第12話 勇者の子
う~ん・・・
錫杖は「付喪神」的な精霊さんがたまたま、ってことでいいよね?
僕の魔力が何か産みだしたんじゃなくて、「付喪神」的な精霊さんがたまたま近くにいたのさ、きっと!
そう思わなきゃ、現実逃避しなきゃ、神経が持たないよぉ・・・
ああ、でも帰ったらカドケウスと祖父に錫杖見せて相談だね。
何か気軽に物に付与とかするのを禁止されるのは困るよ。
気持ちを切り替えて、僕らはギルドを出て近くの広場へ向かった。
今日のお昼ごはんは屋台で買い食いするんだよ!
ずっと楽しみしてた買い食い!
「シャルルは何食べたい?」
「ラップサンド!」
教皇国があるローレンシア大陸は大小様々な国があるんだけれど、僕のような異世界からの転生者とか、異世界から勇者として召喚された者たちがたまにいて、その転生者と召喚者たちが持ち込んだレシピが一般に普及しているんだ。
だから、タコ焼きとかお好み焼き、クレープとか、サンドイッチとか、おにぎりとか、色んな軽食の屋台があるし、食堂ではラーメンとかも食べられるんだ。
お米や味噌、醤油、マヨネーズにカレーもあるんだよ!
ラップサンドはね、時々兄たちが、冒険者ギルドの依頼の帰りにお土産に買ってきてくれてたんだ。
それで僕は今、薄焼きのガレットっぽい生地で具材を巻いたラップサンドにはまってるんだ。
具がね、季節によって変化するし、味付けも選べるから食べやすいし、美味しいんだよね。
おしぼりとかウェットティッシュはないけど、浄化魔法があるから多少手とか口周りが汚れても平気。
外で買ったばかりの出来立てを食べられるなんて幸せだなぁ。
三人並んでベンチに座ってラップサンドにかぶりついていると、僕らの前を王立学園の制服を着た数人のグループが通りかかった。
「仔ブタ?」
聞き覚えのある声に顔を上げると、見目麗しい男女のグループの中央にいたギルバート君と目が合った。
ギルバート君と会うのは去年のお茶会以来だから、一年ぶりくらい?
一年会わなかっただけで、ギルバート君は随分と背が伸びたみたい。
なんかちょっと大人っぽくなったかな?
ゲームでは取り巻きに護衛ポジのイーサン君と侍従ポジのスチュアート君もいたけれど、時期が違うからなのか、今の取り巻きの中には二人ともいないね。
「こんなところで何をしている?」
「お昼ご飯食べてるんだよ。」
「それ、うまいのか? 野菜だらけじゃないか。」
「ボイルしたチキンも入ってるよ。」
「ふうん。で、その、お前の両隣に座っているのは誰だ?」
「僕の護衛のオスカー君とアンディ君。」
「護衛? 子供じゃないか!」
「ただの子供じゃないもん。父上の弟子だし。」
「はぁあ?」
聖騎士だとは言えないので、もし知り合いに会って聞かれたら二人のことは「父上の弟子」ってことにしているんだ。
平常時に聖騎士を護衛にできるのは教皇聖下とか枢機卿だけだからね。
聖騎士が僕の護衛についているなんて関係者じゃない人に知られたら大騒ぎになっちゃう。
「貴様ら、ズルイぞ!」
父上の熱狂的なファンであるギルバート君が顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ。
背が伸びて大人っぽくなったのに、言動と行動がまだまだお子様だ。
「ズルくないよ。二人ともうちの騎士見習いの試験受かってるんだから。」
オスカー君もアンディ君も聖騎士の試験を受けて受かっているから、子供だけど実力はフルール王国の王立学園の騎士科の生徒たちよりも上なんだよね。
まあ、冒険者活動の時は「大公家の騎士見習い」ということになっているけどね。
「ぐぬぬぬぬ・・・」
ギルバート君が悔しそうに僕らを睨んだ。
大公家の騎士見習いの試験は聖騎士団のよりは簡単なんだけど、年齢に関係なくみんな同じ内容だから子供は不利なんだ。
教皇国の魔法学園の騎士科の卒業生なら実技と面接だけなんだけどね、そうじゃない人は座学もあるんだ。
ギルバート君は去年、わざわざ聖騎士と大公家の見習い騎士の試験を受験したみたいなんだけど、どちらも座学の合格ラインには届かなかったんだ。
合格ラインに入っていたとしても、聖騎士ならともかく、大公家の騎士に他国の王子を受け入れることなんかできるわけがないから不合格になったんだよね。
ちょっと考えれば無理だってことがわかるはずなのに、ギルバート君はホント、考えなしだね・・・
「仔ブタ、やはり、俺たちは婚約しないといけないな!」
は?
何言ってんの?
ギルバート君の見目麗しい取り巻きの女の子たちが品定めするような目で僕を見て、なんか失笑しているよ。
失礼じゃないかな?
