第9話 ヒロインたちの行方
聖者としての初任務は辺境の小さな村の小規模スタンピードの制圧だった。
小規模と言っても、小さな村の一つ二つ、簡単に飲み込まれてしまうから、侮れない。
今回は運よく予知スキル持ちの神官が時期と場所を特定できたので、兄たちとベテラン聖騎士の皆さんと一緒に速やかに制圧することができたんだ。
でもその辺境の村の神殿の主神が、死と再生の神アドニスさまだったんだ。
アドニスさまの庇護下の土地ではアドニスさまの眷属でない精霊の加護とか、隠蔽や認識阻害系の魔法やスキルは使えないし、強制的に解除されてしまうんだ。
だから新月の日の夜、僕の見た目は黒髪に宵闇色の瞳だったはずなんだけれど、その村に入ってすぐに本当の姿に強制的に戻されてしまったんだ。
そんな姿のことを気にしている時間もないから、そのまま予定通りにスタンピードの制圧をしたけどね。
アドニスさまの庇護下の土地に限らず、他にも精霊の加護が届かない場所もあるから、今後の聖者の活動時はフード付きのマントかベールが必需品になったよ。
それと後で気づいたんだけどね、その村、乙女ゲームでは壊滅してて、ヒロインが一人だけ生き残った村だったんだ。
大人も子供たちも、村人全員でアドニスさまの愛し子のヒロインを命懸けで守ったんだ。
そして家族同然だった村人たちを失って天涯孤独になったヒロインが、育ての親が今際の際に教えてくれた本当の父親の情報と母親の形見を手に、保護してくれた聖騎士団の助けを借りて伯爵家に向かうのがプロローグ・・・
実はね、今回のスタンピードは人為的なもので、犯人は現伯爵の亡くなった弟さんのお嫁さんなんだ。
自分の子供に爵位を相続させるために邪魔な嫡子を葬ろうとして起こした事件だったんだ。
聖騎士団の調査で、ゲーム内でも現実でも彼女は逮捕されて有罪が確定したよ。
ゲームでは嫡子の暗殺未遂、伯爵家の簒奪未遂に加え、たくさんの命が失われたから彼女の実家も含めて処刑されたけれど、現実では誰も亡くなっていないことから貴族籍の剥奪だけで済んだみたい。
そして村で隠されるように育てられていた伯爵の嫡子は、女の子じゃなくて男の子だったんだ。
報告書によると、その男の子は伯爵家の相続権の放棄と廃嫡を願い出て、養父と一緒に別の土地に移ったみたい。
養父はアドニスさまの神殿の神官だったから、アドニスさまの加護がより強い土地か神殿に移動したのかもしれないね。
ヒロインは、伯爵令嬢でも子息でもなくなったから退場になるのかな?
それとも、違う立場で王立学園に入学してくるのかな?
高等科の入学時期にならないと分からないよね・・・
ゲームのシャルルが好きだったヒロインかぁ・・・
一人は女の子じゃなくて男の子だったけれど、もしもヒロイン君?に会ったら僕、好きになったりするのかな?
それとも、もう一人のヒロインの方を好きになるのかな?
前世も今世もまだ誰かに恋とかしたことが無いから、誰かを好きになるとか、想像できないんだよね。
**もう一人のヒロインサイド**
聖騎士団の入団試験は、まず最初に座学で半分振るい落とされる。
次に面接でさらに半分以上が落とされる。
最後の実技試験で合格するのは数人だけで、合格者がいない年もある。
本当なら今年の試験の合格者はゼロだった。
けれど、聖剣に選ばれた少女が、
「自分の実力が今どのくらいなのか知りたい。」
と言って一般の受験者と共に入団試験に挑んだ。
まだ学園の中等科にも通っていない少女は座学でトップを取り、面接での受け答えも好印象で、マナーや所作も完璧だった。
最後の実技試験では聖騎士団でも五指に数えられる聖騎士と互角に渡り合った。
しかし、その雄姿を聖騎士団長ベルナール・ユーグ・ド・レイモンだけは苦虫を噛み潰したような顔で、溜息をつきつつ見守っていた。
少女の剣技も、そして彼女を選んだ聖剣も、十数年前に亡くなった親友で、別れた妻の双子の兄そのものだった。
違うのは年齢と性別と、彼女が自分の実の娘だということだけだ。
「アンドレア、お前は何のために聖騎士になる?」
試験終了後、聖騎士団長であり「勇者」の称号を持つ父の問いに彼女は悠然と微笑んで言った。
「勇者になるために。」
娘のまっすぐな瞳は「勇者」を目指して互いに切磋琢磨していた10代の頃の親友と同じ情熱を宿していた。
「・・・わかった。聖騎士団はお前を歓迎する。」
「ありがとうございます!」
少女──アンドレア・ルネ・ド・クレメンスはその日を境に令嬢の命とも言える長い髪を切り、男子用の見習い騎士服に身を包んだ。
そうすると、余計に亡くなった親友──アンドラーシュに生き写しで、ベルナールの心情はさらに複雑になった。
こうして乙女ゲームのもう一人のヒロインであるはずの侯爵令嬢も、ゲームとは違う選択をし、ヒロインの役割から離脱しようとしていた。
余談
聖騎士の試験に落ちても、最終試験に残っていれば神殿騎士(教会と神殿の衛兵)になれます。
受験者の大半は聖騎士は記念受験で、本命が神殿騎士だったりします。




