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第五章 火が静かに、夜が包む
問いは尽きた。
だけど、答えは出なかった。
焚き火の音が、ふたたび空間を支配する。
「……そろそろ、寝ようか」
シズハが空を見上げながら言った。 星が、誰にも届かない高さでまたたいていた。
ルアが「ふふ、じゃあおやすみ」と笑い、テントに引っ込む。
カエデがシズハを見た。
「なあ、シズハ。もしこの先——記録も、記憶も、全部曖昧になったとしても。
俺は、お前といたって、覚えてるから」
「……ほんとに、そんなの……記録されなくても、残るのかな」
「記録なんかより、俺の“実感”のほうが強ぇよ。
俺が見てた、お前の顔も、動きも、声も。
……忘れるわけない」
シズハのまぶたが震える。
「……ありがとう。
わたしも……忘れない」
(たとえ、ログから消されたとしても。
たとえ、評価に値しなかったとしても。
この焚き火の音だけは、きっと、覚えてる)
火が、静かに燃えていた。 その音を最後に、世界がゆっくりと暗転していく。
次のミッションが始まる、その直前の静けさのなかで——
(わたしの“記憶”が試されるとしても。 この夜だけは、わたしのものだと——信じたい)