第五章 四度目の正直
再起動の光が収まりきる前に、シズハはもう立ち上がっていた。
「もう……二度と外さない」
声に力がこもる。
手のひらに残る網の感触。目の奥に焼きついた、すり抜けていく光の軌道。
あれは“失敗”じゃない。あれは“判定そのもの”が変わっていた。
「やっぱり、この世界……観てる」
隣に立ったカエデが小さく息を吐く。
「俺も、今回は何か掴めそうな気がする」
ふたりの距離は、最初よりも近かった。
言葉にしなくても、理解が伝わる“空気”がある。
カエデが拾ったのは、〈振動センサー〉。
シズハは再び〈音誘導機〉を手に取る。
「やつの移動はリズムだ。お前がタイミングを引き寄せろ。俺が網で叩き込む」
「できる?」
「できるかじゃねぇ。“やる”んだよ」
それは、ただの気合じゃなかった。
三度の失敗を経て、カエデの声には“学習”の色があった。
《制限時間:5分》
再び電子音が鳴る。
(読む。感じる。疑う。でも、動く)
シズハの中で、記憶と直感が“融合”を始めていた。
――あの角では一度跳ね返る。反転は、前兆がある。通路の影、風の流れ、天井の鳴き。
(あそこに……来る)
カエデが先に動く。
通路を半周して、正面の網ポイントに回り込む。
無駄のない動き。
標的が跳ぶ。
シズハは音誘導を仕掛け、フェイントをかける。
逃げる、回り込む、戻る。
標的が揺れる。
その軌道を、カエデが正面から読んだ。
「——今だ!!」
シズハが指を叩き、音誘導を反転。
標的が反応して跳ね返った——その瞬間、カエデの網が展開された。
金属音。
網の光が収束する。
一瞬の静寂。
通路の奥、白い影が止まっていた。
光の中で、捕獲が完了していた。
「……やった……」
声が震える。だが、確かに届いた。
「……ああ。やったな」
その瞬間、空間に柔らかな鐘の音が響いた。
ゴォォォォン……
けれど、今までとは違う。
重く、冷たい“罰”の音ではない。
祝福のような、静かな共鳴だった。
《MISSION CLEAR》
《クリア回数:1》
《試行記録:4回》
《協調率:89%》
シズハはそっと息を吐いた。
そして思った。
(二人だったから、ここまで来られた)