第八章 同期
通路の先に、重厚な“扉”が現れた。
それは今までに見たどの出口よりも、確かにそこに“在る”という実感を伴っていた。
光も、影も、風も。すべてがその一点に収束するように、静かにたたずんでいた。
「……見えるか? そっちにも、扉があるか?」
「ある。……きっと、これが“本物の出口”」
シズハの声がわずかに震える。
壁越しのカエデの声も、少しだけ緊張を孕んでいた。
「たぶん、同時に通らないと……開かない」
「だろうな。こっちにも、“待機中”って表示されてる」
そう、扉の脇には表示があった。
──【通過認証:未完】
──【要:2体同時通過】
(“2体”……?)
どこか、言いようのない違和感が引っかかった。
“2人”ではなく、“2体”。まるで、何か別のものとして計測されているような——
「いくぞ、シズハ。カウントする」
「……うん。聞いてる」
息を整える。指先に力が入り、心拍が跳ね上がる。
「3、2、1——今!」
2人が、見えない空間の同一点を踏み越える。
その瞬間——
ガコン。
重低音が鳴り、空間全体に微かな振動が走った。
目の前の扉が、ゆっくりと開いていく。
光が差す。風が吹く。
そして、同時に——
世界の上部に、透明な“ログ画面”が浮かび上がった。
【ミッションログ:同期突破型ペア選定試験】
▶ ペア構成:Unit-SHZ / Unit-KDE
▶ 通過成功:◯
▶ 判定結果:同期認証成立
▶ 経過時間:00:17:34
▶ 協調値:B+
▶ 感情反応値:異常上昇(高)
──ログ送信中……
──記録完了
表示は数秒で消えた。まるで、何もなかったかのように。
「今の……見た?」
「……ああ。見えた。……なんだったんだ、あれ」
誰かが見ていた。
誰かが、記録していた。
この行動も、選択も、感情さえも——すべてが“データ”として処理されていた。
「……ミッション、だったんだよね。やっぱり……」
そう呟いたシズハの胸に、鈍く冷たい感覚が残る。
この世界はただの迷宮じゃない。
何かの意図によって“設計された競技”だ。
それに巻き込まれていることを、自分たちは、まだほとんど知らないままに——