ep27 聖女戦 其の二
聖女によるパンチで家の外まで吹き飛ばされた私は全力で回復を行うことにした。
「「ヒール」「ヒール」ヒー…ッ!」
体力を七割程度まで戻したところで聖女が追撃を加えるべく接近してきた。
「聖女が近距離戦闘仕掛けてくるなよ!!」
どうやらこの聖女ゴリゴリの近接ファイターであるらしく、大きく振りかぶった錫杖が先ほどまで私がいた場所を粉砕していた。見た目は華奢な美少女なのに、新手の詐欺だろうか?
地面を叩き据えた錫杖を持ちなおした聖女とナイフ二本を構えなおした私が少しの距離をあけ対峙する。そして次の瞬間恐ろしいことに気が付く。
そう、私は今「憤怒」を使っているのだ。つまりレベル60である私のAGIとSTRが二倍になっているわけなのだが、変なスキルを使っているとはいえ聖女はそんな私と近距離でやりあった、ということになる。つまり、つまりだよ?これもしかして本来は瞬殺されてたんじゃないかってことだよ。
ツーっと変な汗が流れる。憤怒を使用してまだ二分経たないぐらいか?つまりあと三分程度で決着をつけないとやばい。まずいな、ちょっと焦ってきたぞ?
さて、どうしようかと考え始めたところで聖女が動いた。錫杖をくるりと手で回して石突とか言うんだったか?装飾が付いていない側、普段は地面に向いている側をこちらに向けて?振りかぶって?
「投げたぁぁぁああ!?!?」
凄まじい速度で飛んでくる錫杖を何とか回避する。投げるなよ。仮にも聖女なら神杖投げるなよ。てか遠距離攻撃ならそれこそ聖女らしく光のビームでも出せよ。しかしこれはチャンスなのではないだろうか?さっきいくらか打ち合ってみた感じまともな武器もなく「憤怒」ありの私をどうにかできるようには思えなかった。
そうと決まれば突撃あるのみだ。私はこの好機を逃さぬよう全力で距離を詰める。
「付与:速度強化」
バフの重ね掛けによってさらに速度を増した私の体は一瞬で聖女に肉薄し、ナイフを振りかぶり、聖女の手に錫杖が握られているのを視界に収めた。
なぜ!?いや、ちょっと待て、そういえばそういえば最初に錫杖を出した時も急に現れたな。私に答えてうんたらかんたらとか言っていたし、もしやこの錫杖ってどこでも呼び出せるの!?
「こっの!」
放たれた錫杖を秋月のナイフでなんとか受け流し、崩れた体勢からスキルを放つ。
「「付与:筋力強化」「ラガラッハ」!!」
無理な体勢から放たれたスキルは深くはなかったが、確実に聖女にヒットした。さて、このまま追撃を加えてやろうといったところで、自分が着ていた外套を自分の前に広げ、ちょうど聖女と自分との間に布製の頼りない壁ができたような感じだ。そのようにした理由に論理的な物はない。強いて言うなら集中と興奮により鋭くなった第六感、もしくは長年の勘、つまりは勘である。どうしてもこのまま素直に追撃を加えさせてくれるとは思えなかったのだ。ちなみにこの外套は前にツヴァイの町で適当に買った物だ。
そしてこの判断は間違っていなかった。
「一の技・聖杭!!」
そう声を上げた聖女から直径五センチほどの木の杭のようなものが複数射出される。当然聖女と私の間にあった外套を貫通し、全てを避けきることはできなかった私にも多少のダメージはあったのだが、それだけである。体力が残り三割を切ったことを横目で確認しながら、スキルを使う。
「隠密」
スキル「隠密」は本来戦闘中に使うことはしない。自分が相手の視界に入っている状態で使用してもきちんと発動しないし、何とかして戦闘中に相手の視界を遮り、隠密をかけなおしたところで戦闘中の使用では「感知」スキルによる「隠密」の看破に補正がかかるからだ。故に隠密は初めの奇襲や誰かから隠れるときに使用するのが望ましい。だが、それは相手と自分の看破と隠密スキルにあまり差がない場合のことだ。
何が言いたいかというと、つまり補正がかかっても感知スキルによる看破をされないくらいに彼我の「感知」と「隠密」スキルのレベルに差があるのであれば、戦闘中に相手の視界を遮ることにより、「隠密」をかけなおすことができる。
聖女は最初に奴隷の「隠密」は見破ったが、私には全く反応を示さなかった。これが罠で、私に間違った情報を与えるためにあえて護衛の一人を犠牲にしたというのであれば大したものだが、恐らくそうではないだろう。仮にも聖女だし。であるならばこいつの「感知」スキルは2以上7以下ということになる。私の「隠密」スキルは8だから、戦闘中でも十分使えるとなると相手の「感知」が5程度ならいけるかな?検証してないからわからいし、今適当に決めた数字だが。
しかし、今回は成功したようだ。隠密を使用した私は杭を食らった後聖女のすぐ横まで移動したが、聖女に気が付いている様子はない。
いける!!!
「不意打ち!!」
私のスキルにより放たれたナイフは、聖女の首に突き刺さった。




