ep59 レイドボス的Yブロック 前編
第二回イベント当日、目の前にはイベント参加準備が完了したことを示すウインドウ。
目の前のウインドウには『Yブロック』という文字とともにカウントダウンが行われており、カウントがゼロになるとともにイベントフィールドに転送されるのだろう。
さて、ウインドウからも読み取れる通り、私はYブロックらしい。先ほどチャットで聞いたところ、リュティがNブロック、フカセツさんがKブロックの奴隷がHブロックとのことなので、クランメンバーとは違うブロックのようだ。
やがてカウントダウンがゼロになり、ウインドウが光を放ち────
「……ふむ」
光がだんだんと収まり、目に入ったものは木と木と木……………まあ、森だ。というか、このワープしたら森だったというのは既視感があるのだが、まさか第一回イベントのフィールドを使いまわしている…………なんてことは無いよな?
ウインドウを操作し、アイテム欄を確認する。
事前にイベントの詳細を確認したところ、このバトルロワイヤルでは武器や防具などの装備類は自前のものを使用できるが、アイテムは全プレイヤー同じになるということらしいのだ。
アイテム欄を確認すると、HP回復用のポーションが三本にMP回復用のポーションが三本。一本につき自分の最大HPやMPを三割回復できるらしい。
回復アイテムが限られている分慎重に戦った方がいいのかとも思うが、このバトルロワイヤルでは相手を倒した際、相手がまだ使用していないポーションがドロップするらしいのでさっさと倒しに行ってもいい気がする。
「…………お」
ふと、ウインドウの右上に見慣れない表記があることに気が付く。
《現在の順位 247/248》
ふむ、これはわかりやすくていいな。順位を表示してくれるのか。どうやらこのブロックには250人程度いるらしいが、これはすべてのブロックに共通なのか、このブロックだけなのか、いや、今そんなことを考えたところで答えは出ないな。247/248という表記から、すでにどこかでは戦いがあったらしいし、私もちょっと戦いに行くとしよう。
ウインドウからマップを開く。このイベントではマップ機能というのが使えるらしく、大体自分がフィールドのどのあたりにいるのかわかるようになっている。
マップ中心部の方が人が多そうな気がしたので、とりあえず中心めがけて走る。「竜化」どころか「隠密」も発動せずに走っているが、とりあえず人と戦いたいならこれが最適だろう。
ちなみに、このイベントではフィールドが時間経過とともに外側から段階をおって狭くなっていくシステムなので、何もしなくてもそのうちプレイヤーと戦うことにはなるのだろうが、今回はこちらから出向くことにした。
少し走っていると、一人のプレイヤーに出くわす。
森という視界の悪いフィールドであるし、もう少し探さないと人には会えないと思ったのだが、これは私の運がいいのか、このフィールドが意外と狭いのか。
「やあ」
着ていたフード付きのコートこと神装ユーケイのフードを目深にかぶり、声をかける。ちなみに声をかけたことに深い理由などない。強いて言うならば気分だ。
声をかけられた、金属製の鎧を全身に着こんだ男は腰の剣を引き抜き、応じる。
「………よお」
当然の警戒だろう。しかし、私の方が先に見つけて、私から声をかけてあげたのにこんなに警戒されると少し悲しく……………ないな。
うん、しかしだ。私がその気ならばこいつぐらいなら認識されるよりも先に片付けられるということを理解してほしいものである。
というか、声をかけてみたはいいものの、別にこいつと世間話をする気は無いな。本当に何故声をかけたのだろう。私は。
「よし、倒すか」
「ああ?」
意味の分からない行動をとってしまった過去の自分は置いておいて、こいつをさっさと倒すとしよう。倒す、と言っても特別なことをする必要はない。ナイフを抜き放ち、深く踏み込み、近づいて刺す。それだけだとまだHPが残っていたようなので、ナイフを引き抜いて二度、三度と素早く刺す。
「は?」
間抜けな声をあげながらポリゴン片になって消えていくその男がドロップしたのはHP回復薬とMP回復薬を三本ずつ。まだこのバトルロワイヤルが始まって間もないのでおかしなことではないのだが、回復薬を一本も使用していなかったらしい。
※
「あ、あの!」
最初のエンカウントから30分経とうか、という時。私が何人目かもわからないプレイヤーを倒し、拾ったHP回復薬が50を超えたとき、急に声がかかった。
まあ、これ自体は別に珍しいことじゃない。というのも、先ほどから私がどかどか音を立てながら戦うものだから、漁夫の利でも狙いに来たのだろうプレイヤーがそれなりの頻度で現れるのだ。
新しく現れたのは弓使いらしき女性プレイヤー。弓使いなのだから狙撃で奇襲でもすればいいのにと思わないことは無いが、どちらにせよやることは変わらない。ナイフを構えて
「待ってください!」
そんな声に動きを止める。
「なに?」
バトルロワイヤルに待ったなんて言葉を使うやつがいるとは驚きだ。別に従う必要もないが、なんとなく気分が乗ったので話をしてみるとしよう。
「私、このバトロワで上位8位に入りたいんですけど、一緒にいてもいいですか?」
「ふむ……………え?」
このバトロワで上位8位に入りたいから一緒にいてもいいか、たしかにそう聞こえた。そう聞こえたのだが
「え、と。それっていいの?こう………ゲーマー的に?」
私が思ったことをそのままぶつけると、弓使い風の女プレイヤーはキョトンとした顔をしながら
「え?いいと思いますけど。別にルールで規制はされていないですし、他にも協力しているプレイヤーはいるようですし」
う、うぅん?そう…………か?そういうもんなのか?
「というか、協力?私は多分、このままでも十分上位に残れると思うんだけど、仮に私たちが協力するとして、君は私に何ができるんだい?」
私が問うと、彼女は少し考えるそぶりをした後。
「うぅん………無いですね!」
すがすがしい笑顔でそう答えた。
「でもお願いします!トーナメントの参加報酬のチャームが欲しいんですよ!上位8位にさえ入れればいいので!!」
「えぇ………?」
なんだこのプレイヤーは、いっそすがすがしいな。つまり、なんだ?私にキャリーまがいのことをしろと?特に見返りもなく??
「えっと………君」
「アラハルアです!あ、良ければあなたのユーザーネームも聞いていいですか?」
「私はアヤだ。さて、アラハリュッ」
……………噛んだ。何だこいつは。呼びにくい名前にしやがって。
「コホン…………アラハルア。こんなことを言うのもなんだが、そういうのは、こう……………男性プレイヤーに頼んだ方が成功確率が高いと思うよ??」
「でも、あなたが一番強いでしょう?」
……………ほう、なんだこの子は。嬉しいことを言ってくれるじゃないか。
「っふ、仕方ない。ひとまず君を攻撃するのはやめておこう。さあ、他のプレイヤーを倒しに行こうか」
「了解です!」




