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誰のために鐘はなる?  作者: たゆたうよ
第三部 ともにいた、はずだった
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第八章 疑念のはざまで

ロード画面が消え、新たな空間が構築される。


今度は狭い室内だった。四方を厚い壁に囲まれた、小さな白い箱。

無音。無風。

光源のない無機質な明るさが、むしろ圧迫感を与えていた。


ふたりは向かい合って立っていた。

誰も喋らなかった。

喋れなかった。


ポルルが去ったあとに残されたのは、耳の奥に焼き付いた“記録の補正”という言葉と、ふたりの間にできた見えない隔たりだった。


「……あのログのこと、なんだけど」

先に口を開いたのは、シズハだった。


「私の記録には“協力してクリア”ってあった。でも、カエデのには——」


「ああ。なかった」

カエデはシンプルに答えた。表情は読めない。

だがその声は、どこか空っぽだった。


「なあ、シズハ」


「……なに?」


「もし、俺の記録が“正しい”としたら……お前は、いなかったってことになる」


「……」


「でも、俺の記憶にはお前がいる。声も、動きも、指示も、全部。俺は……お前と一緒にやったと思ってる」


シズハは目を伏せた。

「私だって……同じ。でも、ログは食い違ってた。まるで、最初から一人で戦ってたかのように」


「記憶と記録が噛み合わない。じゃあ、どっちが“本当”なんだろうな」


静かな問い。

その裏にあるのは、怒りでも疑いでもない。


ただ、真っ直ぐな疑問だった。


「——“思ってること”と“見せてるもの”が違う、か」

カエデがぼそりと呟く。


「たとえば……お前が、実は何もしてなかったとして。けど俺が“してくれた”って思ってるなら、それは協力だったのか?」


「……それは……」

答えに詰まる。


(そうじゃない。私は確かに動いた。網を張って、指示を出して、カエデと捕まえた……はず)


でも、世界はそれを“記録していなかった”。

ならば、記録されなかったそれは、本当に“あった”のか?


「……怖いな」


「……ああ。怖い」

ふたりは、また沈黙した。


その沈黙のなかで、壁の一部が滑るように開く。

次の試技空間への“入口”。

だがその前に、再び視界にログウィンドウが浮かぶ。


《連携率:再評価中》

《情報同期:不安定》

《再認識処理中……》


カエデが苦笑する。


「……今度は、“一緒にいること”まで確認されるのかよ」


「この世界……“一緒にいる”ことすら、試されてる……」


彼らは互いに視線を交わす。

もはや、ただ信じるだけでは足りない。

けれど、信じなければ——次には進めない。


「行こう、カエデ」


「ああ」


ふたりは無言で歩き出す。

次の試技領域へ。

その先に、また“誰かが見ている”としても——



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