第16話 僕の聖獣
ヒヨコ化しているフェンリルの幼体が眠る籠を抱き抱えて、僕は祖父の屋敷内にある自分の部屋に戻った。
最近、兄たちと僕は子供部屋を卒業して、個室をもらったんだよ。
いつも三人べったりで一緒に寝ていたから、急に一人で寝ることになったのは寂しいんだよね。
だから、たまに父上と母さまの部屋で一緒に寝たり、兄たちが僕が寝るまで傍にいてくれることもあるんだ。
だから今は一人でも大丈夫、かな?
カドケウスが毎晩一緒にいてくれるから、厳密には一人じゃないんだけど、蛇は体温低いから、夏しか添い寝できないんだよね。
でも、これからはこの子がいる!
モフモフと添い寝!
夢みたい!!
「主の聖獣はフェンリルじゃったか。」
カドケウスがベッドの枕元に置いた籠の中を覗き込んだ。
「カドケウスの前の主、先代の教皇さまの聖獣は何だったの?」
「白い兎じゃった。」
「代々違うんだね。」
「前の主は兎が好物じゃったから、繁殖させてジャンボウサギの牧場を作ろうとしておったの。」
ジャンボウサギと聞いて思い出したのは、前世の世界で見た日本白色種──ジャパニーズホワイトの品評会のニュース映像。
10kg越えの、大きくなりすぎてキュートさがなくなった、ドヤ顔のウサギさん・・・
でも、それより、繁殖させて牧場とか・・・
「・・・まさか、先代の教皇さま、聖獣を食べようとしてたの?」
「流石にそれは拙いと思ったのか、角兎と交配して繁殖させようとしおっての、聖獣に仕置きされておった。聖獣は番以外とは繁殖できんからの。」
先代さま、まさかの生臭坊主・・・
「教皇も色々じゃ。まぁ、あやつが一番、能天気で破天荒じゃったが。」
「他にも何かあったの?」
「うむ、教皇の称号が出る前に子を成しておってな、父親違いの子供が三人いたのう。」
父親違い・・・?
あれ、でも、先代の教皇さまって祖父のお父さまだっだよね?
「腹違いじゃなくて?」
僕の疑問を察したのか、カドケウスが微妙な表情で僕から視線を逸らした。
「先代はの、男で異世界人じゃった。幼馴染の双子の兄弟が勇者と大賢者でな、本当なら二人だけを勇者召喚するはずじゃったんじゃ。それがその二人にむりやり一緒に引きずり込まれてしまっての・・・」
うわぁ~
事故じゃなくて、故意の巻き添え?
勇者召喚で??
え、じゃあ、故意の巻き添えがなかったら僕も兄たちも、母さまも、祖父も、みんな今ここに存在してないってこと?
「あやつが持っていた初期の称号と特殊スキルのお陰で主の祖父たちは生まれたのじゃ。」
「えっと、その称号とか特殊スキルって何なの?」
「称号は『聖母』で、特殊スキルは『処女懐胎』と『人工子宮』じゃ。じゃから、性別に関係なく、自分や自分以外のモノの赤子を作ることができたんじゃ。」
男の人に「聖母」の称号って、なんか、前世の母が好きそうなBLファンタジーの設定が来たよ!!
しかも処女懐胎とか、人工子宮?
人工子宮ってことは、体外受精とかで、ヒーローものの人造人間的な怪人を作る装置とか、錬金術師がホムンクルス作るフラスコ的なもので胎児を作って育てたのかな?
「お祖父ちゃま、そのこと知ってるの?」
「知っとるじゃろうな。代々受け継いでおるし・・・」
「・・・代々・・・?」
「主の大伯母にあたる者とその娘が『聖母』の称号を受け継いでおるぞ。ああ、ちなみにじゃが、主の祖父さんの兄と姉の片親は召喚された勇者で、主の祖父の方の片親は勇者の双子の弟の大賢者じゃぞ。」
曾祖父たちがまさかの三角関係?
・・・これもまた前世の母が好きそうな・・・
僕にはそんな称号もスキルもなくて良かったぁ・・・
でも、曾祖父たちってどんな人たちなんだろう?
僕、会ったことあるのかな?
記憶に無いから、会ったとしても、ものごころがつく前かもしれないね。
祖父が50代だから、70代くらいの年代かなぁ?
この世界は魔力が多いと寿命も長い傾向があるから、三人ともきっとどこかで元気に暮らしているよね?
