ep45 大聖堂戦 其の二
「神杖カカラ、十六の技・聖女律」
そう呟く聖女の雰囲気が明らかに変わった。というか見た目も変わった。キラキラしたオーラのようなものを纏っている。
そしてこの雰囲気は覚えがある。昔、うっかり師範の地雷を踏みぬいてしまった時の、死の予感ともいえる恐怖感。そんなものをこの聖女から感じたのだ。
こうなれば一旦前提は無視だ。私は理性ではなく本能に従おう。
「竜化」
速度強化に「竜化」を重ね合わせ、聖女へと向かっていた体を必死に制動する。そんな私をよそに聖女が踏み出し、飛ぶ。前回の戦闘からは考えられないような速度で迫る聖女と未だ自身の体に働く慣性を殺しきれない私。そんな私の視界に拳を大きく振りかぶる聖女が映る。
竜化し、上昇したステータスとそれに合わせて強化された動体視力。それをもってしても今の不安定な体勢での回避は不可能。ならば受けるしかあるまい。
少しはクッションになればいいなと思って「竜化」により生えた翼を私の体を聖女から隠すように折り曲げ二人の間に差し込む。そこまでして気が付いたのだが、翼も私の体の一部なわけだからクッションもくそもないんじゃないかな………。
「十の技・聖手」
翼の上からでも構わずに振りかぶった右拳を叩きつける聖女。光を纏ったその拳が当然のように私の翼を破壊しながら体めがけて進む。体の一部が破壊された激痛を極限まで少なくしたような不快感に顔を顰めながら光の拳に両手のナイフを合わせる。
翼を破ってくれたお礼にこの右腕を切り裂いてやろう。
───拳に合わせた刃が進まない。肉を切り裂かない。むしろ、構わずに進み続けている。何だこいつは。可愛い見た目して拳は金属みたいな固さしてるのか?いや、もしくはこの金色の光が邪魔をしているのか。
ドゴォォッッ!!!
そんな音とともに吹き飛ばされ、大聖堂の周りを囲む壁に激突する。破られた翼からまるで血のようにポリゴン片が滴り落ち、「竜化」により生えた翼と先ほどの聖女の一撃によって吹き飛んだコートがひらひらと地に落ちる。
「くっそ………なんだよそれ」
思わず悪態をつきながら高速で思考を巡らす。
クッソ、完全に想定外だ。あの超強化はいったいなんだ?前回の戦闘時にはなかったぞ。十六の技とか言っていたからあれも錫杖の能力か。
確か十八の技がどうとか言っていたな。前回の戦闘と合わせて今判明しているのが一の杭を飛ばす技、三のバフ、十のパンチ、十四の縄、それに加えて十六のあのチートじみた強化ってところか。
クソ、冷静に考えると相手の手の内がほとんど割れていないじゃないか。というか、そんなチート技があるなら前回使えよ。
あととっさに「竜化」を仕えた判断は流石私だな。
いやそんなことはどうでもいい。問題はあのチート技だ。………前回使わなかったのではなく使えなかった可能性は?
いや、というかあれ以外にもチート級なのがある可能性もあるな。
私主観だが、技は数字が大きくなるほど面倒になっているような気がしないこともない。だとすればあれよりもチートな十七と十八があるわけだ。
いや、とりあえず探りを入れてみるか………?
再び構え、今まさに飛び出そうとしている聖女に向けて、嘲笑交じりで言葉をかける。
「いやはや、そんなに強い技があるのならどうして前回使わなかったんだい?それを使えばあの護衛騎士たちは死なずに済んだかもしれないだろうに」
「ッ!!あなたはッ!!!!」
おっと、さらにキレたぞ。ちょっと聖女ちゃん地雷が多すぎて難しいな。これが地雷系というやつか?
「あ、アヤ!?すごい音が………」
そう言いながら外で待っていたリュティが壁を乗り越えてくる。
うーん、正直この場面でリュティが来てくれたところでどうにもならなさそうだな……。
「アヤ?…………てつだう?」
聖女を警戒しながら私に近寄り、そう問うリュティ。
「いや、正直聖女が想定外に強い。いったん戦いは私に任せてほしい。それよりも、さっきいた護衛騎士が気になるからリュティは───」
そこまで言ったところで聖女が素早く踏み込み、キラキラしたオーラの残滓を引き連れ凄まじい音を鳴らして飛び込んでくる。
だがそれはさっきも見た。速度にもギリギリ対応できる。ならば対処はできる。こちとら幼少期から師範にボコられてるんだ。……………「憤怒」を使うか?
いや、他の技が何かわからない以上時間制限のある切り札を使うのはどうなんだ?………………いや、「憤怒」を使って相手が他の技を見せる前に片付けてしまった方がいいか?
左手に錫杖を持った聖女が迫り、その右手を軽く前に出す。見知った聖女ストレートとは違う構え。
クソが。また新技か?
前に出した右手をピンと伸ばす聖女。あれは…………手刀打ち?いや、それにしては全身の構えが………………。
「十一の技・聖刀」
瞬間、右腕が光り剣のように光が伸びる。
「マズッ!」
とっさに身を低くかがめると先ほどまで私の首があったあたりを横一閃の光が薙ぐ。後ろにあった壁が凄まじい音を立てながら崩れ落ちるが、丁度いい。私は低い姿勢のまま両足を強く踏みしめ、全力で飛び出す。低い位置から迫る私に聖女が対処しようと右拳を振り上げる。
あれは聖女の技の中ではいくらか見慣れ始めた聖女パンチだろう。
「スラッシュ!」
「十の技・聖手」
あの拳は切れない。ならばと左手のナイフでスキルを使い軌道をそらし、さらに距離を詰める。
聖女が右手を引き戻すより早く右手のナイフを使用し聖女の左手と錫杖を抑える。これでお互いに一瞬両手が自由に使えない状態になる。一瞬の膠着状態というやつだ。
───私がレベル100未満であれば。
さらに聖女に顔を近づけ、口を開きスキルを使う。
「竜の息吹ッ!!!!」
私の口から光が迸り、聖女を包み込み爆ぜた。
ねえ、実はこの戦いの結末まだ決めてないって言ったら、ビビる?
筆者はビビってる。
本編と関係ないのにここまで読んだそこのあなた!ぜひもうちょっと下まで行ってこの小説を評価しよう!面白くないなって思ってもとりあえず何か付けておくと筆者が喜ぶぞ!!




