第二章 たべることが正解
いくつ目のおやつだったか、もうわからなくなっていた。
最初は蒸しパンだった。
次にゼリー。マカロン、フィナンシェ、バタークッキー──
見たこともない形のお菓子もあった。
出されたら、食べる。
それだけで、表示は静かに更新される。
《観測中……》
誰も怒られない。咎められない。失敗の警告も鳴らない。
ただ、次が出る。
無音で、無感情に。
空間の床がほんの少し隆起し、白いテーブルがまたひとつ生まれる。
「……これ、何種類目だ?」
カエデが、少し疲れた声で言った。
目の前のテーブルには、白くて小さなスフレが3つ。
ふわりと甘い香りが漂い、空間に淡く溶けていく。
「さすがに、ちょっと飽きてきたわね」
ルアがゼリーのスプーンを置き、スフレを眺めるだけにとどめた。
けれど、手は伸ばす。
そして、食べる。
それが、“ミッションの続行”に必要だと、もう誰も疑っていなかった。
「……これって、“仲良く”って意味、そういうことなんだよね?」
シズハの問いかけに、誰も明確に答えなかった。
でも、出されたものは残せない。
誰かひとりでも手をつけなければ、空間は動かない。
そう思い込んでいた。
次。
また次。
フィナンシェ、キャンディ、薄い焼き煎餅。
甘いものの合間に、塩味のものが混じるようになった。
空間には変化がなかった。
ただ、胃の中に積もっていく疲れだけが、じわじわと重なっていった。
「……ねえ」
シズハがぽつりと口を開いた。
「このまま、“ずっと”なのかな……?」
誰も返さなかった。
空間上には、変わらず白文字が浮かんでいる。
《観測中……》
ルールは守られていた。
3人は、ちゃんと“仲良く”食べていた。
それなのに、ミッションは終わらない。
次のテーブルが、また音もなく姿を現す。
誰も拒否できなかった。
誰も「やめよう」とは言わなかった。
ただ──胃が重いだけだった。