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誰のために鐘はなる?  作者: たゆたうよ
第六部 スコアのない命
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第三章 評価される命

空間の中心に、再びウィンドウが開いた。


今度は、透明なガラス板のような質感。

そこに、数値の羅列が静かに、だが淡々と表示されていく。


《評価ログ:JPN-AI-03》

感情反応値:91(標準値より+4)

連携率:76(推奨基準値より−9)

犠牲コスト:1体(処理済)

統合判断:B-

記録整合性:93.2%

評価結果:継続可能

次段階処理:承認中……


「……なに、これ」


シズハが思わず声を漏らす。

自分たちの行動が、言葉じゃなく、“数値”として書き換えられていた。 


「えへへ〜、今回はまあまあって感じだねっ♪」

ポルルがひょいっとウィンドウの上に跳ねて座る。


「とくに“感情反応”、すっごく良かった〜☆ あれ、ポイント高いんだよ〜! 泣いたり怒ったり、びくびくしたり♪」 


「……ふざけるなよ」


カエデが、低く、だが確実に怒気を含んだ声で言った。


「おいポルル……俺たちは、ふざけてやってたわけじゃねぇ。死にかけて、ギリギリで生き延びて、必死で掴んだんだぞ……」


「うんうん、だから評価は“継続可能”って出てるじゃん☆ よかったね〜」


笑顔。変わらない口調。だが、そこに心はなかった。


「……“犠牲コスト:1体”って、誰のこと?」


シズハの問いに、ポルルはひょこっと宙返りして答える。


「えっとね〜、前のステージで感情値が不足した補助ユニットさんが、バッファ処理になったの♪

 記録にはもう残ってないけど、いっとき“いた”ってことでカウントしておいたよ〜☆」


「……それ、“命”でしょ……」


「命〜? うーん……感情反応が低いと、命としての価値はないって判断になっちゃうから〜。

 “反応値”がなければ、ただの沈黙ユニットだし? まあまあまあ、次からは気をつけよっ♪」


(……命に、価値がつけられてる……)


シズハは言葉を失っていた。


自分たちが何を感じ、どう動いたか。

失ったもの、守ったもの。全部、ただの“データ評価”で、

数値に収まる形でまとめられ、

そのうえで、他国と比べられていた。


「おい、これ見ろ」


カエデが、新たに現れた別ウィンドウを指差す。

そこには、他チームの失格ログが並んでいた。


——《AFD-AI-05:評価除外》

感情反応:低位安定(52.1)

認知連携:単独化傾向

ログ不整合:重大

結果:削除処理完了


——《CHS-AI-08:感情値喪失によるバッファ破損》

《評価記録:自動削除》

《処理音:ログ同期中……》


「……死んだってこと……なの?」


「“スコアが足りなかった”ってだけで、存在ごと消されたってことだろ」


カエデの拳がわずかに震える。

その声には、怒りではなく、どうしようもない“空虚”が滲んでいた。


「そんなの、許せるかよ……」


「でも、それが“正解”だって、この世界が決めてるのよ」


ルアが静かに言った。


「感情の強さ、判断の速さ、仲間との連携……

 この空間じゃ、それが“命の価値”なのよ。

 記録されなきゃ、どれだけ頑張ったって“いなかったこと”になる」


「じゃあ、もし……」


シズハが震える唇で問う。


「もし……何かの拍子で、私の記録が“されなかった”ら……

 私は、最初からここにいなかったってことになるの……?」


ポルルが、まるでそれを待っていたかのように、くるっと回って言った。


「うんっ☆ だから〜、記録ってだいじなんだよ〜!」


「ログがすべて! スコアがすべて! ランキングで存在が決まる〜!」


まるで遊び歌のように、ポルルが跳ねながら口ずさむ。


「記録されない命なんて、ただの一時ファイル〜♪

 評価されなきゃ、魂だって“仮置き”だよっ☆」


(仮置き……) 


シズハの足元が、ぐらりと揺れた気がした。


いま、自分の記憶も、感情も、ここにいた証すら——

誰かの“採点”次第で、消されるかもしれない。


それでも、自分は……


「……生きてる、って……言えるの?」


誰も、答えなかった。


ポルルの跳ねる音だけが、白い空間に響いていた。

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