ep28 聖女戦 其の三
私の放ったナイフが聖女の首筋に突き刺さる。クリティカルの感触を確かに感じながら、追撃を加えるべく動く。これで倒しきれるほど聖女は甘くないだろう。よって私はここで確実に削りきるべく目を見開いて驚いた顔をしている聖女を蹴り倒し、ナイフを振り上げる。
「っぐぅ」
うめき声を上げる聖女に力の限り振り下ろしたナイフはしかし聖女には届かなかった。白銀の光を帯びた剣に防がれたからだ。そしてその剣の持ち主を見ると
「猫耳騎士ッ!!」
猫耳の護衛騎士が立っていた。こいつは奴隷とフカセツさんに任せたはずなのだが、負けてしまったらしい。だがところどころ鎧に傷やへこみがあり本人もかなり疲弊している様子。かなりぎりぎりの戦いだったのであろう。
「ッチィ!!!」
思わず激しく舌打ちしながら猫耳騎士を蹴りつける。避けきれず顔面にもろに食らった猫耳騎士がぐらつくが、それに追撃は加えず聖女にとどめを刺そうとする。が、すでに聖女は体勢を整えつつあった。クソッ最悪だ。だがまだ間に合う!この際多少のダメージを覚悟でとりあえず聖女にとどめを刺す。
全力で聖女に張り付き、岩竜のナイフを放つ。錫杖に止められるが、さらに力を籠め錫杖を抑え込むと秋月のナイフを無理やりこじ開けた聖女の横腹に突き刺す。素早く引き抜きもう一度突き刺そうとしたところで体勢を立て直した猫耳騎士の剣が横から迫る。
何とか回避するが少し掠って残りの体力が二割を切り、たまらず距離を取って回復をする。
「「ヒール」「ヒール」「ヒール」!!」
クソッこんなことなら回復の効率を上げておくんだった。三回も唱えるのはかなりめんどくさい。そしてもちろん、その隙に聖女もスキルを発動できる。
「エリアヒール」
聖女の言葉とともに聖女と猫耳護衛を緑色の光が包み込む。回復魔法の光だ。これで相手がどれほど回復したのか、そもそも先ほどの攻撃でどれほどのダメージを与えられていたのかはわからないが、状況が悪くなったことには変わらない。最悪だ。
と、ここで聖女が口を開く。
「あなたに、一つ質問があります」
「質問……?」
「あなたはどうして、それほどの力がありながら悪の道に進むのですか?どうして、罪のない人を傷つけ命を奪うことができるのです?」
それは、純粋な疑問、といった様子であった。聖女が心底わからないといった風に私に投げかける問であった。
「ふむ、理由……か」
思えば、深く考えたことなどなかったな。というか、別に深い理由などないのだがだってゲームだし。強いて言うなら楽しいから?素材集めが楽だから?経験値も稼げるし。
しかし、この雰囲気。詳しくはこの問いを投げかけてから聖女の雰囲気が少し変わった気がする。あくまで気がするだけだが。もしやこれは何かのフラグにつながる重要な問いだったりするのだろうか?うーんどうしよう。適当にエピソードをでっち上げてやむにやまれぬ事情から泣く泣く闇落ちした悲劇のヒロインごっこでもしてみようかな?それとも意味深なことを言って儚げな表情とともに軽く笑いかけたりしてみようか?
そして、たっぷり10秒ほど考えた私は、口角を吊り上げ歪んだ笑みを湛えながら告げる。
「ふふ、そんなの楽しいから意外にあるのかい?」
超悪い奴になってみることにした。
その答えを聞いた瞬間、聖女の顔が嫌悪と侮蔑に歪む。まるで人間のクズを見るような眼だな。この場に奴隷がいればさぞかし喜んだことだろう。
さて、どうしようか。聖女サマは何故か先ほどにも増してやる気、というか殺る気満々のようだし、状況は依然二対一と最悪。ここからの勝率などもはやゼロ。
「ははは、まあだからってあきらめたりはしないけどね?」
実はこの戦いが始まってから、かなりテンションが上がっている自分を自覚していた。格上との戦い。やはりゲーマーにとっては心躍る瞬間であろう。
今までのPKではどうしても標的が自分より格下になってしまう。もちろん、蹂躙は蹂躙で興奮するのだが、たまにはこうして格上と手に汗握る戦いを楽しみたくなるのだ。
さあ、戦いに思考を戻そう。と言ってもどうしようか。とりあえず状況を戻さないと、あのゴリラ聖女相手に二対一はムリゲーが過ぎる。となるとあの猫耳邪魔だな。
体力はほぼマックス。MPはあとヒール二回分。最速であの猫耳を潰す。




