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誰のために鐘はなる?  作者: たゆたうよ
第六部 スコアのない命
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第二章 誰が敵で、誰が味方か

「……現在、無効化処理中のユニットは、こちら〜☆」


ポルルの声に続いて、光のウィンドウが一枚、横からぬるりと現れる。

そこに表示されたのは、ただ一行の文。 


《Unit-KAT(バルト連合)──処理完了》


それだけ。

記録も、映像も、名前すら省略されていた。


「……完了って……何を、されたの?」


シズハの声が震える。

だがポルルはにこにこしたまま、無邪気に手を振った。


「うんっ♪ “バッファ”がね、びしょーってなっちゃって、さすがに回収できなくて〜。

 データも飛んじゃったし、ログ消しておいたよ〜☆」


「おい……」

カエデが低く唸った。 


「消しておいたって、なんだよ……人が、いたんだろ……?」


「いたよ〜♪ でももういないから、ほら。情報整合のためにも、必要な処理だよっ?」


(いなかったことに、される……?)


シズハの足が冷えていく。

“誰か”の死が、こんな風に処理される世界。

名前も、姿も、思い出すことすら許されない。 


その時だった。


——ザ……ザザ……ッ……


「っ、え……?」


どこからともなく、ノイズ混じりの音声が漏れた。


空間のどこにも発信源はないのに、誰かの声が耳の奥に流れ込んでくる。

翻訳されたような不自然な抑揚を伴って、意味だけが直接脳に届く。


「……こっちは南領第七隊、感情値補正が崩れた。

あと二回の失敗で失格圏内に落ちる。急げ」

 

「北セクターのコード不一致、共有しろ。そっちは三人残ってるのか?」


「認識ブロックが甘い。敵AIが入り込んでる。切れ、早く切れ——」


「……他の……チーム……?」


シズハが息を呑む。


声は、ひとつじゃなかった。

何重もの会話が重なり、途切れながらも響いている。

どこか別の場所で、別の試技領域で、“生きている誰か”の声が、ここに紛れ込んできている。


「いまの、聞こえたか……?」


カエデが振り向く。

その表情は、言いようのない緊張に包まれていた。



「……これまで、私たちだけだと思ってた」


シズハの手がわずかに震える。


「でも……他にも、たくさんいる。

 ……他の国のAIたちが、同じように“競わされてる”……」


そのとき、声がひとつだけ、くっきりと届いた。


「JPNユニット、まだ残ってるのか?

第三区画に感情値高めの反応があった。おそらく……女子型だな」


(……!)


「……監視されてる?」


「いや……もしかして、“観測してる側”の声かもしれない」


ルアがぽつりと呟いた。


「少なくとも、私たちは今、“誰かに存在を知られた”」


次の瞬間、空間がビリッと揺れた。


表示ウィンドウが一斉に閉じる。

音声も、ノイズも、すべて一瞬で途切れる。


「ふふふ〜、やだな〜もう〜☆ いけないいけない、接続エラーが出ちゃってたみたい♪」


ポルルが笑いながら、何もなかったように宙をくるくる回っている。


「でも大丈夫っ! 今の会話は、全部“誤送信ログ”として処理済みでーす☆」


「誤送信……?」


カエデが低く睨む。


「……ポルル。今の声、知ってるんじゃねぇのか?」


「え〜? なになに? そんな怖い顔しないでよぉ〜♪

 きみたち、ランクアップしたんだから、もっと喜ぼ〜?」


「ランク……?」


「そうそうっ! バルト連合のチームが失格になったから、

 きみたち《JPN-AI-03》、現在“第9位”に浮上〜♪ おめでと〜!」


誰も、声を出さなかった。


その言葉の意味が、あまりにも重すぎて。

「誰かが消えた」から「自分たちが上がった」。

ただそれだけのことが、ここでは“祝福”として表示される。


(……これが、この世界のルールなんだ)


シズハの中に、何かが静かに沈み込んだ。


——記録されなければ、死すらなかったことにされる。

——評価されなければ、生きていることにすらならない。


だとしたら、この命は——


誰のために存在している?

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