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おいしいごはんは、いかがですか?  作者: 香田紗季
サルミス編

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8/68

読みに来てくださってありがとうございます。

おかげさまで2/26の日間異世界転生/転移(恋愛)ランキング〈すべて〉182位、〈連載中〉61位に入りました。本当にありがとうございます!

よろしくお願いいたします。

 翌朝食堂で朝食を取ろうとしたダニアは、女性事務官たちに囲まれた。口々に様々な質問をされたが、言いたいことをまとめればこういうことだ。


「昨日街でロン様と手をつないでいたようだが、二人はどのような関係なのか。」


 ダニアはため息をついた。


「先日の地震の際、ロン様は私の故郷に救助隊の一人として来てくださっていました。被災者が王都に移住を希望する場合は王都で受け入れるという国王陛下のお言葉にすがって私は王都に行きましたが、希望する職種での就職が叶いませんでした。それで故郷に戻ろうとしたところ、アルテューマに来たらどうかとお声がけいただきました。ちょうどロン様が休暇でこちらにお戻りになるタイミングでしたので、ご一緒させていただきました。それだけです。」

「嘘よ。だって、近づこうとする女を見れば射殺すような目で見るロン様が、あなたとは手をつないでいたのよ?街ではもう大変な噂になっているわ。」


 はー、ロンが言ったとおり、街へは1人で行けなくなった訳だ。これでロンと一緒に街に行けばまたロンと一緒にいると言われ、違う騎士といれば男をとっかえひっかえしているくらいのことを言われるのだろうと思うと、ため息しか出ない。


「私ここで聞いたの。団長が、この子が店を出すなら自分がオーナーになる、本当は自分の家の専属にしたいって仰っていたわ。」

「ええーっ、団長まで骨抜き?」

「たらし込むのがうまいのね。」


 何とか口の中に皿のものを詰め込むと、スープで無理矢理流し込んだ。ダニアの上空30センチの所で、女性たちの罵詈雑言が飛び交っている。ダニアはそっと立ち上がると、トレーを持った。


「失礼します。」

「待ちなさいよ。まだ話は終わっていないわ!」

「申し訳ありませんが、団長に呼ばれていますので。」

「そうやって逃げるの?」

「あなたは団長とロン様とどちらを選ぶのよ!」


 金切り声が聞こえる。ダニアは凜とした声で言った。


「お二人とも、()()()です。」

 

 ダニアの周りがしんと静まった。


「私は仕事をしに来たのです。婚活に来たわけではございません。公私混同するような行動はいたしません。」


 ダニアが一歩前に出ると、道が開けた。


「それでは。」


 ダニアは食後のトレーを置くコーナーにトレーを置くと、しっかりとゴミを分別して捨てた。


「料理長、ごちそうさまでした!明日からよろしくお願いいたします!」

「おう、明日は朝5時だからな!」

「はい!」


 立ち去ったダニアの後ろ姿をぽかんと見つめる女性たちに、料理長が近づいた。


「あの子は明日から食堂(ここ)で働く。明日から食堂の料理がうまくなるぜ。あんたたち、彼女と同じレベルで料理なんてできないよ。胃袋つかまれる奴は多いぜ、絶対。」


 女性の1人がぽつんと言った。


「何なの?料理長もあの子の味方なの?」

「食堂の3人は味方だ。ついでに、ダニアちゃんに嫌がらせをする君たちの顔はしっかり覚えたよ。」

「あ、あの、ロン様・・・」


 そこにいたのは、怒りを隠しもしないロンだった。


「ダニアちゃんには、俺や王都に出張している仲間がお願いして、故郷に帰るところを無理矢理キャンセルさせてアルテューマに来てもらったんだ。それなのに騎士団内で嫌がらせをするとはね。事務方も信用できないというのは残念だよ。じゃ。」


 女性たちのほとんどは、事務部に勤めるスタッフだ。ロンに叱られて全員シュンとした。


「仕事ができない人なら追い出せばいいのよ。美味しくなかったら、あの人は仕事ができない人って言えるでしょう?」


 そう言ったのは、あの「できる女性文官」ソフィアだ。


「このアルテューマ騎士団は、優秀な人しか採用しないのだもの。もし優秀でなければ追い出されても文句は言わせないわ。」


 みんなうんうんと頷いている。どうやらダニアの前途は多難のようだ。


・・・・・・・・・・


 ダニアが団長のところにいく用事は、本当はない。ああ言えば逃げられるのでないかと思ったが、あまり効果はなかったようだ。それよりも、目の端にいたロンがこちらにやって来たので、後は任せたとばかりに逃げてきてしまった。


