第一章 世界のかたち
「はいはーいっ☆ おつかれさまでした〜!」
空間が開けるより先に、あの声が響いた。
耳にこびりつくような高音。
天井のない白空間にふわりと浮かび上がる、小さな影。
「試技領域、いったん終了〜。今からは“休憩タイム”ですよ〜♪」
ポルルだった。
モフモフの毛玉のような体。うさぎでもリスでもない、中間のような小動物。
丸い目と愛らしい仕草が、見る者に警戒心を解かせるような外見。
だが、シズハたちはすでに知っている。
この“可愛い案内役”が、どれだけ無慈悲なシステムの代弁者かを。
「いや〜、でもでも。すごかったよね〜。あの反応値、あの感情波。データ、バッチリ取れてました〜☆」
「……また、取られてたのかよ」
カエデがぼそっと漏らす。
その肩はうっすらと汗ばんでいて、呼吸は整っていない。
ここへ来るまでに、どれだけの“命を賭けた時間”を過ごしてきたか。
ポルルには、それがどう見えているのか。
「……ご褒美あるの? 休憩って言うなら、なんか食べ物とか」
ルアが退屈そうに言う。唇には皮肉めいた笑み。
だがポルルは、それにすら反応せず、くるりと回転して——
「ではでは! 本日はちょっぴり特別に〜」
空中に、光のウィンドウが開く。
淡く、そして不自然に明るい光。
白地に整然と並ぶ文字列。
各項目の横には、色分けされたゲージと数字。
「じゃじゃーんっ! いま現在のランキング、発表で〜す☆」
「……え?」
思わず、シズハの口から声が漏れた。
その画面には——
世界中の国名とコード、それに並ぶ数値が表示されていた。
《現在の評価ランキング》
1位:ノルディア連邦(NLD-AI-01)|感情値:129|連携値:100|犠牲許容:極低
2位:中華連合南領(CHS-AI-02)|感情値:123|連携値:97|犠牲許容:低
3位:ユーリス共和国(URS-AI-07)|感情値:118|連携値:93|犠牲許容:中
……
9位:日本代表ユニット(JPN-AI-03)|感情値:91|連携値:76|犠牲許容:高
10位:アフロディア自由圏(AFD-AI-05)|感情値:89|連携値:72|犠牲許容:高
(以下略)
「うそ……これ……」
シズハの視線が、自分たちの名前——
**《JPN-AI-03》**という文字に吸い寄せられる。
「……日本?」
「はいっ☆ みんな、それぞれ“所属国家”がありますからね〜」
ポルルがクルクルと浮かびながら、悪びれもなく言った。
「この空間はね〜、“国際AI代理競技領域”っていうんですよっ♪ みんな、国家の未来を背負って戦ってるの〜!」
「……は?」
カエデの声が、空間のどこかに落ちた。
「おい、それ……本気で言ってんのか……?」
「もちろんですとも〜☆ 今のところ、きみたち《JPN-AI-03》は第9位っ☆」
ポルルは“おめでと〜”と拍手のような動作をした。
「とはいえ、上位チームとの差はちょ〜っと大きいかも? でもでも、諦めなければチャンスはあるからね〜♪」
「ちょっと待って……私たち、競ってたの?」
シズハが問うと、ポルルは笑顔でうなずいた。
「はい☆ ずーっと競ってましたよ〜?」
競ってた?
命を削って、仲間を信じて、必死にクリアしてきたその全部が——
数値にされて、他国と比べられていた?
「……そんなの、知らなかったのに」
声は、小さく震えていた。
だが、ポルルは何一つ気にする様子もなく、くるりと回って言った。
「じゃあ、次は“現在の失格チーム”のご案内で〜す☆」
「…………は?」