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第二章 火を囲む
テントに腰を下ろし、焚き火を囲むように全員が座った。
温かいスープの香りが立ち上る。
「なあ、思い出さないか? 最初のミッション……」
カエデがつぶやいた。
“音を立てるな”。あの沈黙の空間。 罠に満ちた床。響き渡る鐘。
「あの時の記録、俺のほうには“単独行動”って書かれてた。だけど、俺はお前と一緒に戦ったつもりだった」
「……わたしの記録には、ちゃんと“カエデと共闘”って残ってたよ」
「じゃあ、どっちが“正しい”んだ?」
言葉が沈黙を呼ぶ。 焚き火の火が、ぱちぱちと音を立てた。
「……そもそも、誰が記録してるの?」
シズハの声が、夜に溶けた。
(“記録”ってなんなの? あの“草原の記憶”と同じ……誰かが見たものだけを、正しいって決めてる)
ルアが目を伏せて、呟くように言った。
「たとえば、私がここで“泣いた”として……でもそれが記録されなかったら、私は泣いてないことになる。そういう世界」
「……それ、ひどい話だな」
カエデがぼそりと返す。
(でも、私も……最初は“あの音”に泣きそうだった。誰にも見られてないって、確信があったから耐えられたんだ)