【アフター短編】弟の幼馴染と学園祭を楽しみたい
弟の幼馴染が俺のアパートの前で泣いていた
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のアフターとなります。
読んでない方はそちらを読まれることを推奨します。
雨に濡れて泣いていた弟の幼馴染に手を差し伸べ、長年想いを寄せていた空音と結ばれて少し月日が過ぎた。
知り合いではあったが、幼馴染同士ではなかったのでお互い知らないこともたくさんあった。
少しずつお互いを知り、俺と空音は充実した日々を過ごしていた。
「高校の学園祭か……」
今日は空音に誘われて、招待されたのは空音の通う高校の学園祭。
大学生の俺としては高校とは終わってしまった学業であり、自分の子供でもできなければもう二度と通うこともないと思っていた。
空音、そして弟の陸人が通う共学校。
俺が二人とは違う男子校に通っていたので正直共学校が羨ましかった。
校内に入って、空音の所属するクラスに向かう。
「空音との距離を気をつけないとな」
事前に空音からこう言われていた。
「できれば私と斗真の仲を内緒にしたいんです」
「うん、まぁ……空音が望むなら」
「ほ~~~んとはクラスの一人一人だけでなく、先生や校長先生、用務員のおじさんまで全部に斗真のことを紹介したいんですけど!」
「極端だねぇ」
恋人が俺のこと好きすぎる件について。
ま、俺の方が好きだけどな!
「年の差もあるし、仕方ないよ。高校生からすれば大学生なんておじさんだし」
「何言ってんですか。大学生の彼氏めちゃくちゃ多いですよ。社会人と付き合ってる子いますし」
それはどうなんだろうか。
「いろいろ複雑で……。端的に言うと陸人くんが悪いんです。元々学校中で私と陸人くんが付き合ってると思われていて、そんな中、後輩の子と付き合ったじゃないですか」
「ああ、元はそんな話だったな」
「陸人くんにされたことを吹聴しなかったんですけど、噂はどうしても出てくるじんですよね」
「なるほどね。そんな中で陸人の兄貴である俺と付き合ったって話が出るとまたややこしくなるか」
「そうなんです、ごめんなさい」
「空音が謝ることじゃない」
弟がすべて悪い。
だが弟の悪手のおかげで俺は好きな人と恋人になることができたわけだからちょっと難しい所でもある。
弟がすでにフラれてるのは周知の話っぽいし、これ以上騒がれて弟が引きこもりにでもなったら別の意味で家庭問題になってしまう。赤の他人だったらと思わずにはいられない。
「確か2年生の教室は3階だったか」
空音のクラスの出し物は飲食店だと聞いている。
到着したらメッセージを送ってくれと言っていたのでポチポチとスマホで打って送った。
「斗真っ!」
その瞬間教室の扉ががらりと開いて、空音が飛び出してきた。
最愛の恋人の顔だけでもたまらなく愛しいのにその格好は驚愕に値した。
「えへへ、私のクラスにようこそ」
「……」
「斗真?」
「……空音のメイド服とかマジ生きてて良かったぁ」
「なんで泣いてるですか!」
学園祭でメイド喫茶なんて古今東西使い古されすぎて食傷気味だったんだが、結局の所メイド服が凄いんじゃ無くてメイド服を着た恋人が凄いって話だよ。
フリフリのメイドドレスに身を包んだ空音が可愛すぎた件。
