第3話 仔ブタの正体
第三王子─ギルバート君は追いかけて来た近衛に回収されて城に帰った。
どうやら勉強をサボってうちに来たことで教育係がかなりお冠で、サボった分の勉強が終わらない限り外出禁止になったみたい。
めでたしめでたし。
「父上~」
満月の日の夜、ギルバート君が会いたがってた僕らの父上が魔法伯家にお迎えにやって来た。
「いい子にしてたかい、俺の天使たち!」
子煩悩な父上は僕を抱き上げると、兄たちの頭を交互になでなで。
父上は金髪で宵闇色の瞳をしているんだ。
その濃紺に近い瞳の中には星屑のような金色の粒子が散りばめられていて、まるで星空のように綺麗なんだよ。
この星空のような瞳は女神様の血統を統べる長の証なんだ。
この世界を作った女神様は天空と星々を統べる女神様だから。
ランス兄上は父上と同じ色を持ち、メルク兄さまは黒髪に澄んだ空色の瞳をしているんだ。
メルク兄さまの空色の瞳も直系に多い色で、僕の東雲色の瞳も直系に出やすい色なんだよ。
東雲色は朝の空
空色は昼の空
宵闇色は夜の星空
そういえば、隠し攻略対象者は宵闇色の瞳だったなぁ。
直系に該当する年頃の子供は僕ら三兄弟だけだから、傍系の血筋の先祖返りなのかもしれないね。
乙女ゲームの舞台のフルール王国の王立学園に入ったら会えるのかな?
***
父と共に僕らは教皇国に帰還した。
転移で、一瞬だったよ。
祖父と父上、魔力量が多いから、複数人連れての転移ができるんだよ!
凄いよね~
そう言えば5歳の頃に見た僕のステータス画面のスキル欄にも転移の文字があったよね。
魔力詰まりが治ったら父上や祖父みたいに自力で転移できるかな?
おお!!
俄然、やる気が出た!
でも、魔力詰まりって、どうやって治すんだろう?
決定稿になる前の設定とシナリオしか読んでないし、魔力詰まりの治し方は詳しく書いてなかったんだよね。
とりあえず、今のステータス、チェックしとく?
***
シャルル・ド・ブランシュール
(本名 アマデウス・シャルル・ド・フォーティス)
10歳 転生者
アステリア教皇国フォーティス大公家三男
フルール王国・ブランシュール魔法伯の孫
称号 次期教皇(88代目)アマデウス13世
女神の愛し子
精霊王の愛し子
特殊スキル 神眼 加護 祝福 無詠唱 転移 亜空間収納
スキル 付与 結界 治癒 浄化 錬金術 隠蔽 認識阻害
属性 聖 無
体力 100
魔力 36500/100
状態異常 魔力詰まり
装備 認識阻害の腕輪
***
ん?
装備?
認識阻害の腕輪?
お守りだって、肌身離さず毎日つけさせられてるアレかな?
どういう魔道具なんだろう?
視線でカーソルを動かしてクリック。
***
認識阻害の腕輪
シャルル専用 月の精霊の加護
効果
シャルルの見た目を、ぽっちゃり系でどこにでもいるような目立たないモブな容姿に見せる。
下心がある人間を弾く。
新月の夜には効果無し。注意!
両親、祖父母、兄弟には効果無し。
***
そういや、ゲームのキャラデザのシャルルもこの腕輪してたなぁ・・・
え?
もしかしなくても、あの残念な姿って、この腕輪のせいなの?
シャルル、この魔道具のせいで太って見えてただけってこと?
魔力過多症って設定、どこ行ったの?
状態異常の欄に「魔力詰まり」しか記載が無かったよね?
36500/100って、魔力過多じゃないの?
状態異常の欄に記載が無いってことは、まだ大丈夫なのかな?
僕が知っている設定と、現実が少しずつ乖離しているよね。
もしかして、ゲーム世界に似ているだけで、ゲーム通りにしようとする何かしらの強制力が無い世界なのかもしれない。
シナリオ、決定稿じゃなかったし、僕が知ってるゲームの世界と似てるだけの世界なのかな?
僕は大公家の子供部屋に戻ると、認識阻害の腕輪を外して鏡を見た。
そこには、黒髪で紫がかった宵闇色の星空の瞳をしたスリムな美少年・・・これって、僕?
隠し攻略対象者の縮小版じゃん!!
隠し攻略対象者の正体がシャルルってこと!?
新月の夜にしか会えないって、腕輪の効果が無くなるから?
「「ルル、うちではいいけど、外では絶対外しちゃダメだよ?」」
鏡に見惚れていると、背後から兄たちの声・・・
「「特にバカ王子には絶対、素顔見せちゃダメ。」」
僕は振り返って激しく頷いた。
僕の素顔、母さまソックリで超ヤバイ!
