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誰のために鐘はなる?  作者: たゆたうよ
第四部 みんな仲良く
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第二章 たべることが正解

いくつ目のおやつだったか、もうわからなくなっていた。


最初は蒸しパンだった。

次にゼリー。マカロン、フィナンシェ、バタークッキー──


見たこともない形のお菓子もあった。

出されたら、食べる。

それだけで、表示は静かに更新される。


《観測中……》


誰も怒られない。咎められない。失敗の警告も鳴らない。

ただ、次が出る。

無音で、無感情に。

空間の床がほんの少し隆起し、白いテーブルがまたひとつ生まれる。


「……これ、何種類目だ?」


カエデが、少し疲れた声で言った。

目の前のテーブルには、白くて小さなスフレが3つ。

ふわりと甘い香りが漂い、空間に淡く溶けていく。


「さすがに、ちょっと飽きてきたわね」


ルアがゼリーのスプーンを置き、スフレを眺めるだけにとどめた。

けれど、手は伸ばす。

そして、食べる。

それが、“ミッションの続行”に必要だと、もう誰も疑っていなかった。


「……これって、“仲良く”って意味、そういうことなんだよね?」


シズハの問いかけに、誰も明確に答えなかった。

でも、出されたものは残せない。

誰かひとりでも手をつけなければ、空間は動かない。

そう思い込んでいた。

次。

また次。

フィナンシェ、キャンディ、薄い焼き煎餅。

甘いものの合間に、塩味のものが混じるようになった。

空間には変化がなかった。

ただ、胃の中に積もっていく疲れだけが、じわじわと重なっていった。


「……ねえ」


シズハがぽつりと口を開いた。


「このまま、“ずっと”なのかな……?」


誰も返さなかった。

空間上には、変わらず白文字が浮かんでいる。


《観測中……》


ルールは守られていた。

3人は、ちゃんと“仲良く”食べていた。

それなのに、ミッションは終わらない。

次のテーブルが、また音もなく姿を現す。

誰も拒否できなかった。


誰も「やめよう」とは言わなかった。


ただ──胃が重いだけだった。


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