ep67 進化の行き先
大サソリや大きな亀を狩りながらどんどん進む私は久しぶりに手ごたえを感じていた。
新大陸はモンスターのレベルが高くて強い。つまり経験値がたくさんもらえるのだ。今までの大陸、中央大陸というらしいそこで出会うモンスターのレベルは基本的に私よりもかなり低いので、入る経験値も微々たるもの。それによって私のレベルの上昇もいつからか打ち止めになってしまっていた。
しかし!この大陸ではそうではない!!もちろん、この大サソリ君たちは基本的に私よりもレベルが低い。しかし、中央大陸ほど圧倒的な差ではないのだ。多分。
私にはレベルを数値として認識するすべはないから推測でしかないのだけど。
まあ、それはさておき、ついさきほど久しぶりにレベルが上昇した私は少し機嫌がいい。これでレベル107である。スキルポイントもたまってきたので、ここでひとつ新たなスキルでも覚えようかと思ったのだが、特に欲しいものも無いのでやめた。
…………いや、違うな。正直、できることならいろいろ欲しい。もっと効率のいい回復手段だったり、さらなる攻撃手段だったり、その他便利なもろもろであったり。しかし、こう…………なんというか、その中で特に欲しいものが決まっていないというか、正直どれを取ることが最適解なのか決めあぐねているのだ。
このゲームを始めたばかりのころは「隠密」に極振りしていたものだが、スキルのレベルが上がって要求ポイントが膨大になってから上げていない。なんというか、格下相手なら今のままでも十分隠れられるし、格上相手は効かなさそうなのだ。ほら、ボス相手に「隠密」とか効かなそうじゃない?…………いや、このゲームだとその限りじゃないのか?
まあ、あれだ、恩恵が感じられにくいとちょっと虚無感があるよねって話だ。
「ふむ」
なんだろう、なんだか「隠密」のレベルを上げない言い訳をしているみたいになってきたぞ。
うーん、まあとりあえずスキルの件は保留────
「────え」
荒野が続く中、遠くにうっすらと何か見える。
「あれは………廃墟?」
そう口に出してハッとする。私が以前拠点にしていたドゥルグ村。あそこは今どうなっているのだろう。四大特異点、鬼神とやらの襲撃を受けて崩壊した村は、丁度あんなふうになるのではないか。
「『竜化』」
スキルを起動し駆ける。
さほど時間のたたないうちにたどり着いたそこは、やはり思った通りの廃村のようなものであった。それも、何かに破壊されたような。しかし───
「───違う」
ここはドゥルグ村ではない。残っている建築物の残骸から想定される町並み、この場合村並み?が私の覚えているドゥルグ村とは明らかに違う。
ここで一つの可能性が生まれる。それは、ドゥルグ村はこの大陸に複数ある村の一つであり、ドゥルグ村を含む複数の村が鬼神による襲撃を受けて壊滅したというものだ。
「いや、予測に予測を重ねるのは良くないな」
あくまで可能性の一つとして考えるべきだろう。しかし、私はどうもこれが正しいように感じる。
「いや、バイアスがかかっていると考えるべきか?まったく、不便なものだよ、人間の思考能力ってヤツはさ」
鬼神本人がいてくれれば確証も持てるのだが……………いや、探してみるか。どうせ第二回イベントの後半、トーナメント戦までにはもう数日時間がある。
※
「むぅ…………」
中央大陸最南端の町、現在Ckoトッププレイヤー達の最前線の町であるノインの町、ツヴァイほどではないにしても、ほどよく栄え、壮麗な噴水広場が有名なその街にあるとある建物、酒場兼冒険者ギルドとしての役割を備えたその場所で一人の少女が不機嫌さを隠そうともせずにむくれていた。
PKクラン、臥竜天昇に所属している少女、リュティである。
「つまんない」
最近、アヤと遊べていない。新大陸にも連れて行ってくれなかったし、まったくもって面白くない。
アヤいわく、新大陸の推奨レベルは100を超えているということなので現在レベル83の私では少し実力不足なことは分かっている。わかっているからこそ余計むかつく!あと、予告もなしに小テスト始める先生もムカつく!!
そして、そのストレス発散のためにPKでもしようと最前線の冒険者ギルドに来てみたのだが、どうも活気が無い。
戦闘職のプレイヤーがお金を稼ぐポピュラーな手段の一つとして、冒険者ギルドで依頼を受け、依頼のモンスターを退治することで報酬を得るというものがある。
そこで、依頼を受けに来たプレイヤーを品定めするためにこんなところに居るのだが、この活気のなさ…………というか人の少なさはなに?ここは最前線のはずなんだけど、みんなもうこのゲーム飽きたの??
「フカセツに……………きいてみる……か」
困った時のフカセツである。チャットを飛ばすとすぐに帰ってきたその返信に目を通し、納得。
「なる………ほど。だんじょん」
どうもプレイヤーのトップ層たちは、この町の近くについ最近発見された高難易度ダンジョン。そこの攻略にかかりきりなようだ。そんな事情があったのならばわざわざ冒険者ギルドに来る人が少ないのも納得である。
しかし……………ダンジョンか。
「いってみる………か」