「でも喜んでくれてるってことですよね、やったぁ」
マジで一生お世話されたい。
今日の夜はこの格好でお世話にしてもらおう、決定。
空音に手を引っ張られる。
「では教室に入ってください。みなさん、一名ご来店でーす」
教室はメイド喫茶のイメージで飾りつけがされていた。
客はそんなに入っておらず、空席が目立っていた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
メイド服に身を包んだ女子生徒が一斉に声をかけてくれた。
教室の中を歩いていると何かじろじろ見られてるような気がする。
「あの人やっぱり陸人くんのお兄さんだよね」
「そっくりだぁ。でもお兄さんだけあって大人っぽい」
「結構イケてるかも」
まぁ、陸人もこのクラスにいるわけだし注目されるのは当然と言えるか。
空音の彼氏として陸人の兄貴として恥ずかしくない振る舞いをしないとな。
俺は奥のテーブルに通される。
「ご主人様、こちらの席にお座りください」
俺の彼女が可愛すぎて顔にやけそう。
空音がメニュー表を持ってきてくれる。
こういう所に来てオムライス以外の選択肢はない。
「オムライスとコーヒーのセットを。あと美味しくなる魔法も一緒にね」
「はい、少々お待ちくださいませ」
メイドらしく、綺麗な礼をして空音は立ち去っていく。
そういえば男子の姿が見えない。みんな調理場だろうか。
弟の奴、どうしてんのかね。
どうにもじろじろ見られてやりにくいったらない。
鼻くそでもほじろうなら嫌な噂が流れそうだし、クールに対応せねば。
「お待たせしました~!」
空音がオムライスの乗ったトレイを持ってきた。
たまごにはしっかりとハートマークが書かれており、普通に美味しいそうだ。
ふっふっふ、ちゃんと美味しくなる魔法をかけてもらわないとな。
スマホで録音しておこう。
「ではご主人様、美味しくなる魔法をかけますね」
「ああ、頼むよ」
さぁどんなポーズでやるのか楽しみだ。
その時、空音が急に窓の外を指さした。
「あれ! 何でしょう!」
いきなりの大声につられて、俺は窓の方を向く。
恐らくみんな空音の声につられたに違いない。
窓が見えていたと思ったら急に視界に空音の顔が差しこまれる。
「私の特別な魔法は唇からなのです」
ちゅっと空音は俺の唇にキスをする。
そのあまりの突然の出来事に頭の中の混乱が止まらない。
「美味しくなりますよ、私だけの旦那様」
そんなハートマークのつきそうな言葉にクールに振る舞っていた俺の顔に熱がこみ上げてくる。
なんということをするんだ。俺との関係を隠すんじゃなかったのかよ。
「あと」
少し顔を赤くした空音がぐいっと顔を寄せる。
「可愛いメイドがいっぱいいますけど、私以外に見惚れちゃ駄目なんですからねっ!」
空音はひょいと離れて、大声をあげた。
「うん、見間違えたみたい」
「もー、空音ったら!」
それですませてしまった!?
どうやらキスシーンは誰にも見られなかったらしい。
俺の恋人可愛すぎてマジたまらん。今すぐ抱きしめて大声で可愛いと叫びたい。
空音は仕事に戻り、俺は一人もくもくとオムライスを食べる。
空音が接客に出てから客の入りが増えたように思える。
みんなもしかして空音目当てなのか?
