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おいしいごはんは、いかがですか?  作者: 香田紗季
サルミス編

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読みに来てくださってありがとうございます。

よろしくお願いいたします。

 ソフィアは、周りの同僚たちから声をかけられるまで、口の中で展開される至福の味に酔いしれていた。


「ソフィア、ねえソフィアってば!」


 体を揺らされて初めて自分の世界に入っていたことに気づき、ソフィアははっとした。そして、ふわっと微笑んだ。


「やられたわね。これじゃ団長もロン様も胃袋つかまれるのも分かるわ。」


 ソフィアはアルテューマに程近い地域を領地とする子爵家の長女だ。妹が2人いるが男子がいないため、ソフィアが婿取りして領地を継ぐことになっている。酪農業が盛んだが、養鶏農家で鳥特有の伝染病が発生すると、その農家は病気を広げないために出荷できなくなる。なんとか収入を得たい農家の中には、病気が見つかっても誤魔化そうとする者が絶えず、子爵家が補償することで何とか病気の広がりを抑えてきた。そんなことをしているから、領民には慕われ信頼されているが子爵家の財政は火の車であり、有能な婿を探してくることが、文官としてアルテューマ騎士団に就職したソフィアに与えられた使命だった。


 優秀なソフィアは、男性文官からも評価が高い上、美人ということもあって高嶺の花扱いされるようになった。それに気をよくしたソフィアは、次第に文官より騎士たちに目が行くようになった。害獣から家畜を守るのに騎士たちの腕が役立つと気付いたからだ。実際に、騎士団には害獣駆除の依頼も入る。


 ソフィアはやがてアレクサンダー団長とロン副団長に狙いを定めた。2人とも生家は明らかにされていないが、その身のこなしからそれなりの貴族の家の出だろうと推測される。後継者であれば定められた年数がたてば除隊していくが、2人とも除隊しないで順調に昇進を続けている。つまり、後継者ではない、婿入りできる人だということになる。ソフィアの中で夢が現実に近づいたような気がした。アレクサンダー団長もロンも、2人とも基本的には女性に冷たいが、業務であればきちんと対応してくれる。ロンとは最近、すこし砕けてきたようで、いい感じかもしれないと思っていた。


 だが、ダニアの存在で目が覚めた。ロンとの距離が一番近い女は自分だと自負していたが、ロン自ら護衛して王都から連れてきたダニアを見る目は、ソフィアを見る目と全く違っていた。ダニアの契約書類の作成を手伝った時にロンが迎えに来たことで、自分とロンの距離を見せつけようと仲良く話し始めたが、突然席を立ってしまったダニアを追いかけてロンは走って行ってしまった。その段階で先が見えた気がしたが、まだ諦められなかった。街でロンとダニアが手をつないでいたという噂を聞いた時には頭が沸騰しそうだったが、よく聞けば渋るダニアの手を無理矢理ロンが掴んで離さなかったのだという情報も入ってきた。


 ソフィアはまだ残っているアイスクリームを見つめた。ベリーのソースが甘酸っぱくて、とても美味しい。チョコレートリキュールやラム酒を掛けても美味しいとか、ソースではなくフルーツを刻んで混ぜ込むのもありだとか、そんな話を料理長たちとしているのが聞こえてくる。


 ソフィアは思った。レシピを買って、うちの領地でも作ろう。そして、アイスクリームを売りにした領地経営を考えよう。そう思っていた時だ。


「冬のアイスもいいんですが外だと食べる気になれないんですよね。その代わり、汗をかくほどの暖炉の前だと最高ですよ。」


 なるほど、それなら冬でも売れる。ソフィアはダニアにはきちんとした目的があるのだと言うことを思い出した。ダニアには料理の知識と技術がある。ソフィアには一通り学校で学んだことと、騎士団の事務官として積み上げてきた経験しかない。ダニアはダニアでしっかりと努力を重ねて今があるのだということが突然すとんと腑に落ちた。


