ep62 混沌のNブロック 前編
目をあけると、見知らぬ家にいた。なんて、もはやありきたりとすら言える表現をしてみたけど、実際問題、私に直前の記憶が無かったり意味不明なことが起きたわけでもないし、何ならこの家には私から入ったので、特段リアクションをとる必要はない。
それ以前に、前提としてそもそも私は寝てもいないから、目を覚ますってのもおかしな表現なんだけど。
Cko第二回イベント。その第一段階であるバトルロワイヤルで残念ながら私はアヤとは別のブロックになってしまった。気分はサゲって感じだ。まあ、今の私の気分を激サゲにしている原因は、他にあるんだけど。
このブロックのフィールドは寂れた町のようで、ツヴァイにある仮拠点周辺と似たような雰囲気を感じる。そしていま私はその中にある、ところどころに無視のできない隙間のある家に潜んでいるのだが。
「さて、いつまで…………もつ?」
コンコンっと、扉が叩かれる。息を殺して隠れているそのぼろ屋は静寂に包まれていて、当然のようにそのノックの音も響いたのだが、私はそれを無視し、大剣を構えなおす。
ちらりと見たアイテム欄にはHP回復薬が5個とMP回復薬が4個。
そして、体力が未だ8割以上あることを確認したとき、再びノックの音が響く。
「リュティイさーん、いますよねー?」
そんな声とともに今度はコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンッとノックが
「こわ………いわっ!」
ホラー映画か何かかよ。と思わず内心ツッコミながら、部屋の中から扉を大剣で貫く。あわよくばノックの主にも突き刺さってほしかったが、現実はそううまくはいかないみたいだ。まあ、これで死んでくれるなら私はここまで困ってないんだけど。
私の大剣を、横に一メールほどそれることで回避したらしいその女を睨みつけ、大剣に貫かれたままの扉を、大剣を振ることで破壊する。
さて、私にホラー映画じみたノック攻撃をしてきたその女はやはり、先ほどから私の悩みの種となっているプレイヤーであった。
一見清廉そうな騎士風の鎧をまとい、それとは真逆のイメージであるこてこてにデコレーションされた鞭を持つその女は、どうやら私たちとは別のPKクランのリーダーであるらしかった。
「リュティさぁん、ひどいですよ?こんな危ないことするなんてっ!」
あえて擬音をつけるならば、ぷりぷり、だろうか?そんなオーラを全身から発しながら文句を垂れてくる。
正直、超キモイ。
いるわー、学校で全クラスとまでは言わないけど、二クラスに一人くらいいるわー。ちょうどうちのクラスの布村さんとか…………っと。そんなことはどうでもいいか。
いやでもこういうのが何故か男子にはモテるんだよな…………。まあ、私には関係のない話なんだけど!
「もう………あきらめて、べつの人を、倒しなよ」
そう、これはバトルロワイヤルなのだ。あまり一人のプレイヤーに執着しすぎるのもいい選択とは言えないだろう。実際、こいつと戦い始めてから何人か寄ってきたプレイヤーとエンカウントした。
だというのに…………だというのにッ!こいつはもうかれこれ20分ほど私に付きまとっているのだ。
「色欲♡」
「っく」
きた、戦いが長引いている原因であるこいつのスキル。これをくらうとステータスが下がる。どれくらい下がるのかはわからないけど、体感的には…………1割くらい?
あと語尾にハートをつけるな。鬱陶しい。
スキルの直後に相手が放った鞭を後ろに避けて躱す。当然そこはぼろ屋の中だが、正直私にはあまり関係が無い。
「ふ…………んっ!」
鍛え上げたSTRをフル活用し、壊れた家具やぼろい壁を破壊しながらも大剣を横薙ぎにふるう。
家と家具が想像以上に脆いのか、私が思ったよりも力持ちなのか、下げられたステータスでもしっかりと振るうことのできたそれを鞭の女が後ろに飛んで回避すし、そのまま鞭を放ってくる。
私でなく大剣を狙って振るわれたその鞭は大剣に巻き付き、引っ張られる。
引っ張られるのだが、その力が弱い。いや、これは私が強いのかな。
全力で大剣を振ると、驚きの悲鳴をあげながら鞭ごと女を持ち上げられたのでそのまま振り抜く。
大きな悲鳴をあげながら鞭の女が壁を突きぶり外へと投げ出されたのを見ながら、逃げるか追撃をするかを一瞬で考える。
正直、チャンスではある。あの女はひらひらと大剣を避けて飛び回るので鬱陶しく思っていたし、ここで潰せるのなら潰しておきたい。だが、ととで潰しきれなかった場合少しまずいことになる。そろそろ新しい漁夫の利狙いのプレイヤーが参戦してもおかしくないし、他のプレイヤーから奪った回復薬も底が見えてきた。ここで潰し…………めんどくさいな。よし!キルしたいからキルしよう!!
追撃を決めた私は大剣を構え、鞭の女を追い家の外に出る。そこで態勢を立て直しきれていない女を認識したと同時にスキルを発動した。
「スラッシュオーラッ!」
振るった大剣から斬撃型の衝撃波が飛ぶが、鞭でかき消される。しかしそれは牽制だ。衝撃波と一緒に近づいた私の大剣をこいつはもう避けられない。
「パワースラッシュ」
「スラッシュ!!」
ガキンと鋭い音とともに私の大剣が何かに阻まれる。思えば、最近もどこかで似たような光景を見た気がする。
大剣を受け止めた、どこか神聖な感じのする剣も見たことがある気がする。そしてその持ち主である男も最近見た気がする。
「はあ…………サゲ」
ラノベ主人公が私の大剣を受け止めていた。