それより魔法のおかげかオムライスがめちゃくちゃ美味しく感じた。
というか……。
「それおにーさんのために空音自身が作った特別オムライスですよ」
違う方から声をかけられた。
それは空音と同じメイド服を着た女の子だった。
「君は?」
「空音のクラスメイトの有紀といいます。それと……」
有紀という女の子は他の人には聞こえないように近づいて声を細めた。
「おにーさんが空音の彼氏であることを知ってる唯一の親友です」
「!?」
びっくりしたが、それもそうか。
明るくて性格の良い空音に友達がいないはずがない。
同性の友人に相談するのは当然だろ。俺から言えることは一つ。
「いつも空音を支えてくれてありがとう」
「ふふっ、そんな言葉が出るなんて、あの人のお兄さんとは思えないですね」
弟がバカなことをしたせいで手放しで喜べないのが複雑だ。
「空音、可愛いでしょ。あの子学校ですっごく人気あるんですよ」
「うん、分かるよ。世界で一番可愛いもんな。人間国宝だよ」
「思った以上にベタ惚れなんですね」
ここ4,5年ずっと空音しか見てなかったからな。
俺にとって至上随一の女の子だ。
「空音はあの人と付き合ってると思われてましたからね。付き合ってないと分かった途端、あんな感じですよ」
別の学年だろうか、空音に声をかけようとする男子生徒が大勢いる。
みんなメイド服の空音に夢中になっていた。
俺、思えば小学校以外で空音と一緒に通ったことがないから学校生活を知らないんだよな
俺は一人ずっと空音を想い続けてたけどこんなにもたくさんの生徒から好かれていたんだ。もうすでに俺と付き合っているなんて分かったら一騒動起きるのも分かる気がする。
もうちょい時間いるよな。
「美人でスタイル良くて、優しくて何でもできる凄い子。でも……」
有紀さんは少しうつむいた。
「空音、お兄さんと付き合うまでかなり落ち込んでたんですよ。根は真面目な子なので、本当に死ぬんじゃないかって思ったくらい」
「弟のことを好きだった時代をよく知ってるからね」
「空音くらい何でもできる子でもこうなるんだって思いました。でもようやく目が覚めたみたいで。空音のことを大切にしてあげてください」
「当然だよ。でも俺だけじゃきっと駄目だ。君も含めて、空音を見守ってほしい」
「私もですか?」
有紀さんは少し戸惑った顔をする。
でも俺は率直に答えることにした。
「ああ、空音が俺のことを明かすくらいなんだからきっと君はすごく友達想いで優しい子なんだろう。どうしても異性で年の差があると分からない部分も多いからね。これからも助けになってくれると俺も嬉しい」
「あの……その、私は空音と違って可愛くないでそんなまぶしい目を向けられると……」
「そう? すっごく可愛いよ」
「……」
なんだか有紀という子の顔が赤いような気がする。
俺はありのままを伝えたつもりだったんだが、気に障っただろうか。
補足しようと思ったら……。
「楽しそうですね、ご主人様」
空音が近づいていた!
なんだかものすごく怒っているような気がする。
空音が有紀さんの方を向く。
「ねぇ有紀」
「そ、空音?」
「一人の旦那様にそんなに長く応対しちゃ、だ・め・だ・よ」
「ひぃ!」
俺の方からじゃ顔色が見えないけど、有紀さんがおびえた顔をする。
次に空音がこっちを向いてきた。
「そしてご主人様。年下の女の子を弄んだらいけませんよ」
「はぁい!」
嫉妬のオーラを圧力で感じた気がする。
やっぱり空音には敵わない、そう思う気がした。
◇◇◇
「斗真、お待たせしました!」
仕事を終えた空音がやってきた。
あの日、雨の中でずぶぬれになっていた格好と同じであの時はこの世の終わりのような顔になっていたけど、今はもう幸せの中にあるような気がする。
制服に身を包んだ空音と合流。いわゆる休憩時間というやつだ。
「斗真と学園祭をまわりたかったんです。楽しみだなぁ」
「あんまりベタベタするとバレちゃうよ」
「それは分かってますけど、来年は受験だし、今年いっぱい楽しみたいじゃないですか」
それは分かる。
それに今のベタベタの関係は次第に落ち着いていくに違いない。
高校3年になった空音。また可愛くなってるんだろうけど、その時俺と空音の距離はどうなっているかな。
「でもこうやって斗真と一緒に学園生活を送りたかったあぁ」
「中高はかぶらなかったからね」
「斗真と同じ大学に通おうかな。でもそれでも1年しかかぶらないんですよね。あ、留年」
「それはいけない」
大学はやっぱり行きたい所に行って欲しいからそれはあまり了承できない。
でも俺も空音と同じ学校に通いたいという気持ちは分かる。
「じゃあ、今日はいっぱい楽しみましょうね。斗真せんぱい!」
俺の彼女が可愛すぎる。こんな可愛い後輩いて欲しかった。
俺と空音は学園祭をまわる。
まわりの目があるから手とかは繋げられないし、関係を聞かれてもお世話になったお兄さんとかしか紹介されなかったけど、満喫できた気がする。
「ここが音楽室です!」
「ここが食堂ですっ!」
「ここが運動場です!」
空音が一つずつ紹介してくれるので俺も学園の生徒になった気分だった。
「ここは……人通りのほとんどない通路脇です」
空音はぴとりと俺の側に寄る。
「ちゅーしちゃだめ?」
ちゅーしちゃおうか!
