ep71 鬼神戦 其の参
スキル「暴食」。ユニークスキルの一つであるそれは、モンスターの一部を経口摂取することによって自身のステータスを上昇させるものである。当然、ステータスの上昇幅、上昇するステータスの種類はモンスターによって変動し、格下のモンスターを食した場合のステータス上昇は皆無と言っていい。しかし、格上を食べた場合の上昇率はそれなりのものである。
そして、日付の変更とともにクールタイムがリセットされるそのスキルの条件はあくまで、「モンスターの一部を経口摂取する」ことであり、当然ではあるがモンスターの状態は指定していない。
驚きに少し目を見開く鬼神の顔を目の端にとらえながら鬼神の首筋の肉をごくんと飲み込む。よく考えれば、鬼神の肉なんて早々食べる機会はないよな。珍味と言っていいのではないだろうか。まあ、感想としては特段美味しくもなく、かといってまずくも無くといった感じなのだが。
驚きからか一瞬動きを止めた鬼神の頭に、先ほどまで鬼神の右腕をつかんでいた手を回し、そのまま首に岩竜のナイフを突き立てる。
そこまでしてやっと鬼神が凄まじい力で抵抗を始めるが、私はぎゅっと鬼神をつかみ、首にナイフを突き立て、ねじり、鬼神の命を絶つために全力を尽くす。
鬼神の抵抗にゴリゴリとHPが削れるが、こいつのHPもゴリゴリと削れていることだろう。
お互いに全力で相手を殺すために動くが、そんな状態も数秒あれば変化する。
先に限界が来たのは───
私だった。
全損するHP、力が抜け、倒れる体。勝ちを確信し、慌てた顔から真顔に戻る鬼神。そんな中。
『HP:135→145』
『MP:72→82』
『STR:133→143』
『VIT:80→90』
『AGI:140→145』
一瞬過ぎる攻防の中では凄まじく遅く感じる、スキル「暴食」によるステータス上昇の適応。それにより、全損したはずのHPが上昇分、つまり10だけ回復する。
一瞬の好機に導かれるようにアヤは跳ねるように起き上がり、油断しきった鬼神の首にナイフを振るい、全力の力を籠め振り抜く。
考えて実行したわけではない。そもそも、「暴食」によってHPが上昇することなど、誰にも断定できることではなかったし、この時のアヤは想定すらしていなかった。
しかし、勘と反射で本能のように振るったナイフは確かに鬼神の───
────四大特異点、鬼神ムンダーのHPを全損させるに至った。
《四大特異点「鬼神」を討伐しました》
《白神は未だ深い眠りの中にいます》
『レベルが上昇しました Lv.109→113』
鬼神が分身たちとともにポリゴン片となって消え、そんなアナウンスが流れる中私は地面に倒れ込む。
「つ……つかれた……………いや、やばかった……」
ラッキーだった。こんなことを言いたくはないが、正直負けたと思った。やるじゃないか、私。流石私だな。
体を少し起こし、鬼神が消えた場所を向くと、刀が一振り落ちていた。これがドロップアイテムだろうか?手に取ると
【《神聖武器:神刀ヤシオリ》を獲得しました】
「うわ、まじか………」
神聖武器らしい、そんな高頻度で出てこられてもレア感が薄れるのだが………。というか、武器がドロップするならあの鬼神が使っていたロングソードが落ちそうな気がするのだが、そういうわけでもないらしい。見た目はロングソードとは似つかない日本刀である。
しかし、神刀ヤシオリの能力を確認したことでその疑問は晴れる。というのも、どうやら神刀ヤシオリの能力の一つに形状変化というものがあるらしかった。この能力を使いロングソードに変形させていたのだろう。何故ロングソードなのかは知らないけど。
私はナイフサイズに変形させたヤシオリを数回振って使い心地を確認する。どうやら重さなんかも変化するようで、片手で軽く振り回すことができた。
「しかし、これは便利だな」
ナイフサイズから最大大剣サイズまで変化可能であるらしいヤシオリはかなり使い勝手がよさそうだ。ちょうど秋月のナイフが弱いなと思っていたところだし、ちょうどいい。代わりに使うとしよう。
おや、というかその秋月のナイフはどうなったのだろうか。たしか火球に向かって投げたと思うのだが。
私が秋月のナイフの行方を探そうとあたりを見回した時、急に空間がぐにゃりと歪曲する。
「お、お、なんだ?」
しばらくして歪曲が収まると、私は鬼神と戦う前に触れた祠の前にいた。どうやら戻ってきたらしいが。
「え……と、うん。秋月のナイフ、なくなったね」




