ep46 大聖堂戦 其の三
私の「竜の息吹」をまともにくらった聖女が爆炎に包まれ、大聖堂の方まで吹き飛ばされる。
そういえばリュティは「聖刀」とやらを回避できたのかと横目でちらりと確認すると何とか無事なようだった。
「無事か!?聖女たーん!!!」
突然そんな声が響く。聞き覚えがない声だ。声のした方に目をやるとさっき下がった護衛騎士と見慣れない男が一人。その後ろからたくさんの騎士風の格好をしたやつらがガシャガシャ鎧を鳴らしながらやってくる。
あの、一人だけ騎士風の鎧ではなく冒険者か何かのような装備を着けている男はなんだ?状況からしてあの護衛騎士がわざわざ連れてきた助っ人だろうが。いや、どちらにせよ圧倒的に人数不利な状況になってしまった事は変わらないか。
そうか………やっぱりいるよな。あの側近みたいな騎士以外の騎士。冷静に考えればいない方がおかしい何と言ってもここは聖女の本拠地なのだ。
そんなことを考えている間にも数十人の騎士たちが私とリュティを取り囲み、あの護衛騎士と男は聖女に駆け寄る。
「竜の息吹」では聖女の致命傷にならないし、あいつは回復魔法も使える。もう体力が全回復した頃だろう。状況は始めと比べて明らかに悪い、やはりさっさと「憤怒」を切って早々に決着を決めに行くべきだったのだろうか。
思えば最近の私はなんというか、こう、思慮深さというか、考えが足りてない気がする。いかんせんノリでPKギルドを潰せてしまったり、鬼神の分身を倒せてしまったせいだろうか。いやいや、別にずっと順調だったわけではない。聖女に一度負けたり結局ドゥルグ村を守れなかったりしただろ。
……………まさか、私はあれを心のどこかで、仕方ないことだ、とでも思っていたのか?そうでもないとあり得ないだろう。この体たらくは。
また負けるのか?私は。今回は勝てただろ。悠長に聖女の技を見ている余裕があるなら全力で仕留めに行くべきだっただろ。
負け癖がついたか?
吹き飛ばされた聖女が騎士に包囲されている私たちにゆっくりと近づく。
「…………いや、私は負けないよ」
まだやれる。勝てるよ、私は。
「竜眼」
スキルを起動し周りを見回す。どうやら私たちを取り囲む騎士たちは護衛騎士よりいくらか弱いようだ。
「リュティ。ここから勝てるから安心して」
若干不安そうな顔をしているリュティにそう言葉をかける。
「あと、このまわりの騎士たち全員殺しといて。一人でできる?」
「ん!」
何かを感じ取ったのか、私の「勝てる」という言葉を信じたからか、そう力強く頷くリュティの目には希望が満ちていた。
「「ヒール」「ヒール」「憤怒」」
「!皆さん!下がって!!」
「竜化」の維持によって随分少なくなっていたHPを五割程度まで戻し、「憤怒」を発動させる。そんな私を見て聖女が騎士に声を掛けるが関係ない。私を囲んでいた騎士たちの包囲をひょいと飛び越え、聖女の方へ駆ける。聖女が構えをとるが、残念ながらお前の相手はもう数瞬後だ。
聖女との距離が十分縮まったところで急に横に逸れ、聖女の隣にいた護衛騎士にナイフを突き立てる。「竜化」の上に「憤怒」まで使っている私の速度に全く反応できなかったその護衛騎士の喉に狙い通りナイフが突き刺さり、クリティカルの感触がする。
そんな私に聖女が例の聖女パンチを繰り出すが、悪いがお前の相手はまだだ。
小柄なアバターを全力で活用し、体を捻ることで聖女パンチを回避した私はそのままの体勢で無理やり飛ぶ。目指すは例の男。
こいつは今のところ聖女に次ぐ不確定要素だ。
装備からしてプレイヤーか?この建物は基本的にプレイヤーは入れないと聞いた気がするのだが、いいのだろうか。
まあいい。護衛騎士と違い、武器を構えることはできていたが、それでも遅すぎる。通りすがりに首を深めに切り裂く。
ズザザッと着地しながら体の向きを180度変え、聖女の方を向く。
さあ、戦おうか。
十六のチートバフの効果時間、まだ見ぬほかの技、全部知らんよ。使ったらその場で対処してやるよ。というか、使えまえに殺してやるよ。
……………ん?というかさっきの男まだ死んでないのか。思ったより体力が多いな。まあ、やることはほとんど変わらない。
私は重心を前に倒れるように崩し、その勢いを利用しながら後ろ足を踏み出して、移動に重きを置き前足を動かす。昔師範に習った何とかっていう歩法だ。名前は忘れた。本来は突きに繋げるものであるが、今はいいだろう。私の凄まじいまでのAGIも相まって一瞬で距離を詰めた私に聖女が慌てて構えをとるが、そんなことにいちいち構わずその上から攻撃する。
私の下半身の力と体幹をフルに使った一撃を錫杖で受け、その勢いを殺しきれなかった聖女が軽く後退る。
しかし後ろ足を素早く引きつけ、重心を移動させることで素早く追いつき、聖女の姿勢が不安定なところに追撃をかける。
「ッ!三の技・聖法衣、十二の技・せ────」
錫杖による必死の防御姿勢の間にナイフをねじ込み、胸に右手のナイフを突き刺す。その一撃で聖女が怯んだすきに錫杖にナイフを絡め、弾き飛ばす。
これで聖女の両手が空いた。だがまだだ。確か錫杖を瞬時に手元に出す技があったはず。しかし、この一瞬だけは私の行動の方が早い。ナイフを振りかぶり、首を狙って力の限り打ち出す。
ガリィンッッ!!!!
しかしそんな私の刃は聖女の首には届かず、何やら神聖そうな剣に防がれた。
ッチィィッ!!!誰だよ!?一体!?!?
「大丈夫ですか?聖女様」
ラノベ主人公みたいなやつがいた。
ほんとに誰だよ!!!!!こいつは!!!!!
前話のあとがきに「評価お願いします!」的なことを書いたら本当に評価いれてくれた人がいました。ありがとうございます。
ああいうのって意味あったんですね……………。
久しぶりに評価が増えてムクムクっとモチベが上がったので連日投稿です。




