ep61 性癖と青春のHブロック
「なるほど、荒野か」
Hブロック、奴隷こと無限の性癖が降り立った場所は大きな岩が乱立している荒野だった。一面砂色の世界で、植物などはほとんど生えていないが大きな岩がかなりの頻度で配置されているため、さほど遠くまでは見えない。
「さて、と。とりあえず待機だな」
俺の目標は順位を上げることだ。もっといえば、上位に入ってアヤさんやリュティさんからの評価を上げ、あわよくばスリスリ………ククク。
さて、アヤさんやリュティさんのような戦闘能力があれば自分からどんどん戦いに行くのだが、生憎俺ではトップ層のプレイヤーにタイマンで勝てるかはあやしい。しばらくはフィールドの縮小に合わせて移動しつつ、潜伏でいいだろう。
※
開始から三十分ほどが経過したとき、移動のために極力身を隠しながら移動していると、前方に複数の人影を発見する。
「避けるか?………いや、あいつはッ………!」
そこで、前方の人影に見覚えがあることに気が付く。
「よお、久しぶりだな。妹好」
少し悩んだ結果、話しかけることにした。
「ん?なっ!お前は………性癖ッ!!」
久しぶりに会った妹好は相も変わらずこじれた性癖を持て余していそうなツラをしていた。
「クソっ、性癖。お前もこのブロックなのかよ」
「クククッ、そう邪険にするなよ」
「黙れロリコン!!こじれた性癖しやがってッ!!」
「あ?俺のどこがこじれてるって?そりゃお前の話だろ?」
「いーや。仕えるべき聖女たんを見つけた以上。もう俺の性癖をこじれた夢物語だとは言わせないッ!!」
ああ、そういえばそうだったな。聖女。アヤさんが倒したそいつは、まさしくこいつの好みドストライクなNPCだったらしい。
……………ふむ。
ああ、ダメだ。にやける顔を抑えられない。こんなことを言えば即座に殺し合いになる。今回は順位を優先するべきで、無駄な戦いは避けるべきだ。
……………ああ、やっぱだめだ。我慢できない。
「クククッ」
「?どうした、性癖」
「いや?仕えるべき聖女たん………ねえ?でもよ、そいつってもう死んでるよな??」
瞬間。妹好の雰囲気が変わった。これが殺気というやつなのだろう。わかったうえでこいつの地雷を力いっぱい踏み抜いたのだから、当然の反応だ。
「性癖」
「なんだ?」
「おまえ、死んだぞ?」
「はっ、それはどうかな?」
※
「はあ……………なんで私がセンパイと同じHブロックなんですかね?どうせならカイトと………はぁ」
「あらあら、そんなに露骨にため息をついていると、幸せにも幼馴染の男の子にも逃げられてしまうわよ?」
「は?」
バチバチと火花を散らし、お互いに皮肉を言いあいながら、しかしギリギリ直接戦闘には至らず共に岩場を進むのは二人の女性プレイヤー。
「でも、あなたの考えには同意ね。私もどうせならカイト君と一緒が良かったわ。カイト君がいないなら、こんなイベント参加もしなかったのに」
「は?なんですかそれ。カイトがいないならゲームはどうでもいいってことですか?」
「まあ、そういうことになるのかもね」
「じゃあやめたらいいんじゃないですか?Cko」
「あなたもバカね。少しは考えてから口を開きなさい。Ckoにはカイト君がいるじゃない。それだけで続ける価値があるわ」
「は?なん……はあ、もういいです。先輩とは話すだけ無駄みたいですから」
「そう?黙ってくれるなら助かるわ。私もあなたのような頭の悪い子の相手は疲れてきたところだから」
「それ、カイトの前でも同じこと言えますか?腹黒センパイ」
「やだわ。言えるわけがないでしょう?おバカな後輩?」
二人はなおも火花を散らしながら進む。その道中、幾人かのプレイヤーと遭遇したが、彼らとの戦闘よりもはるかに難易度の高い敵が隣にいるのだ。負ける道理はない。




