タイトルで話が終わる系の女主人公になった
タイトルで話が終わる系の女主人公になった。
エリーズは転生者だ。
前世はよく覚えていない。
だが、前世から見た今生の世界の自分の事は少しだけ覚えていた。
エリーズ=ド=バーシャル公爵令嬢。
なんと、前世で見た小説の主人公である。
その小説のタイトルは、『異世界の悪役令嬢に転生したのだけど何故か婚約破棄した元婚約者とその相手のヒロインにザマァして気難しいと呼ばれている容姿端麗で優秀な姿も性格もイケメンな貴公子の王弟に溺愛されました 〜あれ?私、冷遇される筈なのにいつの間にか幸せになってる〜 』である。
思いっきり、ネタバレをしていてタイトルで話が終わっている小説である。
中の内容を見れば、まぁ、タイトル通りの事が綴られている。
なんなら、一話目からクライマックスの話が書かれていて、二話目から過去の話で一話目のクライマックスまでの過程が書かれる構成だ。
そして、ただ、延々と主人公があーだこーだとそのクライマックスに向けて長い話数を使って、なんかやる。
タイトルで結末が解っていて、一話目でクライマックスも解っていて、それでもそれまでに長いことなんかやるのだ。
長すぎて、ちゃんと全ての内容を覚えているかといえば、あんまり覚えていない程になんかやるのである。
もちろん、要所要所で物語の根幹的な話はあるのだが、ほぼ大抵の話はクライマックスに向けて主人公が私SUGEEE!!か冷遇されてる筈なのに私溺愛されてる!?をする。
いつの間にか幸せ、というより最初から幸せである、たぶん…。
え、それの何が不満なの?と問われれば、そこまでの不満はない。
それなりに小説の物語も面白かった、と思う。
前世で見た小説の事でタイトル以外は少ししか覚えていないが…。
それでもハッピーエンドだった、と思う。
だが、長すぎて、ダルいのだ。
クライマックスまで、結末まで、なんかやるのがダルいのだ。
そういえば、小説として見た時も途中でダルいと思って、最後辺りまで話を飛ばしていた記憶がある。
タイトルや一話目のネタバレである程度の結果が予想されて解っていたからだろうか。
あぁ、不味い。
タイトルで結末も一話目でクライマックスも覚えているのに、そこまでの過程を覚えていない。
どうしよう…ダルいわぁ…。
いまのエリーズが抱えている不満といえば、それだった。
物語通りに話を進めなければ、ハッピーエンドにはならないかもしれない。
だが、長すぎてやってられない。
前世でも思ったが、物語の作中でこの話のコレやらなくてもよくない?という事が結構な数あった。
しかし、それもちゃんとやらなくては話は進まないだろう、小説の通りにはならないだろう、きっと…。
そして、物語通りにならないと、もしかしたら今生のエリーズはハッピーエンドにはならない…かもしれないのだ。
結果が解っているからと読むのが面倒な話を途中で飛ばすなんて事を、いま現実となったこの世界では出来やしない。
しかし、小説の全ての内容を覚えている訳ではないエリーズとなった自分に小説のエリーズのやった通りにあーだこーだをやる自信はない。
なら、どうする?
どうしよう?
「エリーズお嬢様? 如何なさいましたか?」
前世の事とその前世で見た今生となる小説の事を思い出して、ぼーっと考え込んでいたエリーズにエリーズ付きの老執事であるセバスチャンが心配をして、エリーズへと声を掛けてきた。
「うーん、私、これからどう生きたらいいか分からなくなってしまって…」
なので、エリーズは素直にその胸の内をセバスチャンへと吐き出した。
「ふむ、そうで御座いましたか、なるほど」
それにセバスチャンは笑うでもなく、変に思うでもなく、一つ頷いてエリーズの言葉を真摯に受け止めてくれた。
「エリーズお嬢様は、先達て御年を五歳となられました」
それから、また真面目な顔と声色でエリーズの言葉に真摯な言葉で答えをくれた。
「エリーズお嬢様がこれからをどう生きなされるか、それは誰にも分かりません。しかし、誰もが自分がこれからどう生きるのか分かる者はおりません」
「そう、ね…」
「しかしながら、人にはそれぞれの選択肢…選べる道が御座います」
「なるほど」
「で、あれば、自分がどう生きたいかを考えるのは普通の事と言えましょう。いまのエリーズお嬢様のように…」
「えぇ…」
「その選べる道の数は、また人それぞれによります。なれど、大抵の者は自分が行きたい道、生きたい方を選んで歩んで行くので御座います」
「…そうね」
「現在、エリーズお嬢様は決められたスケジュールにより御勉学の合間のティータイムの御時間で御座います」
「ん?そうね」
「そして、エリーズお嬢様の前にティーとクッキーとが御座います」
「ふむ?」
「どうぞ、お選び下さい」
「え?」
「ティーをお飲みになられるも、クッキーをお召し上がりになられるも、またどちらもなされないのも…それはエリーズお嬢様の自由で御座います」
「自由…」
「はい、自由で御座います」
セバスチャン、前世を思い出した私だから良いが、先日でようやく五歳となった女児にする話ではないわ、それ。
と、至極真面目な顔をしているセバスチャンを見て、エリーズはそう思った。
だが、しかし、前世を思い出したエリーズだからこそ、そのセバスチャンの話は、とても為になる話であった。
そう、自由なのだ。
いくら、いま今生の世界が前世で見た小説だとしても、もしくは、それに酷似した世界だとしても、自由であるのだ。
未来かもしれない物語を、その道筋を知っていたとして、それを辿って生きて行く事をしなくてはならないという訳でもないのだ。
例え、その先が小説のハッピーエンドで無かったとしても…。
いや、むしろ、エリーズが前世を思い出した時点で物語は破綻して、小説通りの生き方をしていては、バッドエンドへと続く道となる可能性もある。
ならば、『異世界の悪役令嬢に転生したのだけど何故か婚約破棄した元婚約者とその相手のヒロインにザマァして気難しいと呼ばれている容姿端麗で優秀な姿も性格もイケメンな貴公子の王弟に溺愛されました 〜あれ?私、冷遇される筈なのにいつの間にか幸せになってる〜 』という世界に転生したエリーズとしての物語を生きるべきなのだ。
そう、言うなればタイトルを【『異世界の悪役令嬢に転生したのだけど何故か婚約破棄した元婚約者とその相手のヒロインにザマァして気難しいと呼ばれている容姿端麗で優秀な姿も性格もイケメンな貴公子の王弟に溺愛されました 〜あれ?私、冷遇される筈なのにいつの間にか幸せになってる〜』の世界に転生したけど私は自由に行きたいと思います 】という物にすれば良いという事だ。
選択肢はある。
ティーも、クッキーも、どちらでもなくとも、あるのだ。
結果なんて、なんとでもなるさ。
「セバスチャン」
「はい、エリーズお嬢様」
「私、選ぶわ…」
「左様で御座いますか」
「読みたいご本があるから、ティータイムの後の今日の勉学は無しよ!それが、私の選択!」
「却下させて頂きます」
「どうしてっ!?自由は!?」
「より大きな自由の為で御座います。エリーズお嬢様が、これからを生きる為に選べる道の数をより多く増やす。御勉学は、その為の物に御座います。どうぞ、私ども大人たちが貴女様を御守り出来る今にこそ…。たくさんの事を学び得て下さいますように、お願いを申し上げます」
なるほど、どうやら、私は確かに溺愛されているらしい。
とりあえず、このセバスチャンには…。