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嘘と真実の狭間  作者: 柊れい
第2章
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第2章 第4話: ガールズトークの中で

週末、玲奈と一緒に駅前のショッピングモールに出かけることにした。退院後初めての外出らしい外出で、少し緊張しながらも、玲奈と一緒にいると自然と気が緩んでいく。玲奈は相変わらず明るくて、何もなかったかのように振る舞ってくれる。それが、事故後のぎこちない日常から少しでも離れられる気がして、私は心から感謝していた。


「沙耶、大丈夫? 無理しないでね。何かあったらすぐ言ってよ」


玲奈は私を気遣って、何度もそう声をかけてくれた。


「うん、大丈夫だよ。玲奈が一緒だし、心強いから」


私は笑顔で答えながら、玲奈に少し頼り切っている自分を感じていた。玲奈はいつも私を支えてくれる存在だった。彼女の前では何も隠すことなく、素直になれる。それが今、どれだけ救いになっているか。


ショッピングモールに入ると、玲奈は早速目当ての洋服店へと向かい、私はその後をついていく。色とりどりの洋服が並んだ店内は活気に満ちていて、玲奈はすぐに目を輝かせた。


「沙耶、このワンピース可愛くない?」


玲奈が手に取ったのは、淡いピンク色のふんわりとしたワンピース。確かに玲奈の好みそうな可愛らしいデザインだ。


「うん、可愛いね。でも、玲奈が着たらもっと映えると思うよ」


「うーん、じゃあ試着してみようかな。沙耶も何か見つけたら試着しなよ!」


玲奈はニコニコしながら、早速試着室に向かう。私は特に買うものを決めていたわけではなかったけれど、玲奈に誘われるままに店内を見回し、少しだけ気になったカーディガンを手に取った。


その瞬間、玲奈の声が響いてくる。


「沙耶、こっちこっち! 見て、似合うかな?」


玲奈は試着室から出てきて、ピンクのワンピースを身に纏ってくるくると回って見せた。ふわっとしたスカートが広がって、まさに玲奈らしい可愛らしさが引き立っていた。


「似合ってるよ、すごく可愛い」


私が素直にそう言うと、玲奈は嬉しそうに頬を赤らめた。


「やったー! 沙耶の言葉、信じるね! でも、沙耶はどうするの? 何か買う?」


「うーん、まだ考え中かな」


正直、今はあまり自分の服に対して興味がわかなかった。事故後、何かを選ぶという行為自体がどこか遠いものに感じられている。玲奈と一緒にいることで、楽しい気持ちはあるのに、それでもどこか心が完全には解けない。


玲奈がレジでワンピースを買った後、私たちはカフェで一息つくことにした。飲み物を注文し、ソファ席に腰を落ち着けると、玲奈がポツリと呟く。


「沙耶、あのさ、ちょっと気になってたんだけど……」


「ん? 何?」


「悠斗とのこと、どうなの?」


玲奈は遠慮がちに、けれど真剣な表情で私に問いかけた。玲奈にだけは、悠斗との関係について話すつもりだった。退院後、まだはっきりしない自分の気持ちを整理するためにも、玲奈に相談したかった。


「正直、よくわからないんだよね……。悠斗が恋人だったって言ってくれるし、写真や動画も見せてくれたけど……」


玲奈は頷きながら、私の言葉を待っている。私は一度深呼吸をしてから、思いを口に出した。


「なんか、違和感があるんだ。彼の言ってることは間違いじゃないんだろうけど、どうしても全部を信じきれないというか……」


玲奈はしばらく黙って考え込んでいたが、やがて静かに口を開いた。


「確かに、沙耶の記憶がまだ戻ってないから、そう感じるのかもね。でも、沙耶が無理に信じる必要はないんじゃない? 自分が納得できるまで、ゆっくり考えればいいと思うよ」


玲奈の言葉は優しくて、温かかった。私が感じているもやもやした気持ちを、否定せずに受け止めてくれている。私はその瞬間、涙が出そうになるのをぐっと堪えた。


「ありがとう、玲奈。そうだよね、焦らなくてもいいんだよね」


玲奈はニコッと微笑みながら、飲み物を一口飲んだ。


「そうそう! あと、もし悠斗が変に押しつけてきたら、私がちゃんと文句言ってあげるからね!」


その言葉に、私は少し笑ってしまった。玲奈はいつも強気で、私のことを守ってくれる存在だ。記憶を失う前もそんな存在だったに違いない。そんな彼女に支えられていることが、本当にありがたかった。


「玲奈って、ほんとに頼りになるね」


「当たり前じゃん! 沙耶が困ってたら、いつでも助けに行くよ!」


玲奈は明るく胸を張りながらそう言って、再び笑顔を見せた。そんな彼女と一緒にいると、少しずつ私の中の不安も薄れていく気がした。


その後も、玲奈とのガールズトークは続いた。恋愛の話、学校での話、そしてこれからのこと。玲奈は私の気持ちを考えつつも、日常の話題で笑わせてくれる。それがとても心地よかった。


「でもさ、悠斗ってチャラいところあるし、あんまり無理しないでね。沙耶は沙耶のペースでいいんだから」


玲奈のその言葉に、私は再び頷いた。悠斗は確かに優しい。だけど、どこか掴みきれない部分があって、その違和感が少しずつ大きくなってきている。玲奈の言う通り、無理に合わせる必要はないのかもしれない。


カフェを出る頃には、夕方の光がモールの窓から差し込んでいた。玲奈と肩を並べて歩きながら、私は自分の足で歩くことの意味を改めて感じていた。悠斗とのことはまだ答えが出ない。けれど、玲奈と話したことで少しだけ心が軽くなった気がする。


「沙耶、また一緒に買い物行こうね! 次はもっとゆっくりできるといいな」


玲奈の声に、私は笑顔で頷いた。彼女と過ごす時間が、今の私にとって一番の癒しだった。悠斗との関係はこれからどうなるのか分からないけれど、少なくとも今は自分自身の気持ちに正直でいようと思った。


玲奈と別れて帰路につくとき、ふと、悠斗の顔が浮かんだ。彼との「恋人関係」に感じる違和感は、やはり無視できないものだ。彼がどれだけ優しくしてくれても、それが本当の姿なのかどうか——その疑念が、私の心の中でますます大きくなっていく。

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