幕間 修道院長
**とある修道院**
「あ、魔獣肉の唐揚げ、食べ損ねた・・・」
目覚めた瞬間、そう言いながら起き上がったのは、フルール王国の辺境の片田舎にある小さな修道院の院長である宇佐美聖太だ。
聖太の両隣には双子の幼馴染が二人そろって素っ裸でグースカと寝ていた。
双子の名前は、兄が岩永勇人、弟が賢人という。
三人は60年近く前、ローレンシア大陸の南西にあるレムリア王国からの勇者召喚に応じて異世界からやって来た。
正確には召喚に応じたのは双子の兄弟だけで、聖太は双子に無理矢理連れて来られただけだった。
故意の巻き添えだったのに、聖太は希少な「聖母」の称号持ちで、大昔に勇者召喚された双子の勇者の、魔王討伐後に異世界へ帰還した弟の傍系の子孫でもあった。
勇人と賢人の方は、岩永家に婿入りした父親が直系の子孫であったので、その名が示す通り、「勇者」と「賢者」の称号持ちであった。
そして勇人は、ローレンシア大陸で現在、正式に「勇者」の称号を持っている三人のうちの残り一人でもある。
60年の間に色々あったが、今は三人プラス一匹だけで、人里からは遠く離れた修道院で隠居生活を送っている。
気が向いたらバザーを手伝ったり、スタンピードが多い地域に出向いて冒険者として活動する程度だ。
聖太は自分の両脇で眠る双子を起こさないようにベッドから降りると、部屋の片隅に置いてある大きな鏡に全身を映した。
鏡の中の聖太は、短めの乳白色の髪に東雲色の瞳を持った15歳位の、中性的で眉目秀麗な少年の姿をしていた。
聖太は鏡を見ながら、教会から支給されている司教の制服に着替え、身だしなみを整えた。
異世界から召喚された時に、三人とも肉体がこちら側の世界に合わせて再構築された。
見た目は普通の人族であるが、遺伝子の中に眠っていた獣人の根源が加わって強靭な肉体を得た。
そして膨大な魔力をも得たおかげで、三人は不老に近い体になっていた。
おそらく寿命も数倍かそれ以上に長くなっている筈だ。
不死ではないので、致命傷を負ったり、難病にかかれば寿命を待つ事無く死ぬのは普通の人間たちと変わらない。
しかし、いつまでも若い姿のままでは不都合もあるため、聖太は賢人が作った認識阻害の魔道具を身に着けて、他者には実年齢に合わせた容姿に見えるようにしていた。
今ベッドの上で裸で寝ている勇人と賢人も魔道具を外しているので、孫であるベルナールやジャンよりも若々しい、20歳くらいの青年の姿をしている。
着替え終わると、聖太は亜空間収納から認識阻害の指輪を出して左手の薬指に嵌めた。
すると、聖太の見た目は白髪交じりの黒髪で、両目とも東雲色の60代位の老人の姿に変わった。
「よし、今日もお勤め頑張るぞ!」
老人とは思えない軽やかな足取りで厨房に向かうと、聖太は三人分の朝食の準備を始めた。
この小さな修道院には院長である老齢の聖者と、聖者の幼馴染の、やはり老齢の双子の聖騎士と、白く大きな、角の無いウサギしか住んでいない。
と、いうことになっている。
「桃らぷの裏設定通りなら、何年かしたらルル坊がここに住むことになってたけど、シナリオ変わっちゃったみたいだから来ないかもしれないね。」
聖太は、厨房で草を食む大きなウサギを話し相手に、パン生地を作り始めた。
「裏設定通りだったら、ルル坊、ここで魔力詰まり一気に開通させてさ、激痛で十日位寝込む予定だったんだけど、上手く回避しちゃったよね。痛くなく治してあげる予定だったのにな。残念。」
「・・・・・・」
「それにヒロインの一人が僕らのひ孫だったなんてね(笑) しかももう一人は男の子だし。これだけ変われば最悪の未来も少しはマシな方に変わってるよね? 変わってないと困るんだけどさ。そのためにルル坊に前世、思い出してもらったんだし。」
白い大きなウサギは聖太の話に興味なさそうに欠伸をした。
「ねぇ、聞いてる? 仮にも君は僕の聖獣なんだからさ、もうちょっと愛想よくしようとは思わないわけ?」
「隙あらば俺様をどう料理しようか、よだれ垂らしてみてる奴に愛想なんか振りまけるかよ。」
白い大きなウサギは太々しい態度と口調で言った。
「しかも、出会ってから50年近く経ってるのに、いつまで俺様を名無しにしておくつもりだ? 俺様はお前の非常食じゃなくて聖獣なんだぞ?」
「え~、だってさ、名前つけたら情がわくじゃん。」
「情をわかせろ。いい加減、名前を付けろ。」
「今更?」
「今更でも何でも付けろ。新入りの、お前のひ孫の聖獣、フェンリルにはもう名前が付いたんだぞ!」
「ルル坊、仕事が早いなぁ! 僕の長男のエミールはさ、コウノトリの名前、ニ三日迷ってた!」
「お前の50年は長すぎだ!!」
「ウサギはウサギでいいじゃん。それかラビットとか、ラパンとか?」
