ep 12 ハジメマシテ
第一回イベント特設フィールド、岩山ゾーンに到達した私であったが、少々困ったことが起きた。いや、到達した直後は順調だったのだ。岩山を上っていたのだが、その道中にはオークとなんかでかいゴブリン?ぐらいしかいなかったからサクサク上ってこれた。だが頂上に近づいたとき、正確にはこの岩山の頂上に大きめのくぼ地があると気が付いたときに、そこになんか強そうな一つ目の巨人がいるのを見つけてしまったのだ。
「倒してみたい……けど、」
あれは私でどうにかできるのだろうか?推定5メートルほどの青い肌をした一つ目の巨人。手には2メートルはあろうかという巨大な棍棒を持っている。
「………勝てる??」
明らかに「ボスですよー」といった風格を纏っているその巨人を発見し、観察を始めてもうすぐ10分。そろそろ覚悟を決めるときであろう。
「よ、よし。やるぞ………私はやるぞ!」
「憤怒」
贅沢に「憤怒」も起動する。というか、ここが使いどころだろう。そのまま背後に回り、気付かれていないことをいいことに距離を詰め、後頭部にナイフを突き刺す。明らかに目が弱点なのであろうが、正面に回るのはちょっと怖かった。
「「付与:筋力強化」、「不意打ち」!!」
ドゴォンッッ!!!!
『300Ptを獲得しました』
「ぇ………」
ゴブリンやオークと違い、頭の一部が消し飛ぶだけにすんだ巨人が膝から崩れ落ちる。
「ぃや………え?」
想定外の状況に思考が止まる。なんだろう、これは。えっと?私の一撃で巨人の頭が消し飛び死んだ。うーんと?私が強い?巨人が弱い?スキルが壊れ?
「スキルの線が一番あり得るな………」
にしても存外あっさりと終わってしまった戦闘に何とも言えない気持ちが駆け巡る。これは、どうしよう?もしかして巨人が弱かったとか………いや、ないな。本当に?いやいや。
「あなた、すごいですね!」
「ヒェッ……!」
背後からの声に変な声を上げながら振り向くと見知らぬ女性プレイヤーが立っていた。いやむしろ私に見知った女性プレイヤーなどいないのだが、それはそれである。
「あ、ぇと………どうも」
クッソ!なんだその返しは!!冷静になれ………私はいける私はいける。
「初めまして。私はフカセツテンといいます。よければプレイヤーネームを教えてもらえますか?」
「………アヤ、だよ?」
くっそしくった!!なんで本名にしたんだ私はぁぁ!!なんか恥ずかしくなってきた………。他のゲームみたいにもう少し考えてつければよかったッ!!
「アヤさん、ですか。ところで、差支えがなければ先ほどのはどうやったか教えてもらってよろしいですか?急に現れたように見えたのですが………私の感知にはなにも映ってませんでしたし………ん?」
そこまで言って背後を振り返るフカセツテンさん。
「どうかしました?」
「モンスターが来たようです」
え?そういわれてフカセツテンさんが向いている方向を向くと、その言葉通りオークがやってきた。
………え、かっこいい。なんでわかったんだろう?私もその強キャラムーブやってみたい!
「なんでわかったんですか?」
「ああ、私「感知」のスキルがレベル4なんですよ」
「感知………」
なんだそれは、そんなスキルのがあるのか?初耳なんだが………
そんなことを考えていたのが顔に出ていたのか、フカセツテンさんが軽く説明をしてくれる。
「………もしや、「感知」スキルを取っておられないのですか?便利なスキルですし、みんなとりあえず取るものだと思っていたのですが………。「感知」を取っていると、モンスターの位置がわかったり同レベル以下の「隠密」スキルを使っているプレイヤーを発見できたりと便利ですよ?というか、「感知」を使わずにどうやってモンスターを発見していたのですか?」
「え、えっと~………。あはは」
そんな便利なスキルがあるのか、とりあえず後で絶対に取ろう。
「と、オークが来たようですね。逃げますか?戦いますか?」
「?いやいや、オーク一体くらいなら当然戦うでしょ……「スラッシュ」」
そう言ってオークを倒し、フカセツテンさんの方を向くと、何やら目を丸くしてこちらを見ていたフカセツテンさんと目が合う。
「アヤ、さん………今のは………スラッシュ?あの、あなたのレベルを聞いても?」
「え?レベル?どうして?」
急にレベルを聞いてきたフカセツテンさんまあそのくらい教えてもいいのだが、一応ポーズとして少し渋ってみよう。
「では、情報交換をしませんか?」
私がレベルを言うのを渋っていると、少し微笑んだフカセツテンさんに………長いな。フカセツさんにそんな提案をされる。
「情報交換、ですか?」
「ええ、まず、アヤさんが私について知りたいことがあればお答えします。加えて、先ほどの反応から見るにどうやらアヤさんはこのゲームの基本的な情報の一部をご存じ無いようでしたので、それらをお教えしましょう。代わりにレベルなど教えてもらってもよろしいですか?」
「………ふむ?」
なんだろうこの取引は。これは私にとって得?それとも損?それ以前にどうしてこの人はそこまで私のことを………いや、まあいいや。
「いいですよ。情報交換しましょうか」
考えることがめんどくさくなってきた私はそう返事をする。その言葉を聞いて笑みが深くなったフカセツさんのことは考えないようにしよう。