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誰のために鐘はなる?  作者: たゆたうよ
第四部 みんな仲良く
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第一章 はじまりのあまい香り

──ミッションを開始します。


穏やかな電子音とともに、足元の床がゆるやかに光を放った。

白く明るい空間。これまでのような圧迫感も、沈黙も、異常な気配もない。


「……なんか、いつもより……ふつう?」


シズハがぽつりとつぶやいた。

金属音も風のうなりもなく、代わりに漂ってきたのは──

ほんのり甘い香り。


「お、いい匂いするな……なんだ、これ」


カエデが空間の中心を見やる。

そこには、真っ白なテーブルが置かれていた。

その上に、ふかふかの蒸しパンが3つ。湯気がたちのぼり、

ほのかにミルクとバターの香りが混じっている。


「はあ……なんだか、拍子抜けね」


ルアは腕を組んで微笑んだ。

けれど、その視線はどこかで警戒を解いてはいなかった。

そのとき、空間上部に文字が浮かぶ。


《ミッション名:みんなでなかよく、おやつのじかん》

ルール:3人で仲良くおやつを食べてください。


「……これ、ほんとに“食べるだけ”のやつ……?」


「書いてある通りに見えるけどな……なにか裏があるのか?」


「いいえ。“仲良く”って条件、逆にすごく重たいわよ?」


ルアの口調は軽いが、瞳は真剣だった。

それでも、漂う甘い香りが緊張感をほどいていく。


「……でも、確かに……お腹すいてたかも」

シズハが小さく言うと、カエデも頷いた。


「そろそろ、まともなもん食っても罰は当たらねぇだろ」


3人はそろってテーブルの周囲に立った。

蒸しパンは、ちょうど3つ。等間隔に並んでいる。


(……ほんとに、ただのおやつだったら……いいのに)


そう思いながら、シズハは手を伸ばした。

ふわり──

柔らかく、ほんのり温かい蒸しパン。

カエデも、ルアも、それぞれ1つずつ手に取った。

その瞬間、上空に白文字が浮かぶ。


《観測中……》


誰も声を出さなかった。

けれど、すぐに空間の奥が、音もなく“開いた”。

白い光に照らされた床。

そこに、新たなテーブルが静かに出現する。

その上には──

無言のまま、3つのカップゼリーが並んでいた。


「……次?」


カエデの声が、ごく低く漏れた。

ルアがふっと笑う。


「そういうこと。ええ、“連続で仲良く”──ってやつかしら」


甘い香りと、ほのかな緊張が、空間に静かに溶け込んでいった。




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