ床のパネルラインが——
前回より床一枚分、前へずれていたことに気づいた。
完璧に記憶しても、それが通じない世界。
その冷酷さに、初めてシズハの心が小さく軋んだ。