チューもしながら、店で軽食を取ってお腹を満たし、校舎の中をゆっくりとまわる。
「空音ちゃーん、ウチのクラスも身に来てよ!」
「うん、後で絶対いくっ!」
こうやって見ると空音ってやっぱり人気だよなぁ。
男女問わず声をかけられる。
男子の場合は半分くらいは恋慕の気持ちをもってそうだ。
俺も同じだったからよく分かる。
「空音がミスコン出たら絶対優勝だったのに~」
「えー、私じゃ無理だよぉ」
「ウチの学園でダントツ人気のくせに!」
そんな話もチラチラ。
「ミスコンなんてあるんだ」
「男女共にあるようです。伝統みたいですね」
「空音が出たら確かに一番になれそうだよな」
それだけのポテンシャルはもちろんある。
当然容姿の良さだけではない、みんなに頼られる人気な面も後押しとなるだろう。
空音が一番になったら誇らしいとは思うけど……。
「それでも私は出る気はないです」
空音はにこりと笑う。
「私は斗真の一番だけにしか興味ないので」
俺の恋人可愛すぎるな。一生イチャイチャしたい。
そんな時、慌てた顔をした女子生徒が現れた。
「空音くん」
「生徒会長、どうしたんですか。ずいぶん慌ててるみたいですけど」
彼女はこの学園の生徒会長のようだ。
「実は君も知ってる通り、今日の学園祭のトリを務める学生バンドがあるんだが、ギターボーカルの子が食中毒で倒れてしまってね」
「それは大変じゃないですか」
「誰かいないか! 男子で歌が歌えて、ギターが弾けて、できれば顔が良い人がいい」
その瞬間なぜか空音は俺の方を見る。嫌な予感がして、大げさに首をふった。
「無理だって! そりゃ俺は男子で高校時代バンド組んでたから歌もギターもいけるけど」
俺は一番の懸念点を大声で伝えた。
「イケメンじゃない」
「生徒会長、この人を使ってください」
「助かる! じゃあこちらにお願いします」
「あるぅえ!?」
通じなかった残念!
「斗真、大学祭でやってた言ってましたもんね。私も行きたかったなぁ」
「来年は招待するよ」
「今も活動してるんでしたっけ」
「小さくだけどね。でも結局楽しくやってて、今もセッションすることあるんだぜ」
「へぇ、見に行きたいです!」
俺の彼女ってことで紹介してもいいかもしれないな。
バンドメンバーの悔しい顔が目に浮かぶようだ。
「バンドやるきっかけとかあったんですか?」
「成り行きだよ」
嘘です。女の子にモテたいために始めました。
でも残念ながら俺の通ってた高校は女子禁制の男子校だったんだよな。
文化祭でギターをかき鳴らしても女子が聞いてないんじゃマジで意味ない。
結果的にはこうやって一番好きだった子と付き合えたわけなので成功しなくて良かったのかもしれない。
いったん空音と別れて、トリを務めるバンドメンバーと合う。
即席だけど音も合わせてバンドメンバーとコミュニケーションを取る。
「お兄さん上手いっすね!」
「声もいいし、ギターも決まってる!」
「めちゃくちゃモテたんじゃないですか」
ああ、男にモテたな。
俺はどうして空音と同じ学校を選ばなかったんだ。
予想しておけよ過去の俺!
