ep80 乗るか、盗るか
さて、アルタ大陸に行くといっても船が必要なわけで、さらに言うならその船に乗るにはチケットがいるらしい。あいにくと私はそんなもの持っていないし、フカセツさん曰くもう完売してしまったらしい。こうなってしまっては仕方ない。私がアルタ大陸に上陸するために。
「盗るか、船。」
「落ち着いてくださいアヤさん」
「ん?どうしたのフカセツさん。一緒に行くかい?」
フィアの町の路地裏。現在多くのプレイヤーを賑わせている新大陸。そこに向かうためプレイヤーによって造られた船。その希望の船が停泊しているその港町でアヤはフカセツテンと行動を共にしていた。
「そうではなく、普通に乗ってはどうです?」
「チケットが無いじゃないか」
「チケットなら入手しておきましたよ。それも三人分」
「…………え?」
さも当然といったようにそんなことを口走るフカセツさんに一瞬思考が止まる。
「チケットって、船の??すごい倍率だって聞いたけど…………三枚も?どうやって?というかそういう大事なことはもっと早く教えてよ。危うく船を襲撃するところだったじゃないか」
「方法は…………まあ、私たちの入手した情報のうち価値が低いと判断したものを…………こう、ちょいっと、ですよ」
「ちょいっと、ね」
なんか可愛げのあることを言い出した。この人はこんなキャラだっただろうか?いや、こんな感じだったかもしれない。要はあれか、裏で情報屋的なことをしてたのか。
「…………どのラインまでちょいっとしたか後で教えてね。というか、三枚か。どうしよう?一枚余るよね?」
「おや、リュティさんは行かないのですか?」
「あー、なんかやることがあるっぽいよ」
「そうなのですか…………奴隷さんでも誘いますか?」
その、奴隷って言い方クランメンバー共通なんだ……私たちが始めておいてなんだけど、ものすごく不名誉だな。かわいそうに………いや、それほどかわいそうに思わないな。
「彼は…………どうだろう?多分来ないんじゃないかな?なんか最近釣り?にはまってるらしいし」
「…………はぁ?」
「はぁ?と言われても私は知らないよ。詳しくは直接聞いてよ」
心底理解できないといった風に呆れた声を上げるフカセツさん。私も詳しく知らないのだから聞かれても困る。なんでも、釣りだかなんだかをやっているアイドルだか何だかがどうのこうのって…………いや、何もわかってないな、私。理解する気が無いのかもしれない。
「では、どうしても一枚余ってしまいますね。どうしましょう?」
「フカセツさんの方がいいように使えるでしょ?任せるよ。最悪転売してクランの活動資金にでもしよう」
「了解です。活動資金と言っても、正直私たちって各々が好き勝手にやってるところありますけどね」
「自由でいいでしょう?」
「ふふ、そうですね」
出港は明日。土曜日の夜という多方面に配慮された時間だ。いやはや、ゲーマーとして新マップの開放は実に楽しみである。
※
さて、1時間弱の航海を経て実にスムーズに新大陸にたどり着いた。道中クラーケンなる魔物が出たらしいが、あいにく私は良く知らない。せっかくだから「暴食」でひとかじりしたいと思っていたのだが、船旅があまりにも暇でぼーっとしていたらいつの間にか倒していたらしい。どうも、できる限りの対策を積んできて、それがきちんと機能した結果らしい。ということで、私の今日の「暴食」は新大陸のモンスターまでおあずけである。
船から見た感じ、アルタ大陸はルド大陸と比べはるかに緑豊かなようだった。ルド大陸がほとんど荒野なのに対し、この大陸は平原のような土地が広がり、港町の外には森が広がっている部分も見受けられる。
船を降り、町の中を探索するもの、早速町の外に繰り出すもの。その誰もが一様にワクワクした顔をしている。かくいう私も楽しみなわけだが。
そんな私の隣にフカセツさんが寄ってくる。
「さて、どうしましょうか」




