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断罪される悪役で当て馬な仔ブタ令息に転生した僕の日常  作者: 藍生らぱん
第二部

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第2話 召還者 2


生まれ変わって、魔法も魔獣もいない平和な世界で、今世の俺は家族に愛されて育った。

けれど、小児がんが見つかって、小児がん専門の病院に入院した。


そこで俺はあいつに出会ったんだ。


初めての入院で、検査やらなんやらで、検査室やレントゲン室、病院内を連れまわされた。

やっと検査が終わって両親が帰ってしまった夕方に、何となく寂しさを紛らわせるために病室があるフロアをブラブラ歩いていた。

遊戯室の前を通りかかった時、その部屋の片隅で膝を抱えて丸くなっている同年代の坊主頭の少年を見つけた。


「・・・笑わなきゃ・・・心配かけないように・・・」


俺が傍に来たのにも気が付かないで、そいつはブツブツと自分に言い聞かせるように何度も何度もそうつぶやいていた。


「おい!」

「・・・・・・」

「おい!!」

「え?」


何度目かの俺の声に気づいて、パッと顔を上げたそいつの顔はやつれていて血色も悪かったけれど、中性的な面差しで、とても綺麗だと思った。


「名前、」

「え・・・?」

「俺は小津千影(ちかげ)、今日入院した。」

「・・・僕は百瀬(ひじり)。」


俺は聖と初めて出会ったその日の夜に前世の記憶を思い出した。

俺はその時、死んで元の世界に還りたいと願った。

だから、治療も手術も受けたくないと、脱走を繰り返すようになった。


あの日はたまたま逃げ込んだ先があいつの病室だった。

いや、本当はたまたまなんかじゃない。

聖は、あの子に、聖者(ルル)様に少し似ていたから、側にいたいと思ったんだ。


「どうして、治療を受けないの?」

「無駄だから。」

聖の言葉に俺は淡々と答えた。

「今なら多少苦しくても完治できるのに?」

「俺は死んで前にいたところに還りたい。」

「かえりたいって、どこに?」

「ここじゃない世界。」

「かえれるの?」

「わからない。でも、かえりたい。俺の大事な人がいる世界にかえりたい。」

「・・・でも、死んだらかえれないよ?」

「死なないと、かえれないんだよ!」

「・・・死んで、かえれたとして、君の大事な人は喜んでくれるの? 今の生を犠牲にして、家族を悲しませた君を、受け入れてくれるの?」


受け入れるも何も、俺が一方的に慕って、恋焦がれているだけで、ルル様は俺の事を何も知らない。

ルル様は俺の存在も、名前も何も知らないんだ!


「うるさい! お前には関係ない!!」


聖の、ルル様に少し似た面差しが悲しげに歪んだ。


「君は生きられるのに、勿体ないよ・・・」


おれは聖の病室から走って逃げた。

まるでルル様を悲しませてしまったような気がしたから。

だから気まずくて、しばらくの間、あいつの病室に行くのを止めた。


数日後、聖が死んだと、主治医の花岡先生から聞いた。

「移植すれば助かるんじゃなかったの?」

「間に合わなかったんだよ。なかなか型が合う人が見つからなくて。兄弟でも適合する確率って四分の一なのに、あの子は一人っ子で、あの子の家族も親戚も合う人がいなかったんだ。」


聖の病室に行くと、もう、すでに空っぽだった。


「そんな・・・」


その日、俺は一晩中、泣いた。


泣いて泣いて、涙が空になるまで泣いた。


次の日から俺は逃げるのを止めた。

治療は楽じゃなかったけれど、抗がん剤が合ったのか、数カ月で退院できた。


体力をつけて、学校に戻った。

聖の分も生きて、長生きして、老衰で死んで、あの世に、聖のいるところに行ったら、聖に今世の俺の思い出と、前世の俺の記憶の話をしてやろう。


毎年、聖の命日と誕生日には白い百合の花を一本だけ墓前に供えた。



その日は命日じゃなかったけれど、大学の合格発表を見た帰りに、聖に報告しようと霊園に向かった。

いつものように近くの花屋で白い百合を一本だけ買った。

「千影くん?」

あとから花屋に入ってきた男の人に名前を呼ばれた。

振りかえってその人の顔を見ると、聖の主治医だった琉偉先生だった。

琉偉先生は聖が亡くなったあと、事故で大けがをして、療養のために病院を退職していた。

だから会うのは数年ぶりだ。

「聖くんのお墓に行くの?」

「うん、大学受かったから、その報告。」

「合格おめでとう。」

「ありがとう。」

「どこの大学?」

「すぐそこの、医大。」

「俺の母校だ。」

「じゃあ、琉偉先生、先輩だね。」

「そうだね。」

俺たちは一緒に聖のお墓に向かった。

「琉偉先生は今どこで働いているんですか?」

「イギリスのホスピスで働いてるよ。」

「イギリス?」

「うん、家族がイギリスにいるから傍にいたくてね。」

「そうなんだ。」

「一回事故で死にかけたから、後悔したくなくてね。一昨日、共同研究者のバーンスタイン先生と学会に招待されて帰国したんだ。今日はね、イギリスに戻る飛行機まで時間があったから、聖くんに会いにきたんだ。」