バンドメンバーと会話を楽しみ、登場の時間がやってきた。
今回俺は代理だからあまり目立たないようにしないとな。
あくまで主役はこの学園に通うこの子達だ。一生の思い出を作ってやらないと。
「ゆーくん、頑張ってね。応援してるから」
「みーくん、がんばれぇー!」
バンドメンバーが控え室に女連れ込んでる件。
この学園祭のトリ務めるぐらいだし、陽キャでモテんだろうな。
何が一生の思い出だ。俺より充実してんじゃねぇか。
空音と付き合えてなかったら爆破してたな、マジで。
「……あ」
控え室を覗く一人の影。
それは今日一度も会わなかった俺にとってたった一人の弟の陸人だった。
目が合い、戸惑う陸人に俺は手招きをする。
あの件があってから当たり前だが少し弟とギクシャクしている。
いい加減この問題も解決したいと思ってた。
陸人が近づいてきた。
「おまえも俺の歌聞いてけよ」
「うん、兄ちゃん昔から上手かったもんね」
「高校の学祭からやってるからな」
「そのときもきゃーきゃー言われてたもんね。男から」
「うるせぇ」
きゃーきゃーどころか野太い声しかなかった。
男子校だったから仕方ない。
「空音、最近凄く元気だよ。見違えるように明るくなって、みんな綺麗になったって言ってる」
陸人のお世話係から俺の恋人になったんだ。心境の変化は容姿としてまわりも気づいていく。
陸人が空音を振ったことは公にはされていなくても、きっとみんな薄々感づいたんだろうな。
「友達から言われて、ようやく自分が最低なことをしたって分かったよ。兄ちゃんに怒られなかったら……ずっと気づかなかったかも」
「そうだな。おまえがやったことと俺が空音を好きだったことは繋がっていても根本は別問題だ。ここで理解しなきゃまた繰り返すだけだぞ」
「……うん、兄ちゃんに嫌われて当然だよ」
「何言ってんだ?」
「え」
やっぱり全てを理解していないようだ。
俺は陸人の頭を兄としてポンと当てるように触れる。
「俺は陸人の兄ちゃんなんだよ。陸人のやらかしは俺のやらかしと一緒なんだ。嫌いとかそんな感情どうでもいいんだよ。血の繋がった兄弟なんだから」
「……めちゃくちゃ怒られたし」
「そりゃ怒るだろ。他の女の子に同じようなことをしても俺は怒るからな」
弟を怒ることは、ある意味自分に対して怒っているのと同じなのかもしれない。
弟を矯正できなかったふがいない兄に対してのな。
さすがに限度はあるけど。
「陸人がちゃんと女の子と向き合うならそれでいいさ」
「……兄ちゃんありがとう。見捨てないでくれて」
赤の他人ならともかく弟を見捨てることなんて絶対に無い。
それにきっと空音も俺が陸人を見捨ててほしいだなんて思ってないはずだ。
「ただ、今更空音が好きだと言っても絶対に渡さないからな」
「あはは……オレは空音のことを幼馴染以上に思うことはないよ。それに二人のためにそう思わない方がいいよね」
兄弟で一人女の子を好きになる。
そうなった先は地獄だろう。
「兄ちゃん。オレが言う資格はないし、何言ってんだと思うけど……言っていいかな」
「ああ」
「オレの幼馴染を……幸せにしてあげてください」
「俺からも一つ。俺が選択を間違えたら幼馴染を守るために俺をぶん殴れ」
これでようやく弟と元サヤに戻れた気がする。
これで俺は兄として陸人と接することができそうだ。
……それでも俺の好きな人を傷つけた罪は決して消えないけどな。
それも酒を飲んで笑って洗い流せる日が来るのだろうか。
◇◇◇
「よし、行こうか」
陸人と別れ、彼女を連れてイチャイチャしているバンドメンバー達に大人の立場でバンドメンバーを引っ張ることにした。
思い出とかどうでも良くなってきたので徹底的に本気出して目立ってやる。
学園祭のトリは校舎の運動場に設営されたステージ。
