ep40 目標
「………はぁ」
アインスの町を歩きながら、思わずため息が漏れる。負けた、ドゥルグ村も破壊されたのだろう。ドーラは生きているのだろうか。
イライラする。思えば私はいろいろと軽く考えすぎだったのではないだろうか。例えばそう、あの鬼神(?)と戦ったとき私は本当に最善を尽くしたか?もっと他の真竜人と協力して確実に後衛陣の遠距離攻撃をぶち当てて削っていけば三体程度ならどうにかなったんじゃないのか?そもそももっと前衛の真竜人と密に連携を────真竜人、そうだ今の私は真竜人じゃないか。角を隠そう。
近くにあった店で紙同然の防御力のフード付きのコートのようなものを購入し目深に羽織る。ああ、イライラする。ラコとドーラが生きているのか確認する手段がないのも腹立たしい。
鬼神(?)が新たに二体現れ村を襲ったとき私はドーラとラコ以外は最悪どうなってもいいと思った。そしてそこには確かにゲームのNPCに対する無機質な感情ではない何かがあったのだ。ゲームに本気になっている、だなんて妹に言えば冷笑を返されそうなものであるが、それほどまでにこのゲームのNPCは精巧で、私にとって大切な友達であったのだ。
「………はぁ」
またため息が出る。ドゥルグ村………ドゥルグ村を今から探して………どうなるんだ?どうにもならないな。
というか、なんだよ分身A,B,Cってずるいだろ。いや、ずるいだろ!
そんなことを考えながら行く当てもなく適当に歩いているといつの間にか町の外に出ていた。
「はぁ、適当に狩りでもしようかな」
まあここで何かしたところで私にはどうにもできない。いやまあそのどうにもできない事実にこそ苛立っているのだが、そのイライラをとりあえずそこらのモンスターにぶつけるとしよう。そういえば私はこの辺りでまともにモンスターとの戦闘を行ってこなかったんだが、どういうモンスターがいるんだろう。
言いようのない苛立ちをモンスターにぶつけることを決め、ナイフを取り出しているといつの間にか囲まれていた。プレイヤーに。
「ねえねえ君。一人?初心者?かわいいねー、俺らが色々教えてあげよっか?」
「そのコートより強い装備あげるよー?どう?」
なんだこいつらは。ナンパか?いや、まだギリギリ親切心という可能性もあるな。ここは平和的におさめるために丁寧に断っておこう。
「はぁ……………いえ、結構です」
「まあまあ、そう言わずにさ」
「ははは……お前に選択肢とかねぇよ。キルされたくなかったら言うこと聞けや」
「おいおい、待てってまだそれは早いだろ」
なんだ、PKか。まったく、他のプレイヤーをキルして自分の利益を上げるなんてなんて奴らだ。
にしてもこいつらも間が悪い。私は今、かなりイライラしているというのに─────
「はあ、なんだよこいつら。発言の割にすごく弱いじゃないか。にしてもろくなもの持ってないなぁ………あ、そう言えばギルメンにアインスに戻って来たって報告した方がいいかな?」
悪人を退治していくらか頭がすっきりしたことでフレンドに報告をした方がよいのではないかという思考に至り、メッセージを飛ばす。
アヤ
色々あってアインスに戻ってきたよ
「あー………こっちも聞いとこうかな」
アヤ
そう言えば、「四大特異点」って聞いたことある人いる?
リュティ
え、戻ってきたの?
リュティ
今どこ?アインス?
リュティ
行くから待ってて
忠実な下僕
俺も行きます!!
リュティ
奴隷は来ないで
忠実な下僕
え……
フカセツテン
四大特異点、ですか。私は聞いたことないですねぇ………アヤさんはどこでそれを?
アヤ
例のドゥルグ村だね。詳細は知らない
フカセツテン
そうですか………わかりました。一応いろいろ調べてみます
アヤ
え、調べるとかできるの?
フカセツテン
はい、これでも一応元検証班でしたから。それなりには
アヤ
おお、じゃあよろしく頼むよ。殺し方もわかればお願い
フカセツテン
了解です
フカセツさんが実はかなり有能なのではないだろうか疑惑が出てきたところでメッセージアプリを閉じ、新しくできた目標を自分に言い聞かせるように呟く。
「鬼神、潰してみようかな」




