ep42 聖女たん
「じゃあ、とりあえず船ができるまでその港町の捜索かな」
そう言う私に対して、リュティは少々意外そうな顔をしていた。
「ん?リュティどうかした?」
「……………聖女は?戦わないの?」
「ああ…………」
急に私達を襲ってきて、私を殺してくれた聖女。もちろん忘れてはいなかったが、ドゥルグ村への帰還やら鬼神やらで印象が薄くなっていた。
うん。思い出したらなんだかムカついてきたな。あの聖女。先にリベンジに行っても……………いや、今の私の相手になるのか?
正直、私はドゥルグ村での若干反則じみたレベリングによって早くもレベルが100を超えてしまっている。聖女と戦ったのは確かレベル60かそこらの時期だったし、もはやボコボコにしてしまうのではないだろうか。
…………………………いや、それで何も問題ないじゃないか。何を悩むことがある?まさか正々堂々だのスポーツマンシップだのを気にしているのか?今更?私が?
「っは、ありえないな」
なにより私はスポーツウーマンだ。まったく。私の人生の貴重な数秒を無駄にしてしまったな。
「よし、リュティ、じゃあ聖女を蹂躙しに行こうか」
今度はこっちから赴いてやるとしよう。
「ん!」
嬉しそうに顔を輝かせてそう返すリュティ。よほど聖女を倒したかったらしいが、なんでそこまで…………いや、そういえば彼女も最後は聖女にボコられたんだったな。
※
Cko、コカサイトオンラインにおける聖女シュテアネというNPCはゲーム内にレベル50以上のプレイヤーが現れると同時に出現し、とあるモンスター討伐の際にキーとなる存在である。
また、それとは別に悪質なプレイヤーの粛清も担っている。PK、NPCの殺害や略奪などを一定回数以上、死亡せずに連続して行った場合にそのプレイヤーを粛清。というか、キルしにやってくる。また、通常プレイヤーはモンスターやNPCにキルされたとしてもアイテム等をドロップすることはないが、聖女にキルされた場合プレイヤーはその場でランダムにアイテムをドロップする。
また、これは余談なのだが、ツヴァイの町のスラムの一画では新大陸産イノシシの素材がかなりの数ドロップしていた。
さて、ここはCko。新しい現実と謳われるそれはNPC聖女にももちろん自我と言って差し支えない思考能力と、人間のような生活を与えていた。
「はぁ………」
ツヴァイの町の大聖堂。その中に設けられた私室で聖女シュテアネはため息を漏らす。
「たんたんたかたん♪聖女たん♪」
「貴様ッ!聖女様に対して不敬だぞッ!!」
「大丈夫ですよ、シャーレ」
この、妹好?という異邦人と新しい護衛騎士であるシャーレとのやり取りももはや見慣れてしまいました。
この異邦人は教会に献身的に通う敬虔な信徒であるという報告を受けていたはずなのですが、いったいどうしてしまったのでしょう?これでは……………いえ、そんなことばかり考えていてはいけませんね。早く新たな護衛騎士を選出しなければ。
少し前までは三人いた護衛騎士も今では新しく起用できたシャーレ一人だけ。私の力が及ばなかったばかりに恐ろしい殺人鬼の魔の手から守り切れず、本当に申し訳ないことをしてしまいました。
いえ、それも違いますね。あれは私が相手の戦力を甘く見ていたが故に起きてしまった事です。次に同じようなことがあれば、絶対に犠牲者など出させません。
そんなことを考えていると、また妹好さんとシャーレが喧嘩を始めてしまいました。いえ、あれは喧嘩というよりもシャーレが注意しているだけですね。妹好さんは妙なことを口走っていて、シャーレからの注意はどこ吹く風といった様子です。もはや注意は必要ないと何度も言っているのですが、シャーレは少々まじめ過ぎるきらいがありますね。
それにても、先ほど妹好さんが言っていた「たん」とは何でしょうか………?
「聖女たんッ!!!その可愛く困ったような思案顔を是非にッ!是非に写真におさめさせてくださ───」
「一度黙れッ!!」
「ぐふぅ!ありがとうございますシャーレ殿ッ!!!」
彼は今シャーレに攻撃を受けたはずなのですが、なぜ感謝しているのでしょうか……………?




