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嘘と真実の狭間  作者: 柊れい
第5章
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第5章第2話: 記憶の断片

その日、涼との言い争いからしばらくして、私は再び悠斗と向き合うことになった。校舎を出て、静かな校庭を歩きながら、頭の中で考えが巡る。私の記憶の中で、あの浮気の場面が徐々に鮮明になってきていた。あの夜の喧嘩、浮気を認めず、軽く流そうとする悠斗の態度。苛立ちと悲しみが私を満たし、耐えきれず声を荒げたあの日。


そして、その記憶は嘘ではないと確信した瞬間、今の悠斗の存在が、ますます私にとって不可解なものに感じられた。なぜ、あんなに関係が崩れかけていたのに、今こんなに優しい態度を取るのだろうか。そして、なぜ私が事故にあった後、すぐに現れたのだろうか。


沈黙を破るように、私は口を開いた。


「悠斗、少し話があるの」


悠斗は私の方を一瞥し、軽く肩をすくめた。


「なんだよ、今度は」


その軽い言い方に、私の胸がズキリと痛んだが、引き下がるつもりはなかった。


「この間、急に記憶が戻ったの。悠斗の浮気のこと…そして、その後の喧嘩も。私たち、大きな喧嘩をしたよね?あのとき、私は本当に傷ついた。どうしてあの時、ちゃんと謝らなかったの?どうして、浮気なんてしたの?」


悠斗は一瞬、面倒くさそうな顔をした。目の前に立ち止まり、私をじっと見つめたが、その瞳には以前のような温かさは感じられない。ただ、無表情で、感情のない人形のような目だった。


「おい、沙耶。そんな昔の話を今さら持ち出してどうするんだよ。もう終わったことだろ」


「終わったこと?悠斗、あれは私たちの関係を壊した大事な出来事だったじゃない!それをただ忘れろっていうの?私にとっては忘れられないことだったのに…」


私の声が震えた。悠斗の無関心な態度に、どうしようもない苛立ちが募る。彼は何も感じていないのだろうか。私がどれだけ傷ついたのか、何も理解していないのだろうか。


「そんなことに、いちいちこだわる必要ないだろ。お前、まだ記憶が完全じゃないんだし、適当に受け流せばいいじゃん」


悠斗の言葉は冷たく、無責任な響きだった。私の記憶の断片が少しずつ戻ってきても、彼は何一つ変わらない。私は拳を握りしめて、自分の苛立ちを抑えようと必死だった。


「でも、私は忘れられない。浮気されたこと、それで大喧嘩になって、私たちは本当に別れる寸前だった…そんなことを、ただ無かったことにはできない」


私がそう言うと、悠斗はため息をつき、顔を近づけてきた。まるで私に何か耳打ちするかのように、低い声で囁くように言った。


「お前、本当にうるさいよな。そんなに過去にこだわると、後悔するぞ」


その言葉を聞いた瞬間、私は一瞬、体が固まった。後悔する?彼が何を言おうとしているのか、一瞬理解できなかった。でも、その言葉には、どこか冷酷さが感じられた。


「何が、後悔なの?」


私は震える声で問い返した。悠斗は少し笑みを浮かべながら、冷たく言った。


「言葉通りだよ。思い出さない方が、お前にとっては楽だろ」


その瞬間、私の心の中で何かが弾けた。悠斗が何かを隠していることは、もう明らかだった。何か大事なことを私に伝えようとせず、ただ隠している。その態度が、私をますます不安にさせた。


「悠斗、何を隠してるの?」


私の問いに、彼は一瞬、表情を曇らせたが、すぐに無表情に戻った。


「隠してるなんて、そんな大げさなことはないさ。お前が気にしすぎてるだけだよ」


私はもう彼の言葉に納得することができなかった。これ以上、彼のそばにいることが、どれだけ危険なのか。それでも、私は記憶を取り戻すために、悠斗との関係を続けている。だが、それが正しい選択なのかどうか、わからなくなっていた。


++++++++++


その後、私たちは無言のまま歩き続けた。校舎の裏手にある人気のない道を歩くと、冷たい風が頬を撫でていく。周りの木々がざわめき、まるで私たちを監視しているかのようだった。


私は再び記憶の断片が浮かび上がってくるのを感じた。悠斗との浮気を巡る大喧嘩、その後の冷たい沈黙…。そして、事故の直前、何があったのか。それだけが、まだはっきりと思い出せないままだった。


でも、何かが変わり始めている。悠斗が私に隠しているものが、少しずつ姿を現そうとしている。そしてそれが、私の命に関わる重大なことなのではないかという恐怖が、徐々に膨れ上がっていった。


「沙耶、今日はもう帰ろうぜ。これ以上、話しても意味ないだろ」


悠斗の冷たい声に、私はただ頷いた。彼のそばにいることが、これ以上危険かもしれないという直感を感じつつも、私はまだ、記憶を取り戻すために彼と向き合わなければならないと、どこかで思い続けていた。


この関係が、どこまで続くのか。それとも、もう終わりに近づいているのか。私にはまだ、見えない境界線がどこにあるのか分からなかった。

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