「お前の世界の他言語のウサギじゃないか! もっと俺様に相応しい、高貴な名前を考えろ!」
「そう言うけどさ、出会ってすぐに名前考えて付けようとしたのにさ、君が駄目だししてさ、嫌だって騒いだんだよ? だから面倒くさくなってやめたんじゃん。」
「だって、お前がシロとかジャンボとか、見たまんまで付けようとするから!」
「ペットに見たまんまの名づけはさ、僕の生まれ育った世界では普通なの。シロとかクロ、後は太郎とかジョン、犬太、タマ、ミケ、あとは小鉄とかニャンコ先生!」
「息子や娘の名前のように、もっと願いとか、意味のある名前にしろよ。それに俺様はペットじゃない!」
「ええ、子供たちの名前なんか、そんな深く考えて付けてないよ。アマデウスは教会側が勝手に僕とエミールの本名の上にくっつけた名前だし。エミールはさ、僕の両親の名前の読みをばらしてくっつけたんだよ。エミとワタル、元気かな? 娘のヴィクトリアは日本語だと勝利って意味だし、祖母ちゃんの名前が勝子だったんだよ。アルのアウルム・オウルは黄金と森の賢者のラテン語読みだったかな。賢者の称号持ちで生まれたし、錬金術のスキルも持ってたからな。」
「ええぇぇ・・・」
「君が考えすぎなんだよ。名前に夢持ちすぎ。」
「だって、鳥の野郎が・・・」
「鳥?」
「エミールの鳥!」
「ああ、エメリック!」
「鳥野郎、自分の名前は神のお告げだとかなんとか・・・」
「ぶはっ! エミールのやつ、エメリックが知らないと思っていい加減なこと言ったんだな!」
「どういうことだ?」
「エミールたちが小さい頃さ、寝かしつけの時に僕が小さい頃に見たアニメの記憶を見せたんだ。」
「あにめ???」
「要は、動く絵の劇?って言えばわかるかな? その中の冒険系の物語にエメリックっていう名前のコウノトリがいたんだよ。」
「・・・つまり、異世界の物語のコウノトリの名前?」
「そうそう。エミールのやつ、アニメの説明が面倒でお告げとかなんとか旨い事言ったんだな。あいつ、勇人に似て結構腹黒いから、そういう悪知恵が得意なんだよな。」
「血は争えないな!」
「だからさ、いくつになっても我が子たちは可愛いよな!」
「お前の可愛いの基準がオカシイ・・・」
「そうか? 君のことも充分可愛いって、思っているぞ?」
「・・・そうなのか?」
「ああ、もう、食べてしまいたいくらい可愛いぞ!」
聖太の言葉に、ウサギはブルリと体を震わせ、そそくさと外に飛び出して行った。
「はははっ、可愛いすぎ、とか、大好き、って意味なんだけどな。」
聖太は魔法を使ってパン生地をこねたり、発酵させたりを何度か繰り返すと、ロールパンの形に成型してオーブンに入れた。
「結局、名前、またつけそこなったな。まあ、いいか。」
余談と裏設定
シャルルの認識阻害の腕輪は賢人とアウルムの親子共作
聖太は愛し子ではなく加護持ちで、昼夜で色が変化するのは瞳のみ、乳白色の髪は地毛
瞳は、昼は東雲色、夜は紅色
勇人と賢人は黒髪、右が空色の瞳、左が琥珀色の瞳のオッドアイ
バザー時は左側を前髪で自然に隠していた
アマデウス・聖太・宇佐美・ド・ブランシュール
実年齢75歳 見た目15歳
前教皇アマデウス11世
退位後は修道院の院長をしている
獣人の根源は兎
見た目合法ショタな自由人
フルール王国・前ブランシュール魔法伯の養子
岩永勇人
実年齢75歳 見た目20歳
勇者
獣人の根源は狼
俺様熱血に見せかけた腹黒
スーパー攻
ベルナールの母親と現教皇の実父
岩永賢人
実年齢75歳 見た目20歳
大賢者
獣人の根源は梟
鬼畜眼鏡なツンデレ
聖太にだけデレ その他にはツンドラ級のツン
シャルルの祖父アウルムの実父
聖太にだけ攻受両刀
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聖獣イースターバニー
名前 ?
60歳
称号 先代教皇アマデウス11世の守護聖獣
女神の御使い
特殊スキル 転移 亜空間収納 体力と魔力の自動回復 真贋 変幻自在 身体強化 状態異常無効化
スキル 結界 治癒 浄化 隠蔽 認識阻害
属性 聖 無 氷
体力 50000
魔力 25000
状態 アルビノなので、日本白色種のジャンボウサギにしか見えない
名付けが終わっていないので、成獣になっていない
成獣になっていないので、人化すると10歳くらいのウサギ獣人の子供の姿にしかなれない
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聖太はブランシュール魔法伯家の養子だが、息子のアウルム・オウルは婿養子として魔法伯の地位を受け継いだ。
アウルム・オウルの妻は、魔法伯家の直系の娘で、義理の従妹。




