ep30 料理下手属性は料理をつくらない
「えーっと？」
聖女に敗北した次の日、テンションもかなり平常に戻ってきたのでCkoを起動した私は思考を止め、必死に記憶を辿っていた。
「ここ、どこ………」
そう、私は前回ツヴァイの町で聖女と戦っていたはずだ。しかし今はツヴァイの町の中世風の要素も、治安が悪いゾーンのぼろさも感じられないところに────
「ん？まって」
呟きながらあることとに気が付く。私はこの場所に既視感を覚えているのだ。そう、この田舎臭さ見覚えがあるような………
「あ、ドゥルグ村………」
そうだ、思い出した。ここはドゥルグ村で私が拠点にしていたドーラたちの家だ。でも何でここに？聖女に殺されたのはわかるけど、それなら最後にリスポーン地点を固定した場所で……
「あ……」
そうじゃん、最後に固定したのここじゃん………。
思い至った事実に思考をフリーズさせていると、トサッと何かが落ちる音がした。そして音のした方に視線を向けると、ドアを開け驚いた顔で掃除用具を取り落としている幼女が一人。掃除しに来たのかな？
「アヤっ！！！」
目に涙を浮かべながら抱き着いてくるラコ。待て待て待て、その膂力で抱きしめられると絶賛ペナルティで減少中の私のステータスだとダメージがッ！！
「ひ、久しぶり？といっても二週間振りくらいか。ラコ」
「なんで急にいなくなったのぉぉ！！」
「えっと、ごめんね？」
私に抱き着いてわんわん泣くラコ。そしてミシミシ悲鳴を上げる背骨とじりじり現象を始めたヒットポイント。
「ちょっといろいろあってさ」
「色々って何だ？」
ドアの方からそんな声がかかる。その声もラコと同じく二週間程度しか離れていないはずなのだが、ひどく懐かしいような気もする声で
「久しぶり、ドーラ」
「ああ、おかえり」
そうして久しぶりに再会を果たした二人に、私が急にいなくなった件を何とか納得できるように所々誤魔化しながら話すのにはかなりの精神力を必要とした。というか、ラコが何故か怒ってたり、ドーラと近況報告したりで話が脱線しまくった。
※
リュティ
そう言えばアヤのリスポーン地点ってどこ？
一旦合流したい
フカセツテン
あ、それは私も思っていました
アヤ
んと、ごめん
合流はちょっと難しいかも
リュティ
………え？
フカセツテン
何かあったのですか？
リュティ
なんで？私の事嫌いになっちゃった？
私が聖女に負けたから………？
アヤ
お、落ち着いて？リュティ
合流できないのは私自身私がどこにいるのかよくわかってないからなんだ
フカセツテン
というと？
アヤ
私が今いるところドゥルグ村っていう村なんだけど場所知ってたりする？
ちなみに私は知らない
フカセツテン
私も聞いたことないです
リュティ
探す
フカセツテン
といういか、本当に「ドゥルグ村」というのが名前なんでしょうか？
アヤ
ん？どゆこと？
フカセツテン
いえ、今までドイツ語の数字が町の名前に使用されていると思うんですが、その法則が急に崩れているのが妙だな、と
アヤ
ふむ、なるほど。一理あるけど、住民に直接聞いたからなぁ
村の名前を誤魔化す理由なんてあるの？
フカセツテン
いえ、それはわかりませんが………
アヤ
まあ、私の方でも考えてみるよ
※
「よし、ひとまず連絡はこれで良いかな？」
フレンドたちへの連絡を終えた私は、ドーラを待っていた。といっても今日は狩りではない。何やらこの村、というかこの部族？の伝統的な料理を振舞ってくれるのだとか。
ドーラも表面上は普段と変わらない風を装っていたが、なんやかんや私を大事に思ってくれていて私の帰還を喜んでくれているのは先ほど話したときに嫌というほど伝わってきていた。
「よし、できたぞー」
そんなことを考えているとドーラとドーラを手伝っていたラコが台所から出てきた。
「おー、ありがとう。これは………スープ？おいしそう！」
出されたのは異世界感あふれるがっつりと肉の入ったスープであった。食べてみて、と催促してくるラコ。早く感想が欲しいのか、可愛い奴だな。まあ私としても珍しいドーラの料理が気になってはいたので早速口に運ぶ。ドーラに料理下手属性が無いことを祈るばかりだが、果たして結果は………
「え、超おいしい………」
「そうか、よかったよ」
「ほんと！？うれしいなぁ」
私の感想に嬉しそうにする二人。いやでもこれはマジで超おいしい。料理下手属性とか思ってごめんと心の中で誤っておこう。というか、何が入ってるんだろう、自分でも作れたりしないかな？
『初めての禁忌：同族喰らい を達成しました』
『ユニークスキル：暴食 を獲得しました』
「………は？」