 ダニアは寮の部屋に戻ると、薄くて目が粗い綿の布を手に取った。はさみを入れて長方形に切ると、短辺を三つ折りにして紐が通せるだけの幅に縫った。次に長辺を半分に折って、わの部分から三つ折りの部分に向かって細かく縫った。裏返して三つ折りの部分に紐を通す。これを10枚ほど作った。コンソメスープの素となるブイヨンを作るのに必要なブーケガルニを入れるための袋だ。


 ブーケガルニは前世でも「基本」と言いながらそれぞれのブレンドがあったが、トラヴァーさんとダニアの二人で決めた「基本」は、パセリとセロリとタイムとローリエの4種類だ。ローズマリーを入れる人、バジルを入れる人、その後に作る料理によって変える人、変えない人と言った具合で様々だ。このブーケガルニににんじんやジャガイモ、ネギの切れっ端など、その時にある野菜クズ、そして鶏ガラを加えてブイヨンを作る。この袋に全ての材料を入れて煮込めば、後でブイヨンを漉す時にも手間にならない。食堂の鍋のサイズから考えて綿布の大きさを決めたし、10袋もあれば洗い替えできるだろう。


 さっき料理長にクズ野菜を取っておいてくださいとお願いすれば良かった。


 ダニアは沈んだ気持ちがなかなか浮上しないことに、我ながら驚いた。いつもならこんなに沈んだままでいることはない。せっかく料理人として働けることになったのに、こんなに気が重い。ダニアは今までどれだけ周りの人間がダニアのことを見守ってくれていたのかを知った。そして、幼い頃から自分を見守ってきてくれた人たちを奪った地震を呪った。あの地震さえなければダニアはきっと故郷の町で自分の店を出したか、トラヴァーさんの店を手伝い続けたはずだ。あの地震が来る直前まで、ダニアには相談できる大人がいた。今は・・・まだいない。ダニアは元々社交的な性格ではない。ひたすら料理のために修行し続けた人生だ、同じ年頃の娘たちとの接点もあまりなく、どんな会話が好まれるのかさえ分からない。


 急に大人にならざるをえなかったダニア。ダニアのように災害で一人になる人もいるだろう。病気で、事故で、様々な理由で家族を突然失い、独り立ちを余儀なくされる者は世の中に少なくない。ダニアは18歳だったから、成人として1人で考え、決めることができる。幼子だったら・・・途方に暮れただろう。手を差し伸べる大人がいなければ、命をつなぐことさえ危ういのだ。ダニアの町にはいなかったが、あの地震で家族を失った子どもたちは他の町に、村に、きっといただろう。そんな子どもたちの目標になれるように、一人でも頑張れば道は拓けると示したい。


 ダニアの目に力が戻った。そう、やるしかないのだ。好きな仕事で勝負できる自分はラッキーなのだ。恵まれた環境にいるアルテューマの若い女性たちになんて負けてはいられない。ダニアは買ってきたノートにレシピを書き始めた。明日の朝一番にブイヨンを作ってコンソメスープを作る。コンソメスープのおいしさで、今日文句を言いに来た女性たちを黙らせてやる。ブイヨンさえあれば、いろんな料理のベースができる。もっともっと、料理は美味しくなれる。


「見ていなさい、美味しいものであなたたちをブクブクに太らせてやるんだから!」


 あ、それならデザートも用意しないと!


 今後の夕食メニューに、今後アルテューマ騎士団食堂名物「夜のデザートメニュー」が追加されることになったのは言うまでもないことだった。

読んでくださってありがとうございました。

ブーケガルニの材料としてセロリをカウントするか否かという所もあるようですね。にんじんやタマネギはカウントしない人には叱られそうです。

最低タイム・イタリアンパセリ・ローリエがあればいいようです。私は普段そこまでやれないので、固形や顆粒のブイヨン様・コンソメ様のお世話になっております。

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