聖のお墓に二人で百合の花を一本づつ供え、目を閉じて手を合わせた。



入学した大学の近くに借りたアパートから霊園までは徒歩10分程度の距離だから、休みの日はいつもの花屋で白い百合を一本だけ買って供えた。


「好きです。私の彼氏になってくれませんか?」

漸く、大学での生活に慣れてきたところ、看護学部の一つ年上の女子に告白された。

断ったけれど、納得してくれなくて、しつこく付きまとわれた。

「いい加減にしてくれないか? 俺には好きな人がいるんだ。」

「でも、亡くなってるんでしょう? いつまでもあなたが一人だと、亡くなった彼女さんも心配で成仏できないんじゃないかしら?」

「君には関係ない。これ以上付きまとうのはやめてくれ。」

大学の相談窓口や、警察にも相談したけれど、まともに取り合ってくれなかった。

彼女の行動はどんどんエスカレートしていった。

アパートも特定されて、待ち伏せされることも増え、俺は両親と相談してアパートを引き払い、大学も休学した。

墓参りができなくなるのは痛手だったけれど、聖の夢だった医者になることを優先させるため、ここから遠い地方の医学部に転学することにした。


転学が決まった日、俺はいつもの花屋で白い百合を一本買った。

今にも雨が降り出しそうな雲行きで、雷が鳴っていた。

「ごめん、しばらく来られないんだ。」

聖の墓に百合の花を供え、手を合わせて目を閉じた。

その時、背中に鈍い痛みを感じた。

振り向くと、あの女がナイフを振り上げているのが見えた。


ああ、刺されたんだ・・・


死にたくない・・・

あいつの分も長生きするって誓ったのに、こんなところで、こんな奴に殺されるのか?


ポツリポツリと雨が落ちて来て、すぐに土砂降りになった。


目の前が真っ暗になった。

雨の冷たさも、刺された痛みも感じなくなっていた。

死んだんだ・・・


両目から涙がこぼれ落ちた。

いや、こぼれ落ちたのは涙じゃなかった。

涙だと思ったのは、小さな火の粉だった。

火の粉はどんどん大きくなって、俺の両手の上で小さな鳥の姿を形作った。

「マスター、やっと繋がった・・・」

「お前は誰だ?」

「私は神聖なる炎の剣の精霊、フェネクス。」

「フェネクス・・・あの時の神器・・・?」

「マスターの器の修復が完了したので、異世界に流された魂を呼び戻しました。」

「器? 魂を・・・呼び戻した・・・?」

フェネクスと名乗る精霊の体から迸る炎の明かりを頼りに辺りを見回すと、そこは前世の俺が殺されたダンジョンの隠し部屋だった。


そして神器が置いてあった台座には前世の俺の体が横たわっていた。

「あなたは死と再生の神アドニスの愛し子。私は愛し子を護る神器。マスター、私と契約して器に戻られますか?」

「戻るかどうか選べるのか?」

「御意。」

「もし、戻らなかったら、どうなるんだ?」

「異世界の器は既に灰になっています。マスターは輪廻の輪に戻り、来世の生を待つことになるでしょう。」

「来世って、何年後? 記憶はどうなる?」

「記憶は全て無に還ります。来世がいつなのかは冥界の神の思し召し次第でしょう。」

「俺が、この器から離れて何年経った?」

「まだ数日です。」

「器に戻っても、今ある記憶は消えないで残るのか?」

「残ります。」

俺は前世の俺の体を見つめた。

殺された時の、14歳のころの体のままだ。


今世の俺の体はもう、無い。

それなら、今の記憶を持ったまま、前世の体に戻ろう。

前世の体に戻っても、精一杯生きたなら、いつか天に召された時に胸を張って聖に会いに行ける筈だ。


「お前と契約する。」


俺はそう決めると、前世の俺の体に手を伸ばした。




召喚 呼び出す(強制)

召還 呼び戻す


召喚者

 主に「勇者召喚」で召喚された異世界人の総称


召還者(転生者)

 異世界に転生した後で、何かしらの意思により前世の世界に戻された者たちの総称


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