性別の垣根を超えてるよ!!
母さまがやたら僕にフリフリヒラヒラな服を着せたがる不可思議現象の謎が解けたよ!
腕輪を外す前は全く似合ってなかったけれど、外した今は物凄く似合ってる。
母さまと双子コーデしたら姉妹に見えるかも・・・
それにしても、凄い魔道具だよね。
顔とか体型だけでなく、髪色や瞳の色も変えられるなんて・・・
僕ってば、本当は黒髪だったんだね。
瞳の色も、光の入り具合で黒っぽく見えるよ。
前世、日本人だった時の馴染みの色だから違和感ないなぁ。
顔も、前世の顔に少し似ているかな。
「「ルル、鏡ばっかり見てないで、こっちにおいで」」
「はーい」
兄たちが子供部屋に併設されているバスルームのドアを開けてお風呂に入る準備をしていた。
うちの一族は討伐やら巡礼やらでダンジョンや辺境で野営をする事が多いんだ。
だから貴族ではあるけれど、小さな頃から「自分でできる事は自分で」を徹底されているんだよ。
お付きの従者とかメイドもいるけれど、お風呂の時は見守るだけなんだ。
いくら自分で何でもできるからって、お風呂でふざけてうっかり溺れたら危ないから、プールの監視員みたいな感じかな?
最近はふざける年でもないし、兄たちは魔法が使えるので、お風呂の見守りはなくなったけどね。
「魔道具って凄いね。目と髪の色も変えられるんだね。」
「「いくら魔道具でもそんな機能はないよ?」」
「ん?」
「ルルって、昼間と夜で髪の色と目の色が変わる体質なんだよね。」
「昼はいつもルルが目にしてた白銀の髪に東雲色の瞳、夜は今の色。」
「昼と夜で変わるの?」
「ルルは精霊王の愛し子だから、日の出から日没までは光の精霊の加護が、日没から日の出までは闇の精霊の加護が見た目に反映してるんだよ。」
「次代の教皇様だからね。教皇様は代々、ルルと同じで昼と夜で色が変わるんだよね。」
「そのおかげでルルが次代だって、生まれてすぐにわかったんだよ。だから名前が大伯父さまと同じでしょ?」
「だから、アマデウス?」
「「そうそう」」
家族は僕が次代の教皇だって知っていたんだね。
じゃあ、修道院も既定路線?
別に断罪に、ゲームにこだわらなくても大丈夫ってことかな?
こだわったところで試作段階の設定とシナリオしか知らない僕はゲーム通りに行動できるはずもないし、強制力も無さそうだし、自由度が増したかも!
「その魔道具にはね、光の精霊の眷属の月の精霊の加護がついてるから、腕輪をつけている限り昼間の時の姿を維持できるんだ。」
「でも、新月の夜は月の精霊の加護がものすごーく弱くなるから夜の姿に戻ってしまうんだ。」
「魔力詰まりが治れば自分の魔力で維持できるようになるんだけどね。」
要は、宝石のアレキサンドライトのような変色効果が僕にあるってことかな?
あれ?
そうすると、どっちが僕本来の色なんだろう?
「僕の本当の色って、どっちなのかな? ランス兄上とメルク兄さまは知ってる?」
「ああ、髪は白銀の髪と黒髪が均等に混ざった銀灰色で、」
「瞳は宵闇色と東雲色のオッドアイだよ。」
「そうなんだ・・・」
「日没と日の入りの時間に腕輪を外したら、少しの間だけ見られるよ。」
「ルルの色が変わる瞬間はね、とっても神秘的で綺麗なんだよ。」
「毎日見ても飽きないよね。」
「うんうん。」
そっか、兄たちと両親、祖父母たちには腕輪の効果が効かないから、本当の僕の姿を毎日見放題なんだね。
まあ、自分の顔は鏡が無いと見られないから、色が変化すると言われてもイマイチ実感がないかな。
認識阻害の腕輪で作られた仔ブタな見た目も愛嬌があって、僕は結構気に入ってるんだ。
前世は、病気でやつれる前はそれなりに整った顔と姿で苦労したんだよね。
近づいてくる女子も男子も僕の見た目にしか興味がなくて、アクセサリーのような立ち位置だったから、心から信頼できる友達はできなかったんだ。
ただ、入院先の病院で知り合った、同年代の男子だけは違ったんだ。
彼とは友達になりたかったな。
でも、ちょっとしたことで口論になって、僕はその数日後に病状が悪化して死んでしまったんだ。
あの時の事を彼が悔やんでなければいいな。
まあ、今世の本当の姿は色々とヤバそうだから、このまま腕輪をつけて封印しておこう。
家族だけが本当の僕の姿を知っていてくれればいいからね。




