ep76 3次元は絶妙に絶妙
「クソッ、クソッ、クソッ」
昨日の戦闘を思い返し、またイライラする。「最果ての塔」から戻った私を大人数で襲撃してきやがったプレイヤー達。女子高生を集団リンチなんてひどいよね。いや、でも最後のは判断ミスったかな?正直逃げの一手に専念すれば逃げ切れた可能性………いや、無いな。あれは確実に私を潰しに来る布陣だったし………。
「クソッ」
「ねぇ反町、その小声でクソクソ言いながら私の椅子を蹴るのはやめてくんない?」
……………ふむ。どうやら無意識に足が出ていたらしい。前の席に座っていた浜谷さんが文句を言ってきた。
「どーしたの?何かあった?」
くるりと体の向きを変え、私に正面から向き合うような態勢となった浜谷さんがそんなことを聞いてくる。
「……………陽キャには、わかんないことだよ」
偏見でしかないと思うけど、こういうコミュ力高い清楚系可愛い女子ってゲームとかしなさそう。休みの日もゲームデバイスよりも雑誌とか勉強道具に向き合ってそう。
「え?私はどちらかというと陰キャだと思うけどなぁ?」
「……………」
なんだろう、これは。多分皮肉じゃなく思ったことを言ってるだけなんだろうけど、だからこそちょっとイラつく。もう一回くらい椅子を蹴っておこうかな?
「で、どうしたの?何か嫌なことでもあった?」
「…………まあ、昨日ゲームで、ちょっとね」
「ゲーム?何やってるの?私はあれやってるよ、ツメツメ!」
ツメツメ………人気キャラクター達がモチーフになってる、携帯端末向けのパズルゲームか。なんだよJKかよ。
「はぁ……」
「え!?なんでため息ついたの!?」
「……別に、というか、ゲームってそういうんじゃない。専用のデバイスとか、いるやつ」
ため息交じりにCkoの解説を始めると、何やらふふっと嬉しそうに笑う浜谷さん。
「………なに?ちょっとキモいよ?」
「いや、反町さぁ。最近は結構普通に話してくれるようになったよね」
「はあ?なに、普通って」
「ん-と、なんか前は緊張してる感じっていうか、ちょっとオドオドしてるっていうか、そんな感じだったじゃない?」
「……………」
なんだ、この女。親か何かかよ。
……………心当たりはあるけど、指摘してくるなよ恥ずかしいな。とりあえず椅子を蹴っておこう。
「なんで蹴ったのぉ!?」
「……なんとなく」
「むぅ………まあいいや。とりあえず、私もやってみようかな。そのゲーム」
「うん……………え?そんな話してたっけ?」
「え?ちがかったっけ?」
「えぇ………まあいいけどさ。VRデバイスってそれなりの値段するよ?」
「大丈夫!バイト代あるし」
そういう問題なのか?まあ、浜谷さんがいいならいいか。私にはあんまり関係ないしね。
「あ、反町が色々教えてね」
「えぇ………」
※
「ふむふむなるほど?予想はしてたけどロクな情報は無いね。四大特異点」
鬼神を倒した旨をとりあえずフカセツさんに伝えた後にインターネットで検索をかけてみたのだが、ロクな情報がヒットしなかった。
「いったんフカセツさん待ちか、最悪自分の足で情報を集めるしかないかなぁ」
大学の講義室で携帯端末をいじりながらそんな独り言をつぶやいていると、不意に声をかけられる。
「纐纈さん、少しいいかな?」
「…………?」
声のした方に目をやると、何やら見覚えのない男が一人。いったい何の用かは知らないが表情と目線で続きを促す。
「今週末に飲み会があるんだ。男女合わせて10人くらい来るんだけど、良ければどうかな?みんなこの学科の人だし、仲良くなったら損はないと思うんだけど」
なんだ、合コンの数合わせか。そういうのは別のやつに頼んでほしいものだね。
「すみません。あまり夜に出歩くのは得意じゃなくて………」
「いや、そこをなんとかさ。纐纈さんが来るなら行くって人も何人かいるんだ」
はぁ、私が断っているのが分からないのか?第一、なんでわざわざそんなめんどくさそうなイベントに参加しなくちゃいけないんだ。
「すみません。別の人を誘っていただけると助かります」
そう言って荷物を持ち、席を立つ。午後の講義まで時間があるから適当な教室で時間をつぶしていたのだが、まさか変なイベントに誘われることになるとは。まったく、ああいうのは陽キャ同士でやってほしいよね、ほんとに。
さて、次の講義までどこで時間をつぶそうかと考えていると、なんだか途端にめんどくさくなってきた。
「よし、午後はサボろう」
そう決めるが早いか、紋はさっさと帰路についた。




