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おいしいごはんは、いかがですか?  作者: 香田紗季
サルミス編

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読みに来てくださってありがとうございます。

第一部最終話です。が、お料理シーンはありません。

よろしくお願いいたします。

 アルテューマにたどり着いたダニアたちを待っていたのは、アレクサンダー団長たちだけではなかった。サルミス騎士団の幹部、中央騎士団の幹部、そして王都から派遣された「判定士」が、それぞれの事情でアルテューマ騎士団とロン、それにフィルを尋問するためにやってきたのだった。


 フィルは判定士に『ハティ』であることを確認された後、隣国で戸籍を取得してこの国の騎士となり、『ハティ』に情報を流していた点を詮議された。テロ組織のメンバーだったこと、テロ組織に情報漏洩を行ったこと、そしてスパイ活動をしていたこと、ダニアの誘拐、これらを含めて死刑も検討されたが、『ハティ』についての情報が足りないこと、そして『ハティ』が散らばってしまったことなどから、記憶から『ハティ』の情報を洗いざらい搾り取られることになったらしい。罪人扱いなので自白剤を使って強制的に吐かされるのだという。その後については、中央騎士団の管轄下でどうするか決めることになったらしい。


 サルミス騎士団がフィルの引き取りを願ったが、中央騎士団が認めない限りサルミスに戻ることはないと決まった。フィルは、ダニアにもらったローズマリーの小さな鉢植えをテレンス団長に託した。自分の部屋にあるから、それを大事に育てて欲しい、と。


 サルミス騎士団のテレンス団長もまた、フィルがスパイであることを見抜けなかったとしてもう3年サルミスに留め置かれることになった。嫌がらせとしか思えなかったが、権力者たちや金で団長の地位を買ったような者たちにとっては都合がいいのだろう。


 ダニアへの聴取は、あくまで被害者という扱いだったからそれほど負担ではなかった。ただ、ダニア自身がスパイだったのではないかという疑いがあり、それを払拭するのに大変な労力を使う羽目になった。疑いが晴れた後は、ダニアに料理の腕があると分かった中央騎士団の団長に無理矢理王都へ引き抜かれそうになって慌て、アレクサンダー団長から断ってもらって事なきを得た。あの中央騎士団のお偉いさんはどうも怪しいので信用できない。やはり誘拐には今後とも気をつけた方が良さそうだ。


 一番大変だったのはやはりロンだった。判定士によって『ハティ』であることが確認され、1000年の歴史で初めて見つかった『ハティ』かつ「瞳持ち」の扱いをどうすべきか、王家の判断を仰ぐ必要があった。だが、ロンの魔力が現段階ではそれほど高くないこと、また「瞳持ち」としての功績がこれまでに積み上がっていたことが考慮された。何よりも差別こそが『ハティ』をテロリストにしたという経緯から、今後は善なる『ハティ』には市民権を与えるが、他人の財産や身体、命を傷付けることに魔術を使った『ハティ』には厳罰を処すこととなった。


 ロンの立ち位置で最も面倒なことになったのは、ファフニールであるフィーニスの存在だ。ファフニールは始祖が使役したドラゴンである。王家としてはロンからファフニールを取り上げて自分たちが使役している所を国民に見せたい。そうすれば建国以来の伝説を蘇らせた王として国民に支持されるに違いない。そう考えた王はファフニールを献上するよう再三命じた。だが、フィーニスが断固拒否した。


『僕はシグルズとの約束通り、シグルズの子孫と契約した。ロンを排除するというのなら、僕がこの城を壊して君たちを丸焼きにしちゃうよ?』


 詮議の最中にロンとフィーニスは王城に呼び出され、王との謁見に臨んだ。何としてでもファフニールを支配下に置きたい王がロンの命を奪うと言えば、フィーニスは巨大な歯をむき出しにしてこう言った。


『それから、ロンが死んだら僕はまた自由になるだけ。君たちのような腐った奴が子孫だと知ったら、シグルズはきっと残念がるだろうね。あ、そうだ。君たち、王城の地下に王の肖像画が飾られた部屋があるはずだけど、もう一度シグルズの顔を見てきたら?ロンとシグルズは瓜二つだよ?それでも自分の方が僕を使役するのにふさわしいって言うのなら、僕はこの国を滅ぼすことをためらわない。かつてのハティのようにね。』


 フィーニスはその場で火炎を王族専用の庭園に向かって吐いた。王妃が庭にいるのを確認し、王妃に影響がないギリギリの所を狙ったのだ。王妃は卒倒し、三日三晩意識を取り戻さなかった。そして目覚めた後は怒り狂い、二度とファフニールを王城に呼びつけるな、もし王城に入れたなら離婚すると宣言したらしい。王妃に弱い王はフィーニスと王妃をこれ以上怒らせるのは得策ではないと考え、フィーニスのことを諦めた。だがこの一件を見ても、王家がまともに機能していないのは火を見るよりも明らかだ。ロンはこの国のあり方を真剣に考えるべきだと思うようになっていった。


 ロンの扱いは結局、決まらないまま放置された。王家が放置すると決めたのだ。ロンの気持ちは完全に王家から離れた。とはいえ、反旗を翻すわけではない。王家の存続を第一に考えることをやめたというだけだ。


