ep10 初撃破
アヤはドゥルグ村から少し離れた場所で大イノシシの群れを観察していた。大イノシシを狩りに行こうと意気揚々と飛び出したのはいいのだが、そういえば大イノシシは基本群れで行動する生き物だったのだ。
「まずいな、完全に忘れてたぞ………」
なんとか一匹だけ群れから引きはがす方法はないものか。というより、仮にタイマンに持ち込んだとしても私は大イノシシに勝てるのか?ドーラ曰く大イノシシは大体レベル90前後らしいが、今の私のレベルは58であるし、仮に憤怒を使っても勝てるビジョンが………ん?いやいや待てよ?そもそもレベル58のプレイヤーのステータスを二倍にしてレベル90のモンスターに届かないものなのだろうか。私とあのイノシシのステータス差はそんなに深いか?そんなことはないんじゃないだろうか。
「………不意打ちに一発入れればあとは何とかなる説」
自分のステータスの上の方をちらりと見る。
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アヤ (♀)
Lv.58
0ゴルド
スキルポイント:39
…………
結構スキルポイントがたまってきたが、ここで新しいスキルの一つでも取っておくべきなのだろうか?
本当は一度自分のメインスキルたちを最大まで強化した後に新しいスキルでも取ろうと思っていたのだが、ある程度まで強化するとレベルを上げるのに必要なポイントが膨大になるのだ。例えば、隠密のスキルレベルなんかは今8と表示されているのだが、これを9に上げようと思うと50ポイントも必要になるのだ。ここまで強化しておいて何なのだが、実はこのゲーム、一つのスキルに極振りするよりもある程度スキルを取っておいてレベルをそこそこ上げて、取り合えず次に行くのが序盤の最適解なのではないだろうかと思っている。
だってほら、私って実は隠密と不意打ち以外はしょぼいヒールしかできないし。いや、スラッシュ系もできたな。
ということで憤怒以外の強化系のスキルと、できれば攻撃系のスキルも欲しい今日この頃。スラッシュじゃダメなのかって?いやほら、なんか弱そうじゃん。名前が。
そんな気持ちを胸に獲得可能なスキル欄をスクロールして眺めていると、一つのスキルに指が止まる
『突き穿つ刃 必要ポイント:30』
「高いけど………」
名前がかっこいい。という言葉は飲み込んだ。いやいや、こんなに多くのポイントが必要ということはそれに応じた性能をしているわけで、はい。というかなんでこのスキルだけルビが振ってあるんだよ、いやいや違う。ほら!メインウエポンが不足している私にとってはやはり高額なポイントを支払ってでも取っておいた方がよいのではないかと考えるわけですよねうん。
『突き穿つ刃Lv.1を取得しました』
「さてと、自己強化系スキルは何があるのかな?」
必要経費であったとはいえ、先ほどと比べると随分少なくなってしまったポイントを眺めながら自己強化系のスキルを探す。といっても残り9ポイントでは取れるスキルなどたかが知れているので適当に選ぶことにする。
『付与:速度強化Lv.1を取得しました』
『付与:筋力強化Lv.1を取得しました』
それぞれの強化倍率はレベル1の状態でそれぞれ1.05倍。効果時間は10秒ほどでリキャストタイムは1分。
「うーん。やっぱり「憤怒」ってちょっと壊れてる?割と簡単に取れたし、人権スキルとして他のプレイヤーにも愛用されてたりするのかな?」
まあ、そんなことは今考えていてもわかることじゃないので本来の目的に集中することにする。
「隠密」
スキルを発動し、群れに近づく。少し考えてもいい作戦など思いつかなかったのでもう突撃することにしたのだ。目標はモンスターを自力で一匹倒すことなのでそれでいいだろう。もっとも、突撃といっても不意打ちスタートだが。
コソコソと近づき適当な大イノシシのに狙いを定めた私はスキルを使用し、奇襲を仕掛ける。
「「憤怒」、「不意打ち」」
「ブモォォォォォォ!!!!!」
全力で仕掛けた攻撃は思いのほか効いたようで、大イノシシの側面に深々と傷を作ることができた。
悲鳴を上げた大イノシシによって、私の存在が群れのほかの大イノシシたちにもバレてしまい、こちらに敵意を向けられているのが分かるが、そんなことはお構いなしに攻撃を続ける。
「スラッシュ!」
こちらに振り向いた哀れなターゲットイノシシが自分に攻撃してきた私を心なしか憎々しげな眼で振り返るが、その横顔にナイフを叩きつける。「憤怒」によって爆発的に強化された私のSTRから繰り出された攻撃がイノシシのバランスを崩し、イノシシの顔が地面に叩きつけられる。
背後のイノシシたちがこちらに突撃をしてきているのを感じながらも、もう一撃はいけると判断した私はスキルを起動する。
「突き穿つ刃!!!」
スキルが大イノシシの体を深々と抉り貫いたことを確認した私は急いでナイフを引き抜き、強化されたAGIにものを言わせて全力で離脱を試みる。周りを大イノシシたちの動きをよく見て予測する。後ろから来たイノシシをひらりと横に避け、包囲するように攻撃してきたイノシシたちを飛び越える。今この場においては幼少期の指導を少しありがたく思う。あれがなければここまで余裕をもって攻撃を回避できなかっただろう。
『ワイルドファングを討伐しましたLv.58→59』
避けてる途中そんなアナウンスが聞こえたので、間違いなく最初に攻撃したイノシシは討伐できた。あとは逃げ帰るだけだ。そして私はイノシシたちの追撃を避けながら適当に視線が切れた瞬間で隠密を発動し、無事に村まで戻ることができたのだった。