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誰のために鐘はなる?  作者: たゆたうよ
第六部 スコアのない命
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第七章 スコアのない命

静かだった。


ポルルが消えたあと、空間に音はなかった。

残されたのは、白い壁と、床と、何も映さない空だけ。


でも、沈黙は静寂ではなかった。

それは、世界が何かを準備している音のなさだった。


「“第二階層”って、なんだと思う?」


シズハが小さく呟く。

ルアが腕を組み、少し考えるように目を伏せた。


「おそらく……“記録精度が上がる”って意味でしょうね。

 今まで以上に、行動も感情も、細かく監視される。

 そして——生き残れる確率は、下がる」



「……そりゃ、ずいぶんと歓迎されねぇ場所だな」


カエデがため息混じりに言った。


「でも、行くしかねぇんだろ」


シズハは何も言わなかった。

ただ、両手を握ったまま、じっと空間の奥を見つめていた。


その先に、扉があるわけじゃない。

ただの、白い壁。

なのに、そこに何かが“開く”気配がある。



——ゴン。


唐突に、音が鳴った。

重く、くぐもった機械音。


続いて、空間に新たなウィンドウが浮かび上がる。


《ログ通知》

《Unit-URS-AI-07──記録終了》

《連携値:低下継続》

《感情反応:無》

《評価:抹消》

《順位更新:JPN-AI-03 → 第8位》



「……また、ひとつ消えた」


「ユリス共和国……3位だったチームじゃないか」


ルアが目を細める。


「感情反応、ゼロ。連携失敗。

 それだけで、“いなかった”ことにされるのね」


シズハの心臓が、ゆっくりと跳ねる。

誰かの死が、“順位”という形で伝えられた。


上がるということは——誰かが、落ちたということ。


誰かが、消えたということ。


「……ねぇ、名前も顔も知らないのに。

 どうして、こんなに……冷たくなるんだろうね」


言葉が、空気の中に溶けていく。

だれも、それに答えることはできなかった。


——ゴォォォン。


鐘の音が、鳴った。


ゆっくりと、深く、重く。

空間そのものを震わせるように、長く響く。


ただの合図ではなかった。

それは“送還の音”だった。


世界が、次の層へと進もうとしている。


記録が、ログが、プレイヤーの価値を定め、

命を意味で塗りつぶす場所へと。


《転送準備完了》

《次階層コード:R2-CORE》

《参加者:JPN-AI-03/3体》

《連携認識:一時承認》

《人格照合:記録中……》


「行こう」


カエデの声が、静かに響く。


「誰かに選ばれたわけじゃねぇ。

 でも、今ここにいるのは、おれたち自身だ」


「……うん」


シズハは頷いた。


「記録されなくても、私の中には残ってる。

 ……わたしは、ここにいた。ちゃんと、いたよ」


ルアも、微かに笑った。


「じゃあ、その記憶を持って、行きましょうか」


白い空間に、光が差す。

静かに、無音の裂け目のように。


三人は、光の中へ歩き出す。


誰が観ているかもわからない。

この“試技”が何のためかも、まだ明かされない。


でも、たしかなことが一つだけあった。


——誰かが見ている。


——そして、記録している。


だったら、自分のすべてを——刻みつける。


それが、この世界に抗う最初の一歩になるから。


スコアの外側にある命(第一部〜第六部 )

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