ep44 大聖堂戦 其の一
ツヴァイの町。そこは現在全プレイヤーたちが到達した中で最大規模を誇る町である。周りを壁に囲まれ中世ヨーロッパ風の街並みが広がるその街には中央大陸の最大都市らしく王の住む城があるが、そんな城にも負けない大きさを誇る建造物がある。
それが、聖女の住む大聖堂だ。
「ぷはっ……………ありがとうございます。聖女様」
「いえ、気にしないでください」
大聖堂の庭、護衛騎士であるシャーレが訓練を終わったタイミングで聖女がその手に持つ錫杖から水を出し、それをシャーレが一気に飲み干す。
「しかし、神杖カカラ。本当に色々な権能がありますね。まさか水を出すこともできるとは」
「あまり使い道はありませんがね」
苦笑いしながら錫杖を軽くなで、そう返す聖女シュテアネ。そんな、平和な日々の一幕に声がかかる。
「やあ、久しぶりだね。聖女サマ?」
※
聖女に借りを返すことを決めた後、その報告をフカセツさんと奴隷にチャットを飛ばすことで雑に済ませると、早速リュティと大聖堂に向かう。
私は知らなかったのだが、聖女の本拠地と言えば、ツヴァイの王城ほどの大きさのあるこの大聖堂らしい。
「うーん、どうしようか」
あいにく私はこの大聖堂のどのあたりに聖女がいるのかなんてわからないし………あ、「感知」スキルでどうにかなったりしないかな?
よし、「感知」発動!……………うーん、感知範囲が狭くてよくわからんな。庭に誰かいることはわかるんだけど…………。
「………「隠密」で潜入して探してくるよ」
そうそうに感知をあきらめた私は隠密を起動し、大聖堂の周りに張り巡らされた壁をひょいと飛び越え庭に入り、見覚えのある姿を見つける。
いやはや、探す手間が省けたね。ラッキーだ。
隠密を解除し、口を開く。
「やあ、久しぶりだね。聖女サマ?」
「あ……なたは…………」
私の方を見た聖女が目を見開き驚く。
いい反応だな。期待以上だ。であるならばこちらもそれに答えるしかあるまい。角を隠すためにかぶっていたコートを軽くばさりとはためかせ、努めて悪そうに口角を吊り上げ、ニヤリと笑いながら告げる。
「借りを、返しに来たよ」
聖女の横に立って何が何だかわからない顔をしているのは新しい護衛騎士かな?見覚えのない顔だ。
そんな護衛騎士が腰に下げた剣をすらりと抜き放ち、聖女の前に立ちはだかる。まあ当然の反応だな。私は見るからに不審者だし。
しかしそんな護衛を手で制し、聖女が一歩前に出た。
「下がりなさい、シャーレ」
「え………しかし…………」
「下がって」
少々の困惑を見せたシャーレと呼ばれた護衛騎士が聖女の圧を感じたのか、おとなしく下がっていく。
「借りを返しに来た、と言いましたね?」
「ああ、言ったね」
底冷えするような声でそう問う聖女に対し余裕を崩さないように答える。心底怒っているのが伝わるその声はちょっと圧が強くて一瞬顔が引きつりそうになってしまった。あぶない。
聖女が手に持つ錫杖をくるりと回し、その石突を強く地面に打ち付け、告げる。
「では、此度も聖女の名においてあなたを誅しましょう」
瞬間、シスター服が軽くはためき、その圧に気圧されそうになる。ブチギレだ。今回は何もしてないと思うんだけど(不法侵入以外)…………。
だあまあ、話が早くて助かる。
「じゃあ、始めようか」
秋月のナイフと岩竜のナイフを両手に構え、突撃する。
「付与:速度強化」
前回の戦闘から考えておそらく「憤怒」を使うと圧倒してしまう。何と言っても私は前回の戦闘よりレベルが40も上がっているし、種族の進化によってさらにステータスが上がっている。さらにさらに、私には「竜化」もあるのだ。正直、「竜化」と速度強化だけでも何とかなりそうな具合である。
──────と、思っていた。
結論から言おう。私は聖女を舐めていた。
私が聖女との距離がある程度縮まった時、聖女が静かに口を開く。
「神杖カカラ、十六の技・聖女律」
瞬間、聖女の雰囲気が変わった。




