STORIES 008:香り - scent, aroma, perfume
STORIES 008
「先生、キャンディみたいな匂いがするね」
ある日の空手道場でのこと。
小学校低学年くらいの男の子が、稽古の合間にそんなことを言っていた。
ああ、さっきシャワー浴びて、日焼けした腕にボディローションをつけてきたからかな…
そのころ僕は、指導員として子供たちに教える補助をしていた。
道着を着て帯を締めた汗だくの僕。
キャンディ、か。
随分と甘そうな印象だね。
.
僕はむかし喫煙者だった。
子供が生まれた頃にやめたけれど、それまではかなり吸うほうで…
マールボロとかラッキーストライクとか。
今はタバコの匂いも煙も嫌いになった。
徹底的に嫌いになったから、ようやくやめられたのだ。
例えばホテルの予約で、禁煙の部屋が選べないととても憂鬱になる。
一晩中あの匂いに包まれるのか、と。
自分が喫煙習慣のあった頃は、臭いなんて思ってもみなかったのにね。
まぁ、香りや匂いの感じ方って、そういうものだね。
あんなに好きだったのに、今はもう顔も見たくない人。
それに似てる気がする。
.
「あなたからは太陽の匂いがするよ。洗濯物を畳んだときみたいな。」
そんなことを言われた時もあった。
冬生まれの僕は、寒さより暑さのほうが苦手で、多汗症かというくらい汗をかく。
太っているわけでもなかったのだけれど。
女の子とデートしていても、手を繋ぐのを躊躇うくらい。
でも若かった頃は、自分の体臭なんて殆ど気にしたことがなかったな。
ましてや、太陽の匂いなんて…
その頃はしてたのかな。
今でも、そんな香りを漂わせてたらいいな。
.
二十代の頃の彼女。
付き合い始めるかどうか、くらいの頃に印象的だったのが、プワゾンのあの独特の香り。
恋する気持ちとともに、あのパフュームがとても好きになった。
そしてその香りは…
自分でもたまに、少しだけつけることがある。
彼女と別れてしまった後も変わらない。
今でも、すれ違った女性からあの香りがすると、思わず立ち止まって振り返ってしまう。
もちろんそこに、あの子はいない。
.
ISSEY MIYAKE PARFUMS
L'EAU D'ISSEY EAU DE TOILETTE
L'EAU PAR KENZO pour femme
POISON by Christian Dior eau de toilette
僕の好きな香りたち。