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断罪される悪役で当て馬な仔ブタ令息に転生した僕の日常  作者: 藍生らぱん
第一部

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第5話 攻略対象者その三 騎士団長子息との接近遭遇

 

フルール王国の騎士団長は王弟殿下で、強面で背が高く、屈強な体躯に恵まれた槍の使い手なんだ。

グングニルという神器の槍の使い手でもあるんだよ。


聖具は光か闇の属性の精霊が宿っていて教会の所属なんだけれど、神器にはそれ以外の精霊が宿っているんだ。

グングニルには雷の精霊が宿っているんだよ。

基本的に聖具も神器も自分の使い手に相応しい主を選んで、他の人には見向きもしないのは同じ。

絶対に触らせないし、寄り付きもしないんだ。


グングニルは雷槍なので、雷系の魔法を使える人間を好むらしいよ。

土と水属性持ちが多いフルール王国で、騎士団長は水と光、風の三属性持ちで強力な雷魔法の使い手なんだ。

魔力量も多くて神器の持ち主に相応しい清廉な人格者なんだよ。

そのフルール王国の騎士団長が部下数人と見習い騎士を連れて教皇国の聖騎士団にやって来たんだ。


今日、各国の代表の騎士たちを集めたトーナメント方式の御前試合があるからなんだ。

御前試合の優勝者は「聖剣の勇者」か「聖騎士団の団長」と手合わせができるんだ。

「聖剣の勇者」は僕の父上、「聖騎士団の団長」は母さまの従兄弟で、僕の祖父の姉の息子さんなんだ。


聖騎士団長―ベルナール・ユーグ・ド・レイモンは聖なる盾、イージスの持ち主で、「勇者」の称号持ちなんだ。


「ルル、久しぶり! 会いたかった!!」

御前試合の会場に着くと、イージスの精霊が僕のそばに飛んで来ちゃった。

「精霊王の愛し子」という称号があるおかげで、僕は主以外に見向きもしない聖具や神器に宿る精霊たちに好かれているんだ。

そのせいで、聖騎士団では僕が「次期教皇」なことはバレバレで、公然の秘密になっているんだよね。


「教皇」の称号持ちは必ず女神様と精霊王の愛し子か加護持ちなんだ。

主がいない休眠状態の聖具を管理する関係もあるのかな。

とにかく、「教皇」は全ての聖具、神器に宿る精霊たちと意思疎通ができるし、触れることもできるんだ。

だから、聖具と神器のメンテナンスは教皇か、精霊王に認められた妖精族のドワーフの職人にしかできないんだ。


ちなみに、聖具と神器に宿る精霊は精霊の愛し子か加護持ちか、高レベルの鑑定系のスキルが無いと視認できない。

そして意思の疎通ができるのは愛し子か、加護持ちか、選ばれた主だけ。

だから一般の人たちには見えないし、聞こえない。


好かれて懐かれるのは嬉しいんだけれど、身の安全の為に成人するまで称号を隠さなきゃいけない僕は困ってしまう。

父上の聖剣の精霊クサナギは大人でクールな性格なので他人がいる所では寄ってこないんだけど、イージスは無邪気っていうか、好奇心旺盛な仔犬のようだから、我慢ができないらしい。

他の聖騎士の聖具たちも僕の事を気にしてチラ見してるけれど、職務中だから我慢しているのに。

ほんと、イージスだけだよ、我慢しないの・・・

まあ、見える人は限られるし、見て見ぬ振りをしてくれるからいいんだけどね。


「イージス、今日は人がたくさんいるから、お話は後でね。」

「え~、つまんない~、じゃあ、勝手に遊ぶもん。」

そう言ってイージスは僕の髪の毛の中にもぐって、僕の髪を編んだり解いたりを繰り返す。

優勝者が決まるまではイージスの出番も無いし、まあ、いいか、と好きにさせていると、どこからか、視線を感じたんだ。


神器グングニルの刃先に小さな精霊──虎縞模様のパンツを履いた小さな雷様が立っていて、背伸びをしてこっちを見ている。

その雷様と目が合った。

「え?」

目が合った瞬間、遠くにいた筈の雷様(グングニル)が目の前に!


「お前、イーサンの嫁にしてやってもいいぞ!」

「「ふざけたこと言ってんじゃねぇよ!」」


大公家の後継であるランス兄上と賢者の後継であるメルク兄さまには、女神様と精霊王の加護があるから精霊を見る事ができるし、意思の疎通もできるんだ。

グングニルの事は兄たちに任せて、僕は見えない聞こえない振りを貫く。


グングニルと兄たちが揉めていると、そこにフルール王国騎士団長の息子で公爵家次男のイーサン君がやってきた。

イーサン君は乙女ゲームの攻略対象者なんだよ。

将来、父親である騎士団長の恵まれた体躯を受け継いだ美丈夫になるんだよね。

今は兄たちと同じ年の12歳の子供なんだけど、頭一つ分、兄たちより大きい。

「イーサン、こいつをお前の嫁にしよう!」

グングニルが僕を指さして言った。

「大きなお世話だ。それに、こいつは女子じゃないぞ。」

「は~、男とか女とか、人間って不自由だよね。」

精霊に性別はないから、人間とは感性とか感覚が違うんだろうね。

・・・ん?

イーサン君、精霊と意思疎通できてる・・・?

「うちのグングニルがすまない。俺はフルール王国の騎士見習い、イーサンだ。」

「俺はランスロット。聖騎士見習いだ。」

「俺はメルクリウス。賢者の弟子だ。」

「僕はシャルル。二人の弟です。」

とりあえず、お互いに簡単な自己紹介をして挨拶を交わした。

「君たちはグングニルと話せるんだな?」

「ああ、加護持ちだからね。そういう君も話せるんだね?」

「俺は雷の精霊の加護持ちで、父上からグングニルを受け継ぐ資格を満たしている。まだグングニル本人には認められていないけどな。」

「この子を嫁にしたら認めるよ!」


グングニル、しつこいなぁ・・・


「「却下!」」

兄たちがグングニルを睨みつけている。

「だから、女子じゃないから無理だ。」

「イーサンは見る目が無いね。仕方ないから、諦めるけどさ。後で後悔しても知らないよ?」

「男相手に後悔も何も無い。」

「ほんと、見る目無い。頭でっかち。むっつりスケベ!」

グングニルはそう言って、神器の雷槍の方に戻って行ってしまった。


いや、見る目無いのはグングニルの方じゃない?

僕は男なんだから、嫁にはなれないもん!


「あいつ、見る目あるな・・・」

「諦めてくれて良かった・・・」


兄たちがグングニル寄りの呟きを漏らしてるし・・・


いや、僕、男だからね!


その後、少しイーサン君と兄たちが話をしたところ、見習い騎士の槍術部門にエントリーしていたらしく、お互い順当に勝ち上がれば決勝で対戦することがわかったんだ。

「決勝で会おう。」

「ああ、楽しみにしてる。」

イーサン君とランス兄上は握手をして一旦、別れた。


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