「ダニアさん。私、実家が酪農地帯にあるの。このアイスクリームのことも含めて、いろいろ教えてもらえないかしら?」

「ソフィアさんにお願いがあります。騎士団の事務部で、レシピを希望者には販売する方向で詰めていただけませんか?そうすれば、個人的に単品でレシピが買えるようになると思うんです。」

「分かったわ。会議に掛けてみる。」

「ありがとうございます。」


 ダニアが手を差し出している。ソフィアは一瞬躊躇したが、おずおずと手を差し出した。


「これからも、よろしくお願いいたします、ソフィアさん。」


 ああ、自分の完敗だ。同世代なのに、こんなにしっかりと自分の軸を持っている。おしゃれにも流行にも興味はなさそうだが、自分の目標に向かって、男性の力を当てにすることなくしっかりとその両足で立っている。


「何か困ったことがあったら言ってね。手伝いたいわ。」

「ありがとうございます。」


 ダニア、片付けを始めるぞ、とケネスが呼んでいる。


「私、行きますね。」


 ダニアは厨房に戻ると、食器洗いを始めた。汚れ物を洗うなんて、下っ端とは言え貴族令嬢のソフィアはしたことがない。他の料理人たちと楽しそうに片付けていくダニアが輝いて見えた。


「ね、みんなはダニアのこと、どう思う?」


 ソフィアは寮に戻りながら同僚たちに聞いた。


「いい子よね。ちょっと悔しいけど、お料理の先生になってもらいたいわ。そうしたら、私も美味しいものが作れるようになるでしょう?」

「そうね。ダニアが仕事に慣れたら、お願いしてみようかしらね。」

「いいわね!花嫁修業になるわ!」


 キャッキャと同僚たちが騒いでいる。今日は空気が澄んでいて月がくっきりと見える。迷える子爵領に、ほんのりと道筋が見えたような気がした・・・ソフィアの自信とロンへの恋心は、アイスクリームのように溶けてしまったけれど。


・・・・・・・・・


 アイスクリーム。それがダニアの秘密兵器だった。初日のうちにあの事務部の女性たちを何とかしたかった。彼女たちのリーダーがソフィアだと目を付けたダニアは、昨日のうちにソフィアがどういう人か、どうして騎士団で働いているのか、寮母さんに聞いた。そして子爵令嬢であること、酪農が中心産業だという領地をもっていること、跡取り娘として婿に来てくれる人を探しているのだということを知った。酪農業と言えば、当然乳製品が主な産出品になるだろう。チーズケーキでもよかったが、ダニアの故郷の女性はベイクドチーズケーキよりもレアチーズケーキを好んでいた。タルト生地を焼いてから更に冷蔵を必要とするレアチーズケーキを人数分揃えるのは一に日では無理だ。ならば、地方ではほとんど出回っていないというアイスクリームを作ったらどうかと考えた。冷凍庫さえあれば領地でも作れるのだと気づけば、ダニアのことをただ敵視するのではなく、役に立つ人だと思ってもらえるかもしれない、そう思ったのだ。


 作戦は成功だったが、このやり方が本当にベストだったのかは分からない。良くない方向に行かなかったからよしとしよう、ダニアはそう考えた。


 牛乳、生クリーム、砂糖、卵黄の四つの材料があれば、後は氷と冷凍庫と「手間」で作れるシンプルなアイスクリームを敢えて選んだ。レシピの販売が始まれば、あとは自分でアレンジして、自分好みの味にして、自分好みのトッピングを用意すればいい。今日は女性陣にベリーソースを掛けたが、男性陣には実はラム酒漬けにしたレーズンを一さじ乗せた。好みはソフィア自身がこれから研究すればいいのだ。


 ピーチクパーチクとうるさい文官女性陣はこれでよい。あとは男爵令嬢姉妹をうまくいなす方法を考えないと・・・ダニアは料理で勝負するのだ。

読んでくださってありがとうございました。

寒い日のアイスクリーム、背徳感たまりません。アイスクリームは冷やし始めたら30分おきにスプーンなどでかき混ぜないと、あのふわりとした食感がでません。あれが面倒くさいと思わなければ、アイスいくらでも作れるのに。

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