ep35 急な意味不明展開はクソゲーの初期症状では?
真竜人に進化した私はドゥルグ村に戻って来たわけなのだが、村は何やら騒がしい様子であった。なんというか、臨戦態勢と呼ぶのが一番しっくりくるだろうか。ぱっと見でも明らかに真竜人が多いのが分かる。
ドーラ曰く、この村は34人の真竜人と73人の竜人で構成されているらしいのだが、真竜人は様々な時間に狩りに行っているので人数がそろうことは珍しい。というか、私がこの村に来てからは初めてのことだ。
と、そこで知り合いの真竜人ことドーラを見かけたので聞いてみることにする。
「ねえ、何かイベントでもあるの?こんなに真竜人の人が集まるなんて珍しくない?」
「ああ、アヤ。それは────って、ええ!?あ、アヤ………真竜人になったの!?」
「ああうん。………おかげさまで?」
「おめでとう!こんな時じゃなければお祝いしたいんだが………今はね」
「何かあったの?」
「鬼神が復活したらしいんだ」
鬼神………?なんだよ鬼神って急に神とか怖いんだけど………。しかも鬼?鬼なんて種族があるのか?
「鬼神って何?」
「ん、アヤは知らないのか。鬼神ってのはこの世界の四大特異点の一つだよ。それが復活したんだ」
四大特異点ってなんやねん。おっと思わず関西弁が漏れてしまった。にしてもこの一瞬の会話だけで知らない単語がどんどん出てきたな。ドーラはさも当然のように私に語ってくれたが、まずこの世界には四大特異点とやらがあるらしい。その一つが鬼神とかいうのなのであろうが、それが復活?したのだという。
復活というからにはどこかに封印されていたのかだとか、なぜ復活したのかだとかそもそも何でそんなに戦う気満々なのかだとか、色々聞きたいことはあるのだが忙しそうだからここは遠慮して────
いややっぱり凄まじく気になるので聞いてしまうことにしよう。
「ねえ、四大特異点って何?なんで戦うの?」
「そこからか……うん、四大特異点っていうのは、私もよく知らないんだけどすでにこの世界にはいないはずの「神」らしいよ?それと、戦うのは普通に敵だからだね。まあ、鬼神がこの村に来ればの話だけど」
ふむ?いきなり世界観に追加要素を入れられてもすぐには処理しきれないんだが。そもそもこういうのってもっと終盤の、プレイヤーがもっと強くなったりしてからやるイベントじゃないの?神とか言ってるし。いや、まさか私が最序盤に唱えていたこのゲームインフレ激しい説が現実のものになろうとしているのか………?
驚くべき伏線回収に内心慄きつつ、ひとまずドーラに軽く礼を言い、鬼神とやらについて考えてみることにする。
まず、この世界にいないはずの神、と言っていたがこれはどっちだ?もともとこの世界にいた「神」という種族の中の「鬼神」さんの話なのか昔にいた「鬼神」という神の話なのか………。うーん、わからんな。そもそも前者だろうが後者だろうが私には関係のない話だった。
次だ、敵だからこの村に来れば戦う、と言っていたが、この町に来るってそれはつまり鬼神さんはこの村の近くにいるということだろうか?さすがに村からはるか遠くにいる鬼神さんを警戒して腕っぷしの強い真竜人の皆さんがこんなに集まるなんてことは無いだろうし………いや、あるのか?もしかしたら鬼神がものすごく強くてはるか遠くにいても警戒をしておかなければならないような存在なのかもしれない。ほら、四大特異点とかいう凄そうな肩書を持っているし。
にしてもあれだな、色々1人で考えてみたけどほとんど何もわからなかったな。よし、もう一度ドーラに聞きに行くとしよう。
「鬼神が!鬼神が来たぞぉぉ!!!!」
そんな私の考えは、そう叫ぶ一人の真竜人と張りつめたようにしんと静まり返る他の真竜人たちの姿勢に遮られた。
静寂もほんの一瞬のことで、今度は慌ただしく指示が飛び交い陣形らしきものが築かれていく。見ている分にはかなり壮観だが、果たして本当に真竜人たちがこんなに集まらないと対処できないほど鬼神とやらは強大なのだろうか?ちょっと怖くなってきたぞ。
私がこのゲームで出会った存在の中で一番戦闘力が高いのは真竜人である。聖女ちゃんももちろん強かったのだがまだ真竜人の皆さんの方が強い。と思う。
そんな真竜人の皆さんが気合十分に警戒して陣を組んでいる光景に私は姿も知らない鬼神に対しての警戒度を最上位に設定しなおすことにした。




