第6話 聖なる錫杖の精霊・カドケウス
見習い騎士のトーナメントは順当に進み、ランス兄上は槍術部門で無事に決勝まで勝ち進んだ。
ランス兄上は、本当は槍術よりは剣術の方が得意なんだ。
実はね、つい最近、ランス兄上は聖剣オートクレールと契約したんだよ。
でも、オートクレールは気高いというか、気難しくて、ランス兄上が自分以外の剣を持つことを嫌がるんだよね。
だから大会とか真剣を使わないところでは槍術で出場することになったんだ。
だから決勝まで行けるかどうかは五分五分で、僕とメルク兄さまはドキドキしながら試合を見守ったんだよ。
約束通り、イーサン君も決勝進出を決めたけれど、前の試合中に足を痛めてしまって出場させるかどうか審判とフルール騎士団長が協議中だ。
「治癒魔法で治さないの?」
「治癒院に急患が入って、こっちまで手が回らないんだって。」
「僕が治せれば良かったのに・・・」
魔力詰まりのせいで、せっかく治癒のスキルがあるのに、それが使えないのがもどかしいと思った。
メルク兄さまも治癒はまだ練習中で、祖父の許可が無いと使えないんだ。
その祖父は実の兄である教皇さまと一緒にいて会場にはいない。
多忙な教皇さまの相談役として一緒に別のお仕事中で、教皇さまと祖父が会場入りするのはこの後で始まる本戦の準決勝戦の頃なんだ。
「ルル、治癒魔法、使いたいの?」
不意に髪の毛の中からイージスの声がした。
まだ髪の毛の中にいたんだ・・・
「カドケウス、連れて来てあげる!」
そう言うと、イージスは姿を消し、数秒後には眠そうな、翼の生えた白い蛇の精霊を連れて来た。
えーっと、乙女ゲームの世界で辺境の修道院に奉納されてるはずの聖なる錫杖カドケウスの精霊がなんで教会の総本山にいるのかな?
出会うの、早すぎじゃない?
「カドケウス、ルルが治癒魔法使いたいから、手伝ってあげて!」
「ん~・・・んっ??」
カドケウスと呼ばれた白い蛇が僕を見るなり、カっと目を見開いた。
「あ、主! 逢いたかった!!」
カドケウスはそう言うなり僕の腕に巻き付いて消えた・・・
と、思ったら、口に何か咥えた姿で現れた。
「主は魔力が詰まりすぎてて、治癒はまだ無理そうじゃから、詰まってる魔力の塊を削って治癒の魔石に変えて来た。これを患部に当てれば治るぞ。」
「ほんと?」
「わしは治癒を司る闇の精霊じゃ。嘘は言わん。」
「ありがとう!」
僕はメルク兄さまと一緒に待機場にいるランス兄上のもとへ向かった。
ランス兄上とメルク兄さまは双子だからか、お互い「以心伝心」のスキルを持っている。
だからランス兄上に魔石を渡すと、ランス兄上はすぐにそれを審判をしている聖騎士団の副団長に渡して事情を説明してくれた。
副団長は、グングニルの主の騎士団長に「教皇聖下のお身内からのご厚意」ということにして治癒の魔石を渡したようだ。
そういう言い方をすれば、身内に下賜された、教皇聖下が作った魔石だと勝手に勘違いしてくれる。
魔石のおかげで足が治ったイーサン君はランス兄上と素晴らしい試合を見せてくれたよ。
優勝は僅差でイーサン君だった。
でも、負けたランス兄上は強い相手と闘えたことが嬉しかったみたい。
満面の笑みでイーサン君に拍手を送ってるよ。
イーサン君も、勝てて嬉しいって気持ちもあるけれど、それ以上に自分と同等の実力を持ったライバルの出現が嬉しいって顔をしている。
僕は、僕の魔力が初めて誰かの役に立ったのが嬉しい。
「カドケウス、ありがとう。」
僕はカドケウスにもう一度感謝の言葉を伝えた。
「わしと契約してくれたら、お主の魔力詰まり、早く治してやるぞ?」
「痛くない?」
「・・・激痛で寝込むようにはせんから、その・・・じゃな・・・」
・・・先代の教皇さまの魔力詰まり、一気に治したのはもしかしてカドケウスなのかな?
「じゃあ、痛くなく、無事に早めに魔力詰まりが治ったら契約してあげる。」
こうして僕は乙女ゲームの裏設定の時期よりも早く、聖なる錫杖カドケウスの主(予定)になった。




