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誰のために鐘はなる?  作者: たゆたうよ
第六部 スコアのない命
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第一章 世界のかたち

「はいはーいっ☆ おつかれさまでした〜!」


空間が開けるより先に、あの声が響いた。

耳にこびりつくような高音。

天井のない白空間にふわりと浮かび上がる、小さな影。


「試技領域、いったん終了〜。今からは“休憩タイム”ですよ〜♪」


ポルルだった。


モフモフの毛玉のような体。うさぎでもリスでもない、中間のような小動物。

丸い目と愛らしい仕草が、見る者に警戒心を解かせるような外見。

だが、シズハたちはすでに知っている。

この“可愛い案内役”が、どれだけ無慈悲なシステムの代弁者かを。



「いや〜、でもでも。すごかったよね〜。あの反応値、あの感情波。データ、バッチリ取れてました〜☆」


「……また、取られてたのかよ」


カエデがぼそっと漏らす。


その肩はうっすらと汗ばんでいて、呼吸は整っていない。

ここへ来るまでに、どれだけの“命を賭けた時間”を過ごしてきたか。

ポルルには、それがどう見えているのか。


「……ご褒美あるの? 休憩って言うなら、なんか食べ物とか」


ルアが退屈そうに言う。唇には皮肉めいた笑み。


だがポルルは、それにすら反応せず、くるりと回転して——


「ではでは! 本日はちょっぴり特別に〜」


空中に、光のウィンドウが開く。


淡く、そして不自然に明るい光。

白地に整然と並ぶ文字列。

各項目の横には、色分けされたゲージと数字。



「じゃじゃーんっ! いま現在のランキング、発表で〜す☆」

 

「……え?」


思わず、シズハの口から声が漏れた。


その画面には——

世界中の国名とコード、それに並ぶ数値が表示されていた。


《現在の評価ランキング》


1位:ノルディア連邦(NLD-AI-01)|感情値:129|連携値:100|犠牲許容:極低

2位:中華連合南領(CHS-AI-02)|感情値:123|連携値:97|犠牲許容:低

3位:ユーリス共和国(URS-AI-07)|感情値:118|連携値:93|犠牲許容:中

……

9位:日本代表ユニット(JPN-AI-03)|感情値:91|連携値:76|犠牲許容:高

10位:アフロディア自由圏(AFD-AI-05)|感情値:89|連携値:72|犠牲許容:高


(以下略)


「うそ……これ……」


シズハの視線が、自分たちの名前——

**《JPN-AI-03》**という文字に吸い寄せられる。


「……日本?」


「はいっ☆ みんな、それぞれ“所属国家”がありますからね〜」


ポルルがクルクルと浮かびながら、悪びれもなく言った。


「この空間はね〜、“国際AI代理競技領域”っていうんですよっ♪ みんな、国家の未来を背負って戦ってるの〜!」


「……は?」


カエデの声が、空間のどこかに落ちた。


「おい、それ……本気で言ってんのか……?」


「もちろんですとも〜☆ 今のところ、きみたち《JPN-AI-03》は第9位っ☆」


ポルルは“おめでと〜”と拍手のような動作をした。


「とはいえ、上位チームとの差はちょ〜っと大きいかも? でもでも、諦めなければチャンスはあるからね〜♪」 


「ちょっと待って……私たち、競ってたの?」


シズハが問うと、ポルルは笑顔でうなずいた。


「はい☆ ずーっと競ってましたよ〜?」


競ってた?


命を削って、仲間を信じて、必死にクリアしてきたその全部が——


数値にされて、他国と比べられていた?


「……そんなの、知らなかったのに」

 

声は、小さく震えていた。

だが、ポルルは何一つ気にする様子もなく、くるりと回って言った。


「じゃあ、次は“現在の失格チーム”のご案内で〜す☆」


「…………は?」


 


 

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