「男同士だし、僕は聖職者になるから、婚約はできません!」
僕がはっきりとそう言うと、ギルバート君は小首をかしげて
「男同士?」
と、不思議そうに僕を見た。
「仔ブタ、女子だよな?」
「僕、男だよ!」
「はあぁあああ? お前、俺を騙したな!」
「騙すも何も、僕のどこをどう見たら女の子に見えるのさ!」
「え・・・服。」
「服・・・?」
「だって、今日は違うけど、お前いつもお茶会では似合わないのにフリフリヒラヒラでデカいリボンついた服着てるじゃん。そんな服、女しか着ないじゃないか。ああもう、この際、男でもいい。どうせ俺様はスペアのスペアで後継は必要ないからな! 婚約者になれば勇者に会い放題! しかも、同居できるし、義理でも父上って呼べる! お前のようなブサイクはどうせ何処からも婚約の打診なんて無いだろう? だから引く手あまたな俺様が仕方なくボランティアで婚約してやるよ。もちろん白い結婚になるがな!」
僕たち、ギルバート君の長ゼリフに思わず呆気に取られちゃったよ!
「絶対、ヤダ!」
「な、不敬だぞ!!」
「不敬でも何でも絶対無理だし、ヤダヤダヤダ!!」
「何だと!!」
ギルバート君が拳を振り上げたところで、少し後ろにいた近衛騎士の人たちが「すみません、すみません」と言いながらギルバート君を回収して去って行った。
取り巻きさんたちも慌ててその後を追って行った。
「サイテー、王族としての教育、どうなってるんだ?」
と、あきれ顔のアンディ君。
「アンディ君が将来勇者になったら付きまとわれるかもね。」
「アンディが団長の、別の勇者の子供で女子だとわかったらプロポーズされるかもな。」
アンディ君の父親のベルナール君は聖騎士団長で、聖なる盾イージスの主で、勇者の称号も持っている有名人。
勇者マニアのギルバート君は、もちろんベルナール君の事も大好きなんだけど、一番大好きなのはアゼルスタン王国の「悲劇の勇者」なんだ。
アンディ君はその「悲劇の勇者」アンドラーシュさまの姪なんだよね。
キャスケット帽を深く被って目元を見えにくくしていたからギルバート君は気づかなかったけれど、アンディ君の容姿はその「悲劇の勇者」の絵姿にソックリなんだ。
「ちょ、二人とも、縁起でもない事言うなよ! 俺は将来、立派な男の勇者になるんだから!」
「シャルルが言い寄られるよりは、お前のほうが面倒が少ない。」
「オスカー、絶対ばらすなよ? 俺、勇者の資格取る前に絶対性転換する!」
「マジかよ・・・そのまんまでもいいじゃん・・・」
オスカー君がため息をついた。
アンディ君の心は男の子で、体は女の子なんだ。
身も心も全部、男の子になる為に性転換の魔法とか呪いとか、方法を探してるんだよね。
でも、僕はできればランス兄上と結婚してほしいなって思ってるんだ。
だって、アンディ君、優しいし、頼りになるし、綺麗だし、理想のお姉さまにぴったりなんだよね。
「アンディ君、ランス兄上のお嫁さんになって、ついでに僕のお姉様になってくれないの?」
「シャルルと義兄弟になりたい気持ちはあるけど、お嫁さんは無理。ランスロットが女子なら喜んで結婚するけどな。俺は、お姉様より兄貴って呼ばれたいな。」
「義理でも姉弟になれないのは残念だなぁ・・・」
「ごめんな。こればっかりは譲れないんだ。その代わり、シャルルの専属になって、一生護るからな! 成人したら俺の騎士の誓い、受け取ってくれるよな?」
「もちろんだよ!」
ランス兄上と結婚して僕のお姉さんになってくれそうもないけれど、ずっとそばにいてくれるなら、専属聖騎士でもいいかな。
「シャルル、俺の騎士の誓いも受け取ってくれるか?」
不意に、オスカー君が僕の頭を撫でながら言った。
「もちろんだよ、オスカー君!」
僕が笑顔でうなずくと、
「アンディ、一足先に俺がシャルルの専属な。」
ニヤリと、ドヤ顔でオスカー君がアンディ君に向かって言った。
オスカー君は兄たちと同級生で、僕らより2歳年上だから、2年早く成人を迎えるね。
「騎士の誓い」は宣誓する騎士が成人していないと公に認められないんだ。
「オスカー、ズルイぞ!」
「オスカー先輩な。」
「くそっ!」
毎日こんなだけど、二人とも本当は仲良しなんだよ。
お互いの背中を預けられる相棒だって言ってたし。
僕も二人の事は心から信頼してるんだ。
だから「騎士の誓い」を僕に捧げてくれるのはすごく嬉しい。
だから僕も頑張る。
二人に僕の聖騎士になって良かったって思ってもらいたいからね!