かなりの力の入れようだ。ほぼ全校生徒、集まってるんじゃないか。
外部の人たちも大勢いる。これは緊張するな。
トリのため司会進行がつき、バンド名とバンドメンバーの紹介がまず始めに入った。
「そして急遽ピンチヒッターで加入したギターボーカルのトーマ!」
ノリの良い紹介に俺は拳を上げて応じる。
「うおおおおおおおおおおっ!」
これまたノリのよい観衆のおかげでテンションも上がってきた。
空音は見てくれてるだろうか。人が多すぎてさすがに分からん。
後ろのバンドメンバーと目を合わせ。
高校時代を思い出すように俺は全力でこの学園祭ライブを満喫した。
3曲を歌いきり、思った以上に楽しかった。
大学祭で歌った曲とは違う系統だったので新たなジャンルの扉を開いた気がする。
喋りはバンドリーダーの高三の子に任せていたので、俺は歓声の余韻に浸っていた。
「ピンチヒッターのトーマさん!」
「おっ! はいはい」
いきなり進行の人に話を振られてる。
「トーマさんはえ……と弟さんがこの学園に在籍してるんですよね」
バンドリーダーからマイクをもらって答える。
「ええ、今回参加させてもらって俺もこの学園に通えば良かったなって思いますよ」
「いや~、トーマさんかっこいいですね! さぞかし大学でもおモテになるのでしょう」
「あはは、そんなことないですよ」
「ずばり、恋人はおられるのでしょうか!」
何という質問をしてくるのか。
空音との関係は隠している手前、応じて話が膨らむとめんどくさい。
でも恋人がいないって言うのも嘘だし、年下ばっかの前でいないアピールはやりたくない。
「秘密ってことにしておきましょうか」
「おおっと、これはチャンスがあるのかもしれませんね!」
ねぇよ。俺には空音がいるんだから。
その時、ステージに花束を持った女の子が上がってきた。
「今回、盛り上げてくれたトーマさんに特別に花束を贈らせて頂きたいと思います」
まさかそこまでやってくれると思っていなかったので正直びっくりした。
花束を持った女の子と目が合うとその子は頬を赤く染め、目をそらしてしまった。
それにしても可愛らしい子だなぁ。空音級の美少女だ。トータルで見ると空音には敵わないけどな。
「お渡しするのは今年のミスコンで優勝した学園のアイドルのみのりさんだぁ!」
ほぉー、ミスコン優勝者とは驚いた。
みのりさんという子から花束を受け取り、礼を言う。
「みのりさん、ライブはどうだったでしょうか?」
進行の人の問いにみのりさんはマイクを持つ。
「はい、凄く素敵でした! わたし感動して涙が出そうでした」
それは言い過ぎだと思うが。
それよりさっきからずっと俺を見てるんだけど……。
「特にトーマさんが凄くかっこよくて、わたし好きになってしまったかもしれません」
「ぶふっ!」
「おぉーと! なんとここに来て学園のアイドルからの告白だぁぁ!」
この流れおかしいだろ! 目がうっとりとしていて、じりじりと迫ってくる。
「じょ、冗談ですよね」
「いいえ、運命だと思いました。わたし、告白はいっぱいされるんですけど、誰とも付き合ったことなくて……トーマさんの歌声を聞いてベタ惚れになりました」
「うっそだろ!?」
「さぁトーマさんの回答はいかに!」
いかにも何も……俺は。
その時だった。
「だめええええええっっ!」
ステージに響いた聞き覚えのある声。
群衆を嗅ぎ分けて、ステージに上がった女の子は……空音だった。
「乱入してきたのはミスコンの最有力でありながら辞退した、2年空音さんだぁぁぁっ!」
「そ、空音」
空音は俺からマイクをひったくる。
「斗真は私の彼氏なのおおおおお! 誰にも渡さないからああああああ!」
全校生徒が見てる中で響き渡る声。
誰もかれもがその状況に注目していた。
