ep48 大聖堂戦 其の五
リュティはアヤと聖女との戦闘に乱入してきた男と対峙していた。
この男───カイトとか名乗っていたけど、その名前には聞き覚えがある。例のラノベ主人公だ。有名人。たしか、なんとかっていう聖剣を持ってるだとか。
本音を言うと、アヤと一緒に聖女と戦いたい。せっかく久しぶりに会えたのだからもっと一緒に遊びたいし。それをこんな……………はあ。
なんだか気が乗らない。
「ねえ………なんで、邪魔する、の?」
不快感を隠さずに質問をぶつけてみる。
「君たちこそ、なぜこんなことをする?NPCを………それも、聖女様を襲っていったい何がしたいんだ?」
「うぇぇ…………」
ほんの少し言葉を交わしただけだけど、もうわかった。私はこいつの事があんまり好きじゃない。なんというか……………リアルがうまくいってそう?
私が大剣を構えると、相手も聖剣を構える。そういえば、こいつには取り巻きが何人かいるという話だった気がするけど、その人たちは今いないのかな。いや、まあいられても困るだけなんだけど。
大剣を構え、私の間合いギリギリまで距離を詰める。正直、さっきの騎士たちとの戦闘で負ったダメージを「ヒール」で頑張って回復したからMPがあんまり残ってないし、さっさと倒したい。
「付与:速度強化」
はやさを上げて、振り下ろす。大振りだけど、重点的に上げたSTRに遠心力を乗せた強烈な一撃。これで決まれば楽なんだけどな。まあ、最悪避けられても次の手が────
ギィンッッ!!
「……………え?」
……………びっくりした。私の大剣はこいつを叩き潰すこともなく、かといって避けられたわけでもなく、止められた。その事実を認識するのにちょっと時間がかかった。
うん、正直ありえないとさえ思った。だってそうでしょ?あんなちっちゃな剣で、攻撃のスキルを使っていないとはいえ私の大剣を受け止めるだなんて。それこそアヤの、あのさいきょうモードでもない限りちょっと信じられない。これ、プレイヤースキルとかじゃなくて多分あの人のステータスが高いのかな。
……………いや、違うかな?多分、強いのは、あの剣。
まあ、どちらにしても、あの剣を持ってるこいつが強いことに変わりはないんだけど。
受けとめてる聖剣ごとこいつを切れないかと両手で大剣にさらに力を籠めてみる。
「ふっ……んっ!」
うーん、無理そう?しょうがない、一度仕切りなおして今度はスキルとか使ってしっかり攻め切ろうかな。
あれ?どうして初めからそうしなかったんだろう?……………あ、わかった。MPを温存しておいて、後でアヤの助太刀に行きたかったんだ。無意識。
「く……おぉっ」
「!」
力が強くなった!まずい………このままじゃ………ッ!
「ああッ……!!」
ギィンッッっという音とともに私の大剣がはじかれた。ちょっとあり得ない。バケモノ。
上から叩きつけていた大剣をそのままはじかれたことで、おっきな隙ができる。というか、これやばいかも。ほとんどバンザイのようなポーズで大剣を制御してる私に対して、こいつは剣を構えなおし終わってる。
そして、こいつの握る聖剣の輝きが増して───
「俺に応えろッ!!エックスキャニバーッ!!!!」
まばゆい光の剣が、私の体を真っ二つにした。これはズルだよ。
※
凄い光が目の端に映ったからそちらを向くと、リュティが両断されていた。
「えぇ……」
何あの光、スキル?こわぁ………。ん?というか今チャンスじゃない?彼、なんだか固まっているし……………後隙かな?まあいい。
そろそろMPもHPもなくなってきたが、最後にアイツを殺してしまおう。
隠密で気配を消して近づいて……………そいっ。
「なっ!!不意打ちッ!?!?」
不意打ちで首をかき切った私にそんなことを言い残して彼は光の粒子になった。
欲を言えばあの剣が欲しかったのだが、残念ながら彼が落としたのは変な装備品の指輪一つだった。リュティのドロップ品も忘れないように回収して……………あ、聖女のドロップ品!
あの聖女のドロップだ、さぞいいものがあるのだろうと思って私が聖女を倒したあたりに戻ってみる。しかし、そこには土と草があるだけで何もなかった。なんというか……………ちょっとショック。