「いいんだよ、俺たち騎士の忠誠は、王家ではなく、国と民に捧げられているのだから。」


 ロンはそう言っていたが、その目は寂しげだった。どこかで別れた遠い親戚が、王でありながらあまりにも杜撰で打算的な政治を行っていること・・・いや、政治を宰相たちに任せて税の無駄遣いにいそしんでいることに、ロンは心底不快感を感じていたのだ。


 結局ロンは副団長の地位のまま、フィーニスとともにアルテューマ騎士団に在籍することを許されたという形になっている。初めはファフニールの姿に怯えていたアルテューマの人々からも、3ヶ月も経てば大空を飛ぶフィーニスに手を振る子どもたちが現れるほど受け入れられるようになっている。とはいえ、騎士団に邪な気持ちで近づこうとする者はフィーニスがすぐに気づいて追い払う。あの男爵令嬢姉妹も、フィーニスに脅かされて騎士団内に心理的物理的に入れなくなったらしい。騎士団内への進入禁止を告げた団長命令が時間と共に忘れられてしまったらしい。アレクサンダー団長が気の毒である。


 そしてダニアは、アルテューマ騎士団の食堂勤務に戻ることができた。マシュー料理長は行方不明だった娘が生きて帰ってきたというようなことを言っているし、ケネスとショーンも妹が帰ってきたと言って泣いている。家族扱いされるのは微妙だが、ちょっとうれしくもある。


 ダニアは羊料理をこのアルテューマ騎士団でも流行らせようと思っている。サルミスとの商売が増えれば、サルミスの人たちの収入も増えるだろう。サルミスにはあんな形で連れて行かれたが、誰もが親切にしてくれた。その恩返しをしたいのだ。


 アルテューマ騎士団からフィーニスの背に乗って飛び立ったダニアとロンは、少し離れた小高い丘の上に下りた。カスクルートの入ったバスケットには、フィーニスの大好物の桃も入っている。この夏、桃を初めて食べたフィーニスはその甘さに感激し、ご褒美に桃をねだった。こうして背に乗せてほしい時には、桃さえ与えておけば機嫌良く飛んでくれる。桃がなくなる時期になったらどうするか、ロンはそんなことを考えながらカスクルートを頬張った。山羊のチーズがいいアクセントになっている。ザカリーはその後もサルミスに商売で何度も行っており、羊は生きたまま連れてきてアルテューマの屠殺業者が捌いている。何度か口にしたマトンやラムの料理は、牛・豚・鶏とは味が違うところがいい。山羊や羊のチーズも入るようになり、南から香辛料、北から山羊や羊という新しい交易品によってアルテューマの町は一団と活気づいている。


「もう1年経ったんだな。」

「そうね。1年前、地震で全てを失ったと思ったけれども、この1年、私すっごく頑張ったと思うわ。」

「ああ、そうだな。大変なことが多かっただろうが、ダニアは本当によく頑張った。」

「ふふ、ロンに認めてもらえるとちょっとうれしいな。」


 ダニアはいつしかロン、と呼ぶようになっていた。それだけ2人の距離が縮まったという証拠だ。


「『ハティ』のことや王家のあり方だとか、解決していないこともたくさんある。だが俺は、この1年でこれから俺が進むべき道が決まったように感じている。」


 ロンは遠くの山々を見つめている。その山の向こうに王都があり、王都を越えた遙か彼方にヴァストークがある。ロンとフィーニスが出会った土地だ。山々の南に行くと地に埋もれたメティ、そしてその遙か南にノトスがあるし、北に向かえば故郷の町、そして遙か北にサルミスがある。王都を囲むようにそびえ立つあの山々は、その形状を考えるとカルデラだろう。


「そういえば、王都で異世界から来た女性に会えなかったな。」

「私のような庶民にはなかなか許可が下りないと思うわ。だって、会う必要がないのだもの。」

「彼女がダニアの料理を食べたがったらどうなるかな?」

「そうなったら、面白そうね。」


 だがダニアはロンにがっしりと横から抱きしめられた。


「駄目。きっとダニアが召し上げられてしまう。」

「それは困るわ。私はアルテューマ騎士団の料理人なんだから。」

「俺の胃を満足させられるのはダニアだけだからな。」


 耳元にささやくロンの声に、ダニアの耳が真っ赤になる。


「いつかは言うつもりだが、まだ俺の立場が不安定だから・・・でも、これだけは。ずっと一緒にいような?」


 真っ赤になったまま頷くダニアだったが、やられっぱなしは面白くない。食べかけのカスクルートを思い切りロンの口に突っ込んでみた。ロンがむせる姿に、ダニアが笑う。アルテューマは今日も平和だ。

 

ここまで読んでくださってありがとうございました。

一旦ここで完結設定させてください。

第二部・第三部の構想はあるのですが、まだまとまりきっていないので・・・お時間をください。

特に、異世界から来た女性との絡みや、王都の魔術師たちとの話等は第二部以降に予定しておりますが、ちょっと検討中なのです。タイトルも今後回収していきます。

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※拙作「ただ幸せに、なりたかった」が、小学館ファンタジーノベル&コミック原作大賞のマンガワン賞を受賞しました。書籍化・コミカライズしていくことになります。よろしければそちらもお読みください。

「ただ幸せに、なりたかった」 https://ncode.syosetu.com/n6828im/



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