こうなってしまってはどうしようもない。正直隠す何も全校生徒にバレてしまったじゃねーか。
だったら俺がやることは一つしかない。
俺は空音からマイクを受け取る。
「そういうわけで俺は空音を心から愛しているので……」
力の限り叫ぶことにした。
「ごめんなさい!」
◇◇◇
「これで気兼ねなく斗真とイチャイチャできますねぇ」
「気兼ねなくという割に全校生徒巻き込んでたけどな」
夜も更け、中央の櫓のようなものを電灯でライトアップし、フォークダンスの音楽が流れていた。
いわゆる後夜祭という奴である。
「俺、参加してよかったのかなぁ」
「特別ゲストで参加したわけですし、いいと思いますよ」
後夜祭を楽しむ高校生達の輪から外れ、ベンチの上で俺と空音は隣り合っていた。
あのステージの件があってから空音は俺の側から離れようとしない。
俺に近づこうとする女子を威嚇している。
「こっちを見て泣いてる男子が複数を見えるんだが」
「ああ、何か後夜祭で時間くれって何人から言われましたけど、ちゃんと断ってるので」
断った理由がこれと知った彼らの気持ちにわりと同情する。
陸人のことが好きだった時代の空音を知っているからな。
やっぱ空音はモテるな。早く高校卒業させてマジで籍を入れたい。
そのためにはもっと俺が大人にならなければ……。
「斗真と一緒にこうやって後夜祭を見れると思ってなかったので本当に幸せです」
「俺もだよ。俺たちは三つ離れてるからな。多少無理しないとなかなか一緒にはなれない」
空音が俺に肩を預けて、俺は空音の頭を引き寄せて、ゆっくりと撫でる。
「ねぇ斗真。一つお願い聞いてもらっていいですか?」
「なに」
「来年も再来年も……その先も私の隣にいてくださいね」
大きな休みに入ったら旅行にいくのもありかもしれない。
二人でたくさんの思い出を作って来年の今日、またこうやって夜空を見上げたい。
空音がたまらなく愛おしく思えてきた。もう誰が見ていても関係ない。
今日最後の俺からのキスを空音は頬を赤らめ、受け入れてくれた。
「やっぱ俺、空音のことが大好きだな」
「……私も」
後夜祭の終わりを告げる声が流れてきた。
空音はクラスに合流しなきゃいけないし、部外者の俺はもう帰るしかないだろう。
だから空音に言っておきたかった。
「空音、俺からも一ついいかな」
「なぁに」
何の警戒もない甘えるような声に俺は自分の気持ちを吐き出した。
「今日の夜、あのメイド服で接待してくんない?」
「やっぱり気にいってたんですね!」
メイドは元々好きだ。空音は大好きだ。つまりそういうことだ。
「仕方ないですねぇ。あなたのために夜はいっぱいいっぱいご奉仕させて頂きます」
指を口に当て、ちょっとセクシーなポーズ取る。
これは期待してもいいんだろうか。特別なご奉仕を期待する俺に対し、空音はにこりと笑った。
「泣いてた私を笑顔にしてくれるご主人さま。大好きです!」
ここまで読んで頂きありがとうございます。
アフターと言いながら一万文字も書いてしまいました。
二人のイチャイチャしかありませんでしたが、書いててとても楽しかったです。
すぐに次の短編を出してランキングを荒らすわけにはいかないのでアフターは当分出さないですが、また気が向いたら書くかもしれません。
短編での日間一位は初めてだったので本当に嬉しかったです。
作品を書く気力が増したように感じます。
本作を気にいって頂けたのであればブックマーク登録や下側の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にして頂けると励みになります。
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それではまた!