ep93 竜王戦 其の二
「これで9人目……と」
後衛陣に突撃して順調にキルスコアを伸ばしているのだが、これは全部で何人いるんだろう。見た感じ、後衛たちの半分くらいは削れただろうか。
「よっと」
後衛陣をカバーしに来た近接職たちの攻撃を軽く避けながら次の獲物を──
「おっと?」
速度に任せて私の包囲を突破すると、急いで最初に私たちが現れた場所に戻る。
「ちょっとまずい?」
私が後衛を潰しに行った後、そこに取り残されたリュティと奴隷は近接職プレイヤーたちと戦闘を繰り広げていたようなのだが、その奴隷がデスした。
「だ、大丈夫です!!」
「え」
体力が全損したはずの奴隷が起き上がって返事をしてきた……こわ、ゾンビ?
………ああ、前のイベントの時にもらった蘇生玉かな?一瞬驚いたけど、すぐに思考を切り替える。近くにいるメンツは最初に私を囲んでいたやつとあまり変わっていない。やはり強いプレイヤーが前に出てたのかな?聖剣使いも健在だ。
観察していると私に向かって矢と攻撃魔法が飛んでくる。比較的近い位置、聖剣使いの少し後ろにいる二人の女だ。後衛職は全員後ろにいると思っていたけど、そうでもないのか?そしてその片割れの、苦笑いしながら攻撃してきた方は確か──
「おらぁッ!!!」
振り下ろされた聖剣をナイフで受け、弾き返すとその隙にリュティが聖剣使いに攻撃する……が、これまた後ろにいか別の女がすぐに回復する。
「くらえっ!」
おそらく最初に私を囲んでいた近接職の片手剣使いが攻撃を仕掛けてきたが、これを軽く避けてナイフを放つ……が、盾で受けられる。
「ほう」
これは驚きである。流石は近接職といったところだろうか。
すぐにナイフを引き、盾の上から蹴りつけると盾が軽くへこみ、片手剣使いも軽く吹き飛ばされた。
「コニパスっ!!」
そんな声をあげたやつを次の標的にしようとすると──
「ッ!!」
後ろに飛びのき、飛んできた大量の魔法を回避する。そうだ、忘れていたが後衛陣が今はフリーなんだ。じゃあこういうこともあるよな。奴隷とリュティは無事かな?
見ると、多少のダメージを受けたようだがデスしてはいない。しかし、これはまずいな。前衛が思ったより強いうえに魔法まで飛んでくるとなると3人じゃあちょっと捌ききれないな。やはり後衛を潰しておくべきだったか……。
先ほど吹っ飛ばした片手剣使いが再び迫るが、振り下ろされた剣を紙一重で回避しながら距離を詰め、ガードの内側からナイフを顔面に叩きつける。すぐに振られた片手剣を高速で横に移動することで回避し、鋭角をつくるような挙動で片手剣使いに突撃し、ナイフを突き立てる。
「なんっ………だよその挙動はッ!!?」
叫びながらポリゴン片になった片手剣使いを尻目に、後衛陣から放たれた魔法の第二波を、ナイフで受けながら後衛陣に再び突撃する。多少ダメージはくらったが、何よりも後衛の排除が重要だろう。
手ごろな後衛風装備の女に狙いを定めて、突撃の勢いそのままナイフを叩きつけると、横から差し込まれた銀の何かに阻まれる。
「まったくもって邪魔が多いな」
気持ちよく戦わせてくれないものか。私の攻撃を邪魔したものは、銀のガントレットのようだ。そしてその持ち主は片手にガントレット、片手に剣を持ったへんてこな装備の女プレイヤーだった。
「それ、どっちかにした方がよくない?」
さらに2度、3度とナイフを放つが、どうも決定打にならない。ガントレットで逸らされ、受けられる。というか、固いなこのガントレット。さっきの片手剣使いの盾よりもよほど頑丈だ。いや、というよりこいつのプレイヤースキルのせいか?さっきまでは見なかった顔だ。
何度目かのナイフをいなされたあと、流石に防ぎきれないと判断したのか軽く後ろに飛んだその女プレイヤーのガントレット、その内側に掘られた2の文字。
「……まさか」
いや、まさかとは思うが、あの銀色のガントレット………前回イベントの2位報酬のメダルか?確か色んな耐性がついてて壊れにくいだとかテキストに書いてあったけど、それをガントレットに加工したとか?いや、わからんな。
「ッ!」
背後から放たれた聖剣を回避し、距離を取る。
「一緒に戦ってくれるんですね?助かります。ワイフズさん」
そんな声をかけた聖剣使いと、かけられたガントレットの女、さらに遅れてやってきた片手剣の男に後衛陣がバフをかける。というか、片手剣の奴は殺したはずだけど……こいつも蘇生の玉持ってたのか。
「ッチ!」
聖剣使いにナイフを放っても防がれる。ガントレットの女には逸らされる。聖剣使いはおいておいて、ガントレットの方はうまいのが腹立つ。ちょくちょく飛んでくる魔法もうっとおしい。置いてきてしまった奴隷とリュティは大丈夫だろうか。無理やり隙を作って「竜化」や「龍化」、ユーケイを使ってしまおうか?いやしかし……まだ半数以上残っているプレイヤーに対しここで切ってもいいものか………。とりあえず人数、人数を減らそう。片手剣使いの男。
「お前が穴だろ?」
ドッ、と片手剣使いの男の首に再びナイフが突き刺さる。クリティカルの手ごたえ。念のために素早くナイフを引き抜き、もう一刺ししておく。じわじわと体の端からポリゴン片に変わっていくのが見える。玉はもうない。これで確実に一人削った。多少楽になればいいのだけど。
片手剣使いから完全に意識を外し、散っていくポリゴン片を背に、聖剣使いとガントレットの女に向き直る。さて、こいつらはどうやって対処しようか………いや、圧倒的なAGIとSTRで確実に体力は削れているはずだ。回復にも限りがある。このままジリジリ削っていっても。「憤怒」の継続時間中に倒しきれるのではないだろうか?いや、楽観しすぎか、とりあえず軽く作戦を───
「強欲」
「え」
ゴリっと、私の体力が削れる。視線を落とせば、私の胸からは剣が生えている。方向的には後ろ、角度的には斜め下、ユーケイの内側から刺されたのだろう剣が、私の体に突き刺さっていた。
新しく背後に人が来たなら気が付くはずだ。いや、「隠密」か?とりあえずこいつを殺して………。
「は?」
そこには、二度死んだはずの片手剣使いが立っていた。
「ッ!」
聖剣使いとガントレットの女が距離を詰める気配で、止まった思考を無理やり動かす。が、一瞬対応が遅れた。迫る聖剣を何とか身を捻って回避しかすり傷にとどめ、続くガントレット女の直剣を何とか受ける。しかしまずい。これは耐性が──。
「ぐっ……う」
すぐさま飛んできた攻撃魔法が私に直撃する。削れる体力、まずいと思った。休む暇もなく届く連撃を何とか最小限にとどめたが……抵抗むなしく私の体力は全損した。