いつか、会ってみたいなぁ・・・・
ふぁ~眠い・・・
今日は朝から働いて、いっぱい歩いたから疲れた。
もう、寝るね・・・おやすみなさい・・・
**カドケウスの独り言**
ふむ・・・
『聖母』と『処女懐胎』と『人工子宮』のことをもうちっと詳しく話しておきたかったのじゃが、主、寝てしまったのう・・・
『教皇』は『聖母』の上位互換なんじゃ。
つまり、『教皇』は下位の称号に付随する特殊スキル全て使えるんじゃが、まあ、まだ子供だしの、また今度話すとするかの・・・
そろそろ、わしも少し眠ろうかの。
おやすみなのじゃ・・・
*****
朝、目覚めると、ベッドの中に銀灰色のフェンリルの仔犬がいた。
仔犬は僕が昨日作った六角柱の魔石を抱きしめて丸くなっている。
「可愛い。」
生まれて数カ月目の柴犬の赤ちゃんみたいで可愛いすぎる。
僕はスピスピと寝息をたてる仔犬にそっと触れるように指先で撫でた。
「アルジェント・・・」
アルジェントは前世の世界のフランスという国の言葉で「銀」だ。
英語のシルバーとか、イタリア語で「灰色」のグリージョとか、英語のグレイもカッコいいけれど、仔犬になった姿はカッコいいよりも可愛いくて何となく気品もあるように見える。
だから言葉の響きが優雅な「アルジェント」に決めた。
「君の名前はアルジェントに決めたよ。宜しくね。」
名前と言えば、僕の前世の名前って何だったっけ?
前世の両親の顔とかはぼんやりと覚えてるけれど、僕も含めて両親とか、身近な人たちの名前が思い出せない。
魔力詰まりの治療を始めた時期から、前世の知識は残っているけれど、前世の記憶というか、いろんな人との思い出が少しずつ消えている。
彼の顔も朧気で、はっきりと思い出せなくなってしまった。
このまま少しずつ、前世の思い出が全部消えていってしまう、そんな気がする。
前世の思い出が消えるのは哀しいけれど、仕方無い事だって理解はしているんだ。
前世の記憶がある方がイレギュラーなんだもんね・・・
どんなに嘆いても元の世界には戻れないし、今いるこの世界で生きるしかないんだ。
大切な家族がいて、友達や仲間もいる。
そして、女神様が僕に与えてくれた小さな命。
名前も顔も思い出せなくなってしまった前世の優しい人たちに、今の僕ができることは祈ることだけだ。
どうか、幸せでありますように。
────────
おまけ
**先代教皇とカドケウスの過去の思い出**
「主、特殊スキルの人工子宮とは何じゃ?」
「ああ、胎外で胎児を育てるための装置──こっちで言うところの魔道具みたいなものさ。俺のいた世界の昔話で、桃から赤ん坊が生まれる御伽噺があるんだ。だからさ、人工子宮の特殊スキルで見た目が桃の人工子宮を作ったんだ! だから俺の子供たち、三人とも桃から生まれたんだぞ!!」
「意味がわからないのじゃ・・・」
「まず、デカいピンク色の魔石を作ってさ、見た目を桃に加工して中を人工子宮に変換してさ、魔石の中の俺の魔力を卵子に変換して、あいつらの魔力を精子に変換して受精させたんだ。あとはそのまま人工子宮の中で魔力で育てて、ヒヨコが卵の殻割って生まれるように、子供たちは自力で桃型人工子宮を魔力でパッカーンと割って生まれたんだ。」
「・・・本当にそのような工程で、赤子ができるものなのかのう?」
「・・・まぁ、そこは異世界ファンタジーだし、女神様腐ってるし、無問題!」
余談
シャルルは前世も今世も信心深い子なので「お祈り」が日常的に沁みついております。
補足
聖母について & 裏設定
聖母は、魔力や体液や細胞の一部を精子や卵子に変換して受精卵をつくることができる能力を持っている。
魔法で人工授精した受精卵を作り出し、母体に移植する特殊スキルが「処女懐胎」
母体がいない場合、特殊スキル「人工子宮」で魔石を人口子宮に変換、その中で二人分の魔力を掛け合わせて人工授精し、胎外で胎児を育成できる環境を作り出せる。
しかし、やりようによってはクローンを作ったり、人と魔獣のキメラ(改造人間的な?)も作り出せるので、聖母の称号と能力は秘匿されている。
無暗に生命を生み出さないように使用制限もある。(年に一回位)




