表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰のために鐘はなる?  作者: たゆたうよ
第一部 目覚めの鐘
2/39

第二章 最初の一歩と鐘の音

音を立てるな——


その警告は、ただの表示ではなかった。


空間そのものに刻まれた“掟”のようなものだった。


(歩かなきゃ……でも、足音が……)


シズハは立ち尽くしていた。背後の壁から冷気がじわじわと這い寄ってくるようで、逃げ道は前しかないことを、体が察していた。

通路の奥。揺らぐ光は淡く、まるで“誘ってくる”。

けれど、その先に何があるのかは、一歩目を踏み出すまでわからない。


(静かに、静かに……)


そっと右足を浮かせ、床へ下ろす。

爪先から踵へ。まるで命綱を渡るような緊張のなかで、足裏に金属の冷たさが伝わる。


無音。


息を殺す。鼓動が耳に響く。

何かが——何者かが、こちらを“聞いて”いる気配がした。


もう一歩。


ゆっくりと。焦るな。慎重に。


だが——。


カツッ。


小さな、けれどあまりにも鮮明な音が、空間に弾けた。


(……ッ!?)


足の端が床の継ぎ目の“縁”にわずかに触れた。ほんの数ミリ、角度が狂っただけ。

だが、それはこの世界にとっては致命的だった。


瞬間——


ゴォォォォォン……!!


鐘の音が、世界を打ち抜いた。

空気が震える。壁が震える。自分の内側すら、震えた。


「っ、あ……ッ」

叫びかけた声は、音の奔流にかき消された。


視界が白く染まる。表示が滲む。数字が乱れ、文字が流れる。


「音認識:違反」

「残り猶予時間:停止」

「判定:失敗」

「再起動準備中」


 (なに……? 私、失敗……?)


身体が浮く。

重力が消えたわけではない。空間の“下”が、すべて剥がれ落ちていく。

床が反転し、壁が溶け、構造が崩れる。

まるでこの部屋は、“ミスを起こした存在”を包む器として仮の形を保っていただけで、罰が下った瞬間、維持する意味を失ったかのように。


ゴォォォォォン……!!


再び鳴る鐘。その音はもはや物理的ではない。

耳ではなく、胸の奥深く、魂の臓にまで届いてくる音だった。


(やだ……いや、やめて、そんなの……!)


叫びは出ない。声帯が震えたとしても、この世界には“響かせる自由”すら許されない。

そして、全てが——白